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コラム
FCC FORUMリポート
タナベコンサルティングが年に1度開催する「FCC FORUM(ファーストコールカンパニーフォーラム)」のポイントをレポート。
コラム 2024.10.01

環境変化を成長機会と捉える社会価値創造戦略 林崎 文彦:TOPPANホールディングスの戦略解説

TOPPANNホールディングス

 

 

値決めできる「勝てる場」を自ら創造

 

1900年創業のTOPPANホールディングス株式会社は、120年以上もの歴史を刻んできた、印刷業界における世界最大のリーディングカンパニーだ。2024年3月期の連結売上高は1兆6782億円、グループ全体で5万3000名超の従業員を擁する。2023年10月の持ち株会社体制への移行に伴って初めて社名を変更し、「印刷」の2文字を外した。創業から今日に至るまで「印刷」を軸に事業を展開してきた同社にとって、並大抵の決断ではなかったと推測される。

 

同社の原点は「エルヘート凸版法」という印刷技術にある。常に最先端の技術を取り入れ、変革を繰り返しながら成長してきた。コアテクノロジーは「成型加工」「表面加工」「微細加工」「情報加工」「マーケティングソリューション」の5つである。高度微細な印刷技術を応用してエレクトロニクス分野にも進出を果たし、「水と空気以外は何でも印刷できる」と評された。

 

日本の印刷市場が1990年代後半をピークに縮小し続ける中、同社は一時的に収益率を落としたものの、改革を徐々に進めて立て直し、2000年を「第二の創業の時」と位置付けて受注産業からの転換を図っている。

 

競争力の源泉は、1986年に総合研究所を設立して以来、一貫して力を入れてきた最新技術の開発である。現在、狙いを定めている成長領域は「健康・ライフサイエンス」「教育・文化交流」「都市空間・モビリティ」「エネルギー・食料資源」の4分野だ。グループ全体で取り組む事業領域を「創造コミュニケーション系」「情報マネジメント系」「生活産業資材系」「機能性材料系」「電子デバイス系」の5系統に整理し、連結売上高の1.5%程度を研究開発費として毎年投資。グループでのシナジーや多様な企業・研究機関とのオープンイノベーションを推進しながら社会価値の創造に挑戦している。

 

こうした取り組みは、「事業戦略の基本は、自社の保有技術と成長市場との掛け算である」というタナベコンサルティングの提唱とも一致する。環境変化を成長のチャンスと捉え、世の中に一歩先の解決策を提供し続ける。これこそが、日本のみならず世界で価値を発揮し続けるTOPPANホールディングスの戦略なのだ。

 

1995年以降、インターネットの普及に伴ってコミュニケーション手段が紙媒体からオンラインへと変化し、印刷産業の出荷額は減少の一途をたどっている。戦う場を変えずに設備投資を続ければ、供給過多により収穫低減が進む。結果として、印刷業の多くが収益悪化に苦しんでいる。

 

業界全体の風潮として、大手から仕事を請け負うか、大手が手を出さない仕事を見つけるなどして「今ある仕事」を奪い合う気質が強く、最終的には価格が決め手になるケースが多い。また、繁閑差が激しく、閑散期には固定費の負担がのしかかるため、その対策として安易な値引きが常態化しているのも事実である。

 

しかし、印刷業が社会に提供する本質的な価値は、文化・芸術・情報の伝達にあるはずだ。業界が縮小傾向にあっても、なお高い成長性と収益性を発揮している印刷会社は、いずれも印刷から派生するニッチな分野で事業を展開するか、自社の強みを生かしたマーケットへとシフトしている。自社の強みを磨いて、マーケットの細分化や組み替えを行い、価格競争から脱却し、値決めのできる「勝てる場」を創造しているのだ。TOPPANホールディングスは、まさしくその点におけるリーディングカンパニーである。

 

PROFILE
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林崎 文彦
Fumihiko Hayashizaki
タナベコンサルティング エグゼクティブパートナー
大手印刷業界でマーケティング・顧客開発担当を経て、タナベコンサルティングに入社。企業のトップと業績に向き合い、常に新しい方法を模索して、地域の特色を生かした成功事例を次々に生み出している。中堅企業をメインに、中期ビジョン・中期経営計画の策定、BtoBブランド戦略立案、人材開発体系構築、動画を活用した技術伝承、ジュニアボード運営支援など、幅広い分野で多くの実績を残している。また、幹部や若手社員育成も得意としており、クライアントから高い評価を得ている。