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コラム
FCC FORUMリポート
タナベコンサルティングが年に1度開催する「FCC FORUM(ファーストコールカンパニーフォーラム)」のポイントをレポート。
コラム 2024.10.01

戦略ストーリー確立による企業価値の向上 石丸 隆太

SWOT分析と3つの方向性

❶ SWOT分析とは
自社のバリューチェーンから導き出された強みや弱み、また自社を取り巻く内外の環境を整理するための有効なツールが「SWOT分析」である。内部環境分析の結果である強み(Strength)と弱み(Weakness)、外部環境分析の結果である機会(Opportunity)と脅威(Threat)を所定のフレームに当てはめていく。

ここで重要なのは、SWOT分析は客観的事実に基づく自社分析、環境分析であり、決して自分たちがやりたいことや主観の入った課題をまとめるものではないことだ。あくまで現状の事実を整理するためのツールである。

❷ 3つの方向性
自社の強みや市場環境の動向、将来に起こり得る未来を考える上で必要なのは、「自社はどのポジションで動いていくか」である。自社が属する市場にはリーダーやチャレンジャー(2、3番手)が存在するだろうし、自社の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)には限りがある。商流上の関係性など無視できない事情も抱えている。それを踏まえながら、次のような自社のタイプ別に方向性を見いだす必要がある。

環境創造型:業界環境の現状および将来の変化を自社で起こそうとするパターン。機会や脅威の先にあるニーズをくみ取り、市場を形成するために動き出すタイプである。破壊型イノベーションや新しい需要を狙った新事業や新商品への投資、業界ポジションを大きく動かすM&Aが代表的な戦略行動として挙げられる。

環境適応型:業界の現状や将来の変化を既定路線として認識し、機会や脅威に対して能動的に取り組み、環境変化に適応していくパターン。競合他社の模倣、事業ポートフォリオの組み直しによる多角化、顕在化した新規需要の獲得などが代表的な戦略行動として挙げられる。

環境分離型:外部環境の変化に左右されずに経営基盤を構築していくパターン。現状の自社を踏まえた上で、経営理念やビジョンの実現に不足している経営資源を補う最低限の投資を前提とする。具体的には、コストの見直しや財務体質の改善、限定的なアライアンスの実施、人材育成などが代表的な戦略行動として挙げられる。

 

市場×バリューチェーンの組み立て方

❶ ビジネスモデルの構築
戦略を具現化するためのビジネスモデルを組み立てる必要がある。自社製品・サービスの付加価値をどのような事業領域に展開し、収益を獲得していくのか、仕組みを検討する。マネタイズ(収益化)を考慮しないビジネスモデルはあり得ず、ビジネスモデルを切り離した戦略構築もまたあり得ない。

ビジネスモデルの基本的な考え方は「自社のこだわりは何か」である。当然、こだわりが付加価値になっていることが前提だが、そのこだわりを軸に自社のビジネスモデルを組み立てる。

こだわりを生かしたビジネスモデルには、次の4つのタイプがある。

① 市場・顧客展開型(マーケティング型):メイン(事業領域)やエリアにおける課題を見つけ、展開するパターンである。世の中に存在する困り事を分析して解決策を提示する、またその周辺領域で事業展開している企業などがこれに該当する。マーケットにおける課題やニーズを面で捉え、自社が保有する資源をどう生かせるかを検討し、勝てる場と勝てる条件を発見する。成功の要素は、いち早く顧客課題を発見するマーケティング力である。先陣を切って攻略すれば、シェアを獲得することができる。

② 追求型(ポジショニング型):自社のこだわりを徹底的に追求し、オンリーワンのノウハウに高めることで、他社に追随を許さないポジションを確立するパターンである。誰にもまねできない技術を持つ企業や、特殊分野・専門領域のニッチトップ企業などがこれに該当する。成功の要素は、自社の技術力や豊富な経験、他社が追い付けないほどのインフラやサプライチェーンを生かし、独自の立ち位置を構築することである。

③ 仕組み型(マネジメント型):自社の管理ノウハウや業務プロセスの仕組みを生かし、他の事業領域や類似のドメインに展開するパターン。特別なモデルではないが、堅実性の高い安定経営企業によく見受けられる。M&Aによる事業取得や新規事業への参入において、在庫管理や製造方法などのオペレーションノウハウを応用して効率化や生産性を高め、コスト面での利点や利便性を訴求できる。

④ 複合型(ハイブリッド型):①~③の組み合わせによってビジネスモデルを形成するパターンである。市場の変化に対応しながら長期にわたって成長を続ける企業は、自社の保有するこだわりを新旧ミックスして変化させ、新しい価値を創出している。

ビジネスモデルとは、ターゲット顧客に対し、どのような付加価値を、どのようなオペレーションで提供するかだ。また、最終的に収益化することが最も重要である。ビジネスモデルを通じてどれくらいの利益(利益率)を確保できるかを設計する。

❷ 戦略の方向性を決める
ビジネスモデルを確認した後は、そのモデルをベースに、長期にわたる展開の方向性を決める。これが戦略である。戦略策定に当たっては、いくつかのフレームワークが広く流通している。代表的なフレームが、前述のSWOT分析を応用した「クロスSWOT分析」である。自社の強みや弱みを市場環境と対比して、何をしなければいけないのかを検討する分析だ。環境適応型や環境分離型の中堅・中小企業が、戦略を考える場合に適しているフレームワークといえる。

クロスSWOT分析において最も重視すべきは、自社の強みを生かして市場のチャンスへ展開していくことである。自社の得意分野で展開するのが最もやりやすく、最も成功しやすいためである。

他にも、「アンゾフの成長マトリクス」という代表的なフレームワークがある。これは前述した環境創造型の大手企業を中心に活用されるフレームワークで、「誰に」「何を」提供するのかといったマーケティング戦略の方向性を整理するための手法だ。

「誰」は市場・顧客を、「何」は事業・商品・サービスを示し、それぞれで既存と新規の2軸を設定して4象限に分類。今後のマーケティング戦略を大きく4つの方向性で検討する。

❸ 差別化の4つのタイプ
戦略の方向性が定まれば、次に実施するのは「差別化」である。よほどの規制業界でない限り、いかなる市場にもライバル企業・商品は必ず存在する。異業種の新規事業に参入しても、新たなライバルが出現するだけで、基本的には競争が起きる。ホワイトスペース(既存市場で他社が未発見の空白領域)やブルーオーシャン(従来は存在しなかったまったく新しい領域)と呼ばれる無風のマーケットもあるが、自社がそこで成功すればすぐに他社が続々と参入してくるだろう。

いずれにしても、企業は差別化を図らざるを得ない。その差別化には、大きく4つの要素がある。

① オンリーワン:唯一無二の製品やサービスを提供し、他社にはない独自価値を提供することである。ラグジュアリーブランド、人気アニメキャラクターのオリジナル商品、期間限定のイルミネーションイベント、知的財産権で保護された商品などがこれに当たる。

② スピード&ネットワーク:どこでも早く着く、欲しい時に届く、待たずに買える、どこでも入手可能で探す手間がないなど、スピードの速さやサービス網を価値として提供することだ。宅配便、コンビニエンスストア、インターネット通販などが挙げられる。

③ ローコスト&ロープライス:価格の安さを価値として提供することである。開発・調達・製造・配送・販売などの工程において、コストを可能な限り下げるための施策を展開し、それを売価に反映させて高回転・大量販売で収益を確保していく。

④ フォーカス&ディープ:特定の領域や場所でのみコスト力、サービス力、スピード力、ネットワーク力などを発揮するパターンである。①~③を特定カテゴリーに絞って提供することで、業界大手に対抗しようとするものだ。

❹ やめることを決める
戦略を推進する上で欠かせないのが、「やめることを決める」ことである。特に、慢性赤字で改善する見込みがない事業は、撤退を視野に入れた検討が必要だ。具体的な基準を設定して、それに抵触した事業や商品、技術開発案件などは、縮小、撤退、廃止といった判断をする。

事業の多角化は社員のモチベーション向上や企業のリスク分散につながる一方で、経営資源が分散して非効率化してしまう。一方、多角化と対極的な事業の再構築においては、よく「選択と集中」がいわれる。これは事業を絞り込み、資源を集中投下していくことであるが、多角化においても重要な考え方である。自社の足元の業績と将来の有望度を見て、現状の資源投下が見合っているかどうかを見極める。

❺ M&Aは戦略構築に必須のオプション
戦略を構築する上で重要な考え方が、「事業ポートフォリオの再構築」である。ROIC(投下資本利益率)やROE(自己資本利益率)、売上高経常利益率、CAGR(年平均成長率)などの向上や新規分野・市場への参入に向け、自社の事業の組み合わせをどう見直すか。不足するノウハウが欲しい、改善に要する時間を短縮したいといった課題を、速やかに解決へ導くのがM&Aである。

PROFILE
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石丸 隆太
Ryuta Ishimaru
ストラテジー&ドメイン 執行役員
金融機関にて10年超の営業経験を経てタナベコンサルティングへ入社。クライアントの成長に向け、将来のマーケットシナリオ変化を踏まえたビジョン・中期経営計画・事業戦略の構築で、「今後の成長の道筋をつくる」ことを得意とする。また現場においては、決めたことをやり切る自立・自律した強い企業づくり、社員づくりを推進し、クライアントの成長を数多く支援している。