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研究リポート
アグリサポート研究会
アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート 2025.10.10

88の戦略プランからなる地域ビジョン達成を目指す持続可能な地域づくりとは えーひだカンパニー

【第1回の趣旨】
アグリサポート研究会は、「アグリ関連分野の持続的成長モデルを追求する」をコンセプトに掲げている。
第10期の1回目は島根県を訪れ、人口減少、過疎化が進む地域の課題解決を持続的経営と結び付けて推進する地域密密着型企業であるえーひだカンパニー取締役、ひだキッチン部長の田邊裕子氏にご講演頂いた。
また本研究会では、その多面的事業の1つを担う「えーひだ市場・カフェ」や、温浴事業の「湯田山荘」を視察した。

開催日時:2025年9月18日~19日

 

はじめに

 

えーひだカンパニー設立のきっかけは、人口減少に対する地域の存続への危機感であった。

 

2015年に「いきいき比田の里活性化プロジェクト」を立ち上げ、アンケートやワークショップを開催して住民の意見を把握することから取り組みは始まった。

 

アンケートで集まった1469件ものアイデアを基に、88項目からなる「比田地域ビジョン」を策定。そして、持続可能な地域づくりを実現する主体として、えーひだカンパニーが設立された。

 

同社の地域に密着した課題解決型の持続可能な取り組みは高く評価され、2018年度にはっ総務省「ふるさとづくり大賞」を、2024年度には農林水産省「農林水産祭(むらづくり部門)」で最高賞である天皇杯を受賞している。


88項目からなる「比田地域ビジョン」

 


 

プロジェクトを成功に導く2つの機能と4つのプロセス

 

えーひだビジョンを根底から支えているのが、地域で街づくりを行う「自治機能」と、その自治機能を発揮するために必要な財源を自立的に生み出す「生産機能」の両輪である。これは、自立した地域づくりを計画的に進める仕組みであり、企業理念においても「自治機能と生産機能の発揮による“地域ビジョン”の実現と「えーひだ」の創造」を掲げている。

 

また、地域づくりや多角的な農業経営の先進事例としては、兵庫県の夢前夢工房を訪問して勉強し、ビジョン作成のヒントとした。

 

その後、「世代別ワークショップ」や「全体ワークショップ」を開き、比田の良いところや、どうしたら良くなるかなどを話し合い、地域についてみんなが話し合える環境も整えた。渡邊氏は講演の中で、「アンケート調査」「先進地の視察」「世代別ワークショップ」「全体ワークショップ」の4プロセスが重要であったと振り返る。

 


自治機能と生産機能の両輪がビジョンを根底から支える

 

ビジョン実現に向けた機能と役割

 

同社の経営理念にもある「 “地域ビジョン”の実現と『えーひだ』の創造」の実現に向けた比田地域ビジョンの88項目の課題を実行していくに当たり、同社は単に利益の追求にとどまらない、地域活性化を中心に置いたユニークな組織体制、行動指針、具体的事業などを展開している。

 

例えば、行動指針では、「にぎやかな地域づくり」「感性の高い比田人を育てる」など自治機能を中心に置き、利益の追求などには言及していない。また、組織体制もユニークである。移住、子育てを手厚くサポートする「生活環境部」、地域のブランディングを推進する「地域魅力部」、具体的な利益創出を担う「比田米プロジェクト部」「ひだキッチン部」「温泉事業部」などがあり、自治機能と生産機能の両輪を推進している。

 

活動の主体となるメンバーは、理念に賛同する地域住民で、共に活動したいというメンバーの中から運営委員会で決定している。また、えーひだの取り組みを応援したいが、直接活動に参加できない内外の方々に対しては、株式を発行し、株主として地域づくりを支援・参画できる仕組みを整えている。このように、同社は自立した地域づくりを地域全体で支える体制を築き上げている。


自治機能・生産機能を支えるユニークな事業部が並ぶ


ひだ米ブランド事業


水稲防除事業


畑作事業は小麦、そばなどの栽培や販売を手掛ける

自治機能と生産機能をサポートするユニークな各種事業

 

自治機能と生産機能を各事業部が推進する具体的施策もまたユニークであり、1つ1つが“わくわく感”を想起するビジネスモデルとなっている。

 

例えば、総務部の「地酒プロジェクト」「株主優待事業」、生活環境部の「移動スーパー」、比田米プロジェクト部の「各種農業関連の受託」「比田米ブランド化」「そば栽培」「水稲栽培事業」、ひだキッチン部の「えーひだ市場」「カフェ事業」「温泉事業部」などが挙げられる。

 

本研究会で視察したえーひだ市場やカフェなどは、地元の米を生かした「玄米甘酒チーズケーキ」や、地元のブルーベリーを使用したアイス、比田の小麦や玄米を使用した「恵のサンデー」など、こだわりのスイーツメニューを提供している。

 

同社は、常に“わくわく感”を絶やさない環境を地域全体を巻き込んで取り組むことで、「えーひだブランド」を持続可能なものにしているのだ。


研究会で視察したカフェでは、特産品の販売も行っている


比田の素材を生かしたスイーツ


温浴施設「湯田山荘」


移動販売事業


比田ブランド酒とオリジナルラーメンなど、比田の特産物を使ってユニークな商品を開発、販売

PROFILE
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田邊 裕子氏
えーひだカンパニー株式会社
取締役