人事制度から改革を始めホワイト企業のトップへ
―― 総合建設会社の小柳建設株式会社は、河川や湖沼に沈積した土砂やヘドロを除去する独自工法を持っています。最近ではMR(複合現実)技術を活用して3 次元データを遠隔共有し、建設現場の生産性向上と労働環境の改善を促進するHolostruction(ホロストラクション)事業を展開し、業界の注目を集めています。さらに、日本一のホワイト企業でもあります。
当社は、厚生労働省が認定する「プラチナくるみんプラス(子育てサポート)」「プラチナえるぼし(女性の活躍に積極的)」「ユースエール(若者の雇用に積極的)」を獲得し、経済産業省による健康経営優良法人「ブライト500」にも選出されています。さらには、厚生労働省の委託事業者であるSHEM(安全衛生優良企業マーク推進機構)が公表する「ホワイト企業ランキング」(2025 年5 月版)で同機構対象約2 万8000 社のうち第1位と評価されました。
―― ホワイト企業とは「社内環境が充実して社員が働きやすいと感じる企業」です。そのトップになるまで、どのような社内改革に取り組んできたのでしょうか。
まずは純粋に社内環境を良くしようと様々な取り組みを“同時並行”で行ってきました。
その一例として、人事制度の改革がありました。評価制度と給与制度と等級制度の3 つが整備されないと、人事制度の機能が果たせないと考えております。私の入社当時は、経営者による主観的評価に依存していました。そこで「公明正大に決めた評価でなければ、社員は絶対に納得しない」との強い思いで改善に着手したのが改革の第一歩でした。
そして、従業員が会社の方針を理解した上で業務に取り組み、良好な成果を上げることで高い給料が得られるという“ 評価の仕組み” を明確にしました。これらを社員と共有した結果、徐々に改革への推進者が増えていきました。評価制度と給与制度、等級制度が連動し、人事サイクルが回るようになるまでには時間を要しましたが、人事制度の改革は会社を変革する社員育成のトリガー(引き金)となりました。
理念に基づくDX推進で残業や離職者が大幅減
―― 小柳建設はDX の取り組みでも注目を集めています。
経営理念を実現するために課題解決を最大の目的としています。その手段の一つとしてDXも推進する」という考え方で、課題を“ 見える化” し、全社員で共有しています。
最初に見える化したのは残業時間です。多くの企業は残業実態の解明に積極的ではありませんが、私は曖昧になっていた残業時間を全て洗い出し、その上で目標値を設定、全社を挙げて残業削減に取り組むべきだと考えました。結果として、2023 年度に月間平均残業時間が1人当たり1.4 時間を達成しました。
―― 昨今は人財採用が難しくなっていますが、小柳建設は順調に社員を採用し、成長させています。
新規学卒者に関しては、年間30 名前後の入社希望が寄せられ、その中から10 名ほどが内定を獲得しています。内定辞退率は約20%なので平均すると8名ほどで採用が落ち着いている状況です。採用活動で最初に行うのは、経営理念をしっかり伝えること。それに共感した人が入社するわけですから、理念通りに会社が動いていることが非常に重要です。
当社の経営理念は「事業を通じて人類・社会の進化・発展に貢献する」と始まります。先端的なテクノロジーを駆使して世のため人のために働こう、という意味です。そして「全従業員とその家族の物心両面の幸福を追求する」と続きます。
これは、DXなどの推進により生産性を向上させることで休暇や、就業時間の価値を高めながら、さらに所得を増やすことであり、これら以外にも、働き甲斐や働きやすさを全従業員で今後も実現、追求していきます。結びは「誇りをもって会社を後世に伝えるものとする」です。私はここが最も重要と考えています。属人的な仕事をしている会社は、絶対後世に伝わらないからです。それゆえ明確なルールをつくって仕組みを設け、社員の入れ替わりがあっても、小柳建設の品質を出し続けられることが重要です。そうして各人が最高のパフォーマンスを発揮して公正に評価される環境の整備に尽力しています。
入社希望者には社内見学を通して理念を実感してもらい、「ここで働きたい」と思ってもらいたいです。離職率はここ5 年間で5%以下、新卒入社からの退職者はほとんどいません。
―― 女性の活躍にも積極的に取り組んでいますね。
女性活躍という言葉を多く目にしますが、私たちは女性に限らず、全ての従業員に働きやすい環境を提供したいと考えています。最近では性別問わず「生理研修」を実施し、生理のメカニズムを理解した上で仕事をフォローし合える仕組みづくりに取り組んでいます。
―― 今後の小柳建設のビジョンをお聞かせください。
将来のビジョンとしては、さらに成長した社員の中から新たなリーダーが現れ、次のリーダーを成長させる。それがあるべきチームの姿です。
企業の価値観も変える必要があります。これまでの“ 成長” という概念は、売上げと従業員数の拡大の正比例のような概念であったと思います。しかし、企業を取り巻く経営環境は、時代を問わず変化しているものであって、人口減少が加速する今後においては、より繊細に状況に合わせた経営が求められます。そうした変化を敏感に捉えて実現する仕組みづくりができる人財を、これからも丁寧に育成していきたいです。

新潟県で生まれ、金融会社を経て家業である小柳建設に入社。2014年に社長就任。京セラ創業者である稲盛和夫氏のアメーバ経営を基にフィロソフィを浸透させ、”社員を楽に”との想いからDXを推進。2024年、雇用管理の改善に取り組む企業に与えられる厚生労働省の認定制度において、全国初となる最高位認定三冠を受賞。「DXによる経営課題解決」をテーマに全国各地で登壇。著書に『建設業界DX革命』。