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タナベコンサルティンググループの経営コンサルティングの基盤となる考え方や経営トレンドに関するコラムです。
コラム 2026.04.30

「グループガバナンス」の実効性をどう高めるべきか

上場企業子会社が不祥事の発生源に

金融庁と東京証券取引所が上場企業のコーポレートガバナンス改革を進める中、大手企業の子会社による不適切な会計処理や不正取引が相次いでいる。不祥事の内容は子会社の幹部や従業員による会社資金の着服、架空の売り上げ計上や損失の先送りといった不正な会計処理、社員による顧客情報の流出や検査データの改ざん、国家資格の不正取得などさまざま。また、近年は海外子会社での不正行為が増加傾向にある。


不祥事の発覚により第三者委員会を設置した上場企業数の推移を見ると、その半数近くは子会社に関連した事案が占めている(【図表1】)。2015年の「コーポレートガバナンス・コード」(以降CGコード)の適用開始から10年がたち、上場企業各社のグループ経営のリスクが可視化されやすくなった表れともいえるが、同時にグループガバナンスの実効性については課題の多さも指摘されている。


【図表1】上場企業の第三者委員会設置件数の推移

【図表1】上場企業の第三者委員会設置件数の推移

出所:「第三者委員会ドットコム」(運営:ナナイロコンサルタンツ)の年度別公表データを基にタナベコンサルティング戦略総合研究所が集計・作成
※ 同一企業が同一年内に複数回掲載されている場合は「1社」として計算


グループ経営は、親会社(持ち株会社を含む)が資本関係にある子会社や関連会社などを一つの組織体として運営する手法である。親会社がグループ各社に権限を委譲しながらも、全体の戦略や資源配分など統一的な意思決定を行い、企業価値を最大化していく。


複数事業の展開によるリスク分散、グループ各社の相互協力によるシナジー効果、子会社経営を通じた後継者育成などメリットは多い半面、グループ規模が拡大するとガバナンス不全が起きやすいというデメリットもある。


グループ経営では子会社への適切な権限委譲と資源配分が重要な鍵を握るが、親会社の意思決定の範囲を曖昧にしたまま子会社に任せ過ぎると、責任の所在が不明瞭となり統制やリスク管理が効かなくなる。逆に親会社が統制や管理を強め過ぎると、子会社は自律性を失い社員のモチベーションが低下する。親会社が権限と資源(人材・在庫・予算など)のさじ加減を間違えると、往々にして不正行為が子会社で顕在化する。


日本企業の場合、グループを差配する親会社の取締役会の機能が業績管理に偏っている傾向が強く、内部監査・財務・法務などのグループ横断機能が弱い。そのため、誰もが名を知る大企業であっても、グループ会社の経営実態やリスクを把握できていないことが多い。特に、直近はM&Aを積極的に進めてきた企業での不正発覚が続いており、短期・連続的なグループ企業の拡大に内部統制が追い付かなかったことも一因とみられる。


企業グループ全体のガバナンス不全は、上場・未上場にかかわらず経営の属人化やリスク対応への遅れを進め、持続的成長の阻害要因となる。CGコード(補充原則4-3④)でも、「取締役会はグループ全体を含めた全社的リスク管理体制を適切に構築し、内部監査部門を活用しつつ、その運用状況を監督すべき」と定め、グループガバナンスの強化を上場企業に求めている。そのため、複数の子会社や関連会社を持つ大手・中堅企業は、本社の目が届きにくいグループ会社の内部統制不備を防ぐための体制の構築が急務の課題となっている。



上場企業の不祥事の約半数は「グループ会社の不正発覚」

従業員数301人以上の事業者に内部通報制度(ホットライン)の整備を義務付けた「公益通報者保護法」の改正(2022年施行)を受け、従業員や取引先などからの通報を端緒とした不祥事の発覚も増えている。


消費者庁が2024年に公表した調査結果によると、上場・未上場企業(3407社)に社内の不正発見のきっかけを尋ねたところ、最も多かったのは「従業員等からの内部通報」(68.4%)で、「上司による日常的な業務のチェック、従業員等からの業務報告等」(44.8%)や「内部監査(自社・自団体の監査部門による監査)」(41.9%)などを上回った。(【図表2】)


【図表2】不正発見のきっかけ(複数回答、n=3,407件)

【図表2】不正発見のきっかけ(複数回答、n=3,407件)

出所:消費者庁「令和5年度 民間事業者等における内部通報制度の実態調査報告書」(2024年4月18日)を基にタナベコンサルティング戦略総合研究所が作成


一方、内部通報制度の効果については、導入企業(2442社)の81.3%が「従業員のコンプライアンス意識の向上につながっている」、73.1%が「違法行為を是正する機会の拡充につながっている」と高く評価し、「特に効果を感じていない」との回答は9.5%だった。内部通報制度は不正の早期発見・未然防止や法的リスクの低減に向けた有効な手段として浸透しつつある。


なお、公益通報者保護法は2025年6月に改正され、2026年12月1日から施行される。改正法では通報者の範囲拡大(フリーランスを追加)や通報者への報復行為に対する刑事罰の新設(行為者に6カ月以下の拘禁刑または30万円の罰金、企業に対しては3000万円以下の罰金)、通報者の探索や通報妨害行為の禁止などが新たに盛り込まれた。


今後は米国と同様、従業員に内部通報を促す動きが加速する見通しだ。社内リニエンシー制度(不正行為を犯した社員が“自首”した場合に処分を減免する制度)や内部告発者報奨金制度(内部通報者に報奨金を支払う制度)、人事考課で加点評価するなど新たなプログラムを導入する企業も出始めている。形式的な通報窓口の設置にとどまらず、独立性と匿名性を確保しながら、その実効性を担保するための仕組みが求められよう。



「3ラインモデル」によるグループガバナンス体制

グループガバナンスを機能させるには、適切な執行体制を整備する必要がある。その経営システムとして近年注目されているのが、「3ラインモデル」である。(【図表3】)


【図表3】3ラインモデル例(監査役会設置会社)

【図表3】3ラインモデル例(監査役会設置会社)

出所:日本監査役協会ケース・スタディ委員会「グループ・ガバナンスと監査役等の監査について」(2025年11月11日)


これは内部監査専門職の国際機関「内部監査人協会」(IIA、本部:米国フロリダ州)が2020年に提唱した、組織のガバナンスとリスク管理のフレームワーク。具体的には、第1ライン(営業、生産などの現場部門)、第2ライン(総務、財務、人事、法務などの管理部門)、第3ライン(内部監査部門)という三つのラインを構成し、それぞれ親会社内や子会社・関連会社と連携・けん制することでグループ全体のガバナンスを効かせるものだ。


では、日本企業における3ラインモデルの運用とグループガバナンスの課題はどうなっているのか。


日本監査役協会の報告書(「グループ・ガバナンスと監査役等の監査について」、2025年11月)によると、1672社(親会社1041社、子会社631社)にグループ会社のガバナンス上の課題を尋ねたところ(複数回答)、親会社・子会社ともに最も多い回答は「子会社のコンプライアンス、ガバナンス、内部統制などへの理解浸透」で、全回答の半数近くを占めた。次いで「管理部門(第2ライン)がぜい弱」が4割に上った。ガバナンスに対する理解不足や管理部門のけん制機能の不十分さに多くの企業が課題を感じていた。


また、親会社では「海外子会社の統括・管理」や「子会社の管理・監督の担当部署、方法」が3割強を占めた。特に、グループ規模が大きい企業(従業員数1万人以上10万人未満)は前者が57.7%、後者は41.5%と回答割合が高かった。


同報告書によれば、親会社の取締役会では子会社の経営状況やインシデント(異変、問題)、内部監査結果などの報告が行われているものの、グループガバナンスの運用状況について取り上げる企業は多くないという。そのため取締役会がグループガバナンスについて議論を十分に行い、親会社の主導の下で子会社のガバナンスを支援するよう企業に求めている。


また、第1ラインはリスク管理と説明責任、第2ラインは現場支援とモニタリング、第3ラインは第1・第2ラインへの助言など、各ラインの役割と責任を明確にするとともに、それを理解するための教育・研修の必要性も強調している。



グループガバナンスを巡る日本企業の五つの課題

日本企業におけるグループガバナンスの課題は大きく五つある。


第一の課題は、「グループ全体の設計思想の曖昧さ」である。どこまで子会社に任せて、どこから親会社が関与するかという役割分担が明文化されておらず、場当たり的な経営になりやすい。昨今はM&Aを活用した事業多角化や海外子会社の増加により企業グループの“寄せ集め化”が進み、統治対象が急速に複雑化している。旧来の単体経営の発想による経営システムでは、子会社の特性に応じた権限委譲・相互けん制・レポートラインの再設計が遅れ、結果として「現場には見えているリスクが本社に上がらない」、「親会社は数字だけ見て安心する」という断絶が生じている。


第二は、「本社の過度な圧力とインセンティブの歪み」である。トップダウンの強い目標必達要求や赤字忌避の風土は現場に過大なプレッシャーを与え、数字合わせのための不正を誘発する。在庫評価、費用計上時期、引当金、売り上げ計上、取引実在性の確認といった会計上の判断は最初に圧力がかかる領域である。グループ会社は本社との距離や情報の非対称性があるため、「今期だけ整えればよい」「本社には細部まで見えない」という心理が働きやすく、不適切会計や架空取引が発生してしまう。


第三は、「取締役会・監査・内部監査の情報接続不足」である。グループガバナンスは制度を整えるだけでは機能しない。子会社の異常兆候が、誰に、どの頻度や粒度で共有され、どう議論されるかが重要だ。多くの企業では、内部監査部門が不備を把握しても経営トップや一部の役員間で処理され、取締役会や監査委員会、会計監査人との間で十分に連携されないことがある。そうなると個別の指摘は単発の改善事項として処理され、構造問題にまで昇格しない。


第四は、「子会社管理の専門機能の弱さ」である。グループ経営では、財務だけでなく税務、法務、IT、内部統制、与信管理、商流管理など、専門機能の整備が不可欠だ。特に海外子会社や新規買収先では慣行に依存した業務、属人的な運用、文書化されていない承認ルール、会計システムの不統一が残りやすい。こうした状態では親会社が月次数字を受け取っても、その背後の取引実在性や実在庫、適法性までは見抜けない。


そして第五は、「資本市場との対話を意識した説明責任の不足」である。東証は近年、親子上場や持分関係のある上場会社に対し、グループ経営の考え方、少数株主保護、利益相反管理に関する情報開示の充実を求めている。これは単に資本政策の問題ではなく、「親会社は何を管理し、何を管理しないのか」「その結果にどう責任を負うのか」を市場に説明せよという要請である。不祥事対応でも同様で、投資家は金額だけでなく、なぜ見抜けなかったのか、グループ設計や監督体制にどんな欠陥があったのか、是正策が一過性でなく持続可能かを見ている。謝罪や懲戒処分は行うものの、グループ経営モデルを言語化して説明する力が弱い企業が少なくない。これでは再発防止策が単なる“追加ルールの羅列”に見えてしまう。



上場企業が取り組むべき五つのポイント

前述の課題を踏まえ、上場企業が今後優先して取り組むべきポイントは次の五つである。


1.親会社と子会社の役割・権限・報告基準を再設計する
どの案件を子会社決裁とし、どの案件を親会社の承認・報告事項とするかを明文化する。そのためにも「自律性の尊重」と「放任」を区別して統治の空白をなくす必要がある。


2.目標管理と報酬制度を見直し、不正誘発インセンティブを除去する
過度な単年度利益偏重主義から脱却し、目標未達時の合理的説明を許容する風土を醸成して「必達」より「適正な達成」を重視する。また子会社の経営陣の評価に監査の指摘事項の改善状況や内部通報対応も組み込む。


3.取締役会・監査委員会・内部監査・会計監査人の情報連携を強化する
子会社の不祥事の兆候、監査部門の指摘事項、例外取引や長期滞留債権、在庫状況などを定例的に取締役会へ報告する。重要な内部監査の結果が一部の経営陣にとどまらない仕組みを設けるとともに、会計・内部統制・グローバル事業の実務や知見を備えた人材を社外取締役に配置し、監督の実効性を高める。


4.グループ共通のオペレーション統制基盤を整備する
会計方針、在庫評価、収益認識、与信、税務・通関、外部委託管理などをグループ標準化する。ERP(統合基幹業務システム)やデータ分析を活用し、異常値検知、循環取引の兆候把握するとともに、滞留在庫監視を自動化する。特にM&A後のPMI(買収後の経営統合作業)では、システム統合と統制整備を財務シナジーと同等の最重要課題として扱う。


5.説明責任と企業文化改革を一体で進める
不祥事発生後の情報開示においては、損失額や処分内容だけでなく、組織風土・統治欠陥・再設計の内容まで具体的に示す。また、「数字をつくる人」が評価される文化から、「事実を上げる人」「不正を止める人」「忖度しない人」が評価される文化へ転換する。


グループガバナンスの核心は、子会社を単なる連結対象として見るのではなく、「価値創造とリスク発生の現場」として捉えることにある。親会社だけが戦略を握り、子会社に執行を任せるというモデル自体は合理的である。ただ、その前提として透明な情報共有と健全なインセンティブ、実効的な監査、標準化された統制、そして異論を表明できる文化がそろっていることが重要だ。


その前提が崩れると、グループ経営はリスク分散の保険やシナジー効果の源泉とはならず、むしろ不正の増幅装置にもなり得る。上場企業は今後、子会社の不祥事を従業員個人の資質や現場のミスとして片付けるのではなく、グループ経営の設計不良として根本的に捉え直す必要があろう。