企業の組織の形態には、大きく3つの基本パターンがある。1つ目は「ファンクション組織(機能別組織)」。販売・製造・管理といった機能が組織単位になっているパターンだ。単一事業に多い組織形態であり、各案件を組織単位で分業しているといえる。
2つ目は「ビジネスユニット組織(事業部制組織)」。製品やサービス、エリアなどのカテゴリーを1事業単位として、事業部ごとに販売・製造・調達などの機能を配置するパターンである。カンパニー制もこの形態に近く、独立採算事業として自立させる意思が表れた組織だ。
3つ目は「マトリクス組織」。機能と事業が交差する形をしており、パターン1と2の進化系といえる。事業の変遷に合わせて柔軟に組織を編制できるメリットがある。例えば、エリア拠点別に事業部制組織を組成している企業が、風土も価値観もそれぞれ異なる各エリア固有の既存顧客や社員を維持しながら、新規事業・プロジェクトに応じて職能や機能を横断的に組み合わせるといったことである。
組織を機能させるためには、ヒト・モノ・カネや情報・時間・技術など、経営資源をどのように再配分するかを決めることも重要となる。貴重な資源を、どの分野へ重点的に割り振るか。戦略(ビジョン、中長期経営計画)と現状の組織図を照合してみると、人材の不足と機能の弱体に気付くだろう。
そこで、部課の廃止・統合・新設、人材の採用・育成・処遇などの強化を進める。組織とは、経営理念に従って立てられた中長期ビジョンと経営計画を達成するための手段である。今、何が必要なのか。捨てるか、改めるか、新しく追加するか。目的と手段がうまくバランスするように重点項目を選別し、組織に分けることが重要だ。
策定した戦略を日常業務にまで落とし込み、円滑に推進していく必要がある。ビジョンや中期経営計画を策定する際、1年程度のプロジェクトを立ち上げる企業は多いが、戦略を策定した後、具体的に推進していくためのプロジェクトがないケースが多い。
そこで、いつまでに・誰が・何を実行し、何を成果とするのかを示す「アクションプラン」が必要になる。戦略を実現するための業務の把握と、適切な管理を行うための行動計画である。計画通りに進むことはまれだが、実行したいことを推進するには業務を整理する必要があり、また、うまくいかずに計画を修正する際の指針になる。自社の戦略をマネジメントするためのツールと考えれば良い。
アクションプランを記載する際の留意事項は、現場のメンバーが何をしなければならないのかを明確にすることである。戦略は上からつくり、下に落とすが、実行は下からの積み上げによって計画の達成に近づく。そのため、現場に理解されなければ、本当の意味での戦略になり得ない。
アクションプラン策定に当たっては、KPI(重要業績評価指標)の設定も必要になる。KPIとは、目標達成のプロセスを計測するための指標である。
例えば、売り上げを増やしたい場合、基本的なKPIの公式は「数量×単価」である。営業部門でKPIを設定する場合、この公式は「訪問件数×歩留まり×単価」に展開できる。このうち訪問件数は、新規先や既存先、重要度順(ABCランク)などで分けられる。また、歩留まりは「提案数×決定率」、さらに単価であれば「販売商品数×商品別商品平均単価」などに展開できる。企業のビジネスや業種によってKPIは異なるが、重要なのはKPIを「定数」と「変数」で分けることだ。定数は基本的に「変わらない数字」であることが多いのに対し、変数は「変えることのできる数字」である。
つまり、KPIを達成するには、変数をどう変えていくかだ。それを戦略とひも付けて設定し、目標として掲げる。すると、現場での戦略推進は加速度的に進む。設定を間違えてしまうと、その逆になる可能性も高い。
取締役会や部門会議はあるものの、「戦略を推進するための会議体」を持たない企業は意外に多い。中長期の戦略を着実に実行している企業は、「中期経営計画進捗会議」「戦略進捗会議」などの名称の会議体を設置し、マネジメントを行っている。
会議体で重要なのは、アクションプランに基づくKPIの達成状況を、抜けや漏れなくモニタリングすることである。一度出た結果は変えられないが、出る前に行動を変えれば、結果を変えることができる。また、その修正する時期が早ければ早いほど、最終的な結果は大きく変わっていく。
したがって、変化する行動を起こす時期をなるべく早く見極める必要があり、そのためのツールが会議体である。会議体では、KPIの進捗状況に基づいて課題を洗い出し、対策を練る。進捗管理の期限は四半期または半期ごとに実施していく。最も駄目な会議のパターンは、売り上げや利益の計画数値との差額にとらわれ、責任追及ばかりで対策の議論がないケースである。
外部環境や自社の状況を踏まえた戦略は、一度決めたら過去のものとなる。なぜなら、環境は今、この瞬間から変わっているからである。環境が変われば戦略も適宜、見直さなければならない。
環境の変化に合わせることによって大きな目的を達成できる。経営理念や創業者の志など、自社の信念に当たるものは変えるべきではないが、そこにたどり着くまでの過程や道筋(ビジョンや中期経営計画)は柔軟に変えていくべきである。
個別の施策は、四半期や半期ごとに見直しを実施していく必要があるが、全体の点検については1年に1回、外部環境の変化点を確認し、自社の中期経営計画の実行状況を踏まえて見直すと良い。そうすることで、常に鮮度の高い戦略を推進できる。
企業の成長は人の成長に比例する。社外から新たに採用することに加え、既存社員の成長も不可欠である。とりわけ、戦略ストーリーを実現するためには、「プロフェッショナル人材」が必須となる。
プロフェッショナル人材を多く育成するためにも、階層別の教育や教育システムを整えることが重要だ。特に、現在のデジタル化の波を考えれば、従来の教育コンテンツに、デジタル人材を育成するためのコンテンツを組み入れる必要がある。今は、ITリテラシーが低い企業から順番に淘汰されていく時代である。そのため、最近は旭化成や大林組、サッポロホールディングスのように、「全社員デジタル人材化(DX人材化)」を掲げてデジタル教育を強化する企業が増えている。
本誌掲載の事例13社は、いずれも明確な戦略ストーリーを持ち、持続的成長を遂げてきた企業である。各社に共通するポイントは、次の4点だ。
❶ 本質を見極める
自社はこの世の中に何のために存在し、いかなる価値を社会に提供すべきか。創業の精神や経営理念、ビジョンをあらためて吟味し、その意義と本質を理解することが、事業展開の筋道となる。事業は書物と同じである。ストーリーがない製品・サービスのページを開く人はいない。自社が存在・存続する本質を見極めることが大切だ。
❷ 強みを見極める
自社の強みが分からない、あるいは他の要素を強みと混同している企業が多い。何でもできる「多芸多才」が自社の強みだと思っていても、顧客から見れば全て中途半端で、抜きん出たものが何一つない「器用貧乏」という弱みになるケースも少なくない。自社の真の強みは何なのかを見極めることが重要である。
❸ 顧客を見極める
自社が価値を提供すべき相手(ターゲット)は誰なのか。顧客が見えていない企業は意外に多い。自社の強みを理解してくれる消費者や会社はどこにいるのか。自社の強みで解決が可能な課題を持つ業界・購買層はどこか。現在取引している顧客は“真の顧客”なのか。今一度、さまざまな切り口から自社の顧客を洗い出す必要がある。
❹ 市場を見極める
自社が事業を展開する市場(マーケット)は衰退産業か成長産業か、マーケットトレンド(投資の潮流や消費の流行など)はどう動いているかを見極めることだ。競合過多で価格競争が激しいレッドオーシャンであれば、強みを応用して他の成長市場に“転籍”する、もしくは従来存在しなかった未知の市場を自ら創造するなど、戦略行動を急ぐことが求められる。
経営理念や創業者の思いを文字として表面的に捉えるのではなく、実現可能性を伴った事業計画にまで落とし込むことが、本当の意味での戦略ストーリーとなる。もちろん、戦略を実現するには、経営者や幹部だけでは完結しない。全社員一丸となって戦略を実施していくことが重要である。
そのためにも、事業を成長させたい、会社を変えたいという意識を持つ、経営者の同志ともいうべき社員を1人でも増やすことが求められる。彼・彼女らこそが、自社の戦略ストーリーを推進する真の原動力となるのである。
金融機関にて10年超の営業経験を経てタナベコンサルティングへ入社。クライアントの成長に向け、将来のマーケットシナリオ変化を踏まえたビジョン・中期経営計画・事業戦略の構築で、「今後の成長の道筋をつくる」ことを得意とする。また現場においては、決めたことをやり切る自立・自律した強い企業づくり、社員づくりを推進し、クライアントの成長を数多く支援している。