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研究リポート
アグリサポート研究会
アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート 2025.10.10

高度に自動化された大規模施設による水耕栽培で、次世代の農業を創造していく アド・ワン・ファーム

【第6回の趣旨】
アグリサポート研究会は、「アグリ関連分野の持続的成長モデルを追求する」をコンセプトに掲げている。
第6回は、北海道に訪れアグリ分野において先進的な取り組みを行う企業を視察。1日目となる今回は、アド・ワン・ファームの代表取締役である宮本有也氏と専務取締役の山口敏樹氏の案内のもと、高度に自動化が進んでいる大規模施設農業の現場を視察し、今後のビジョンについて貴重なお話を伺った。

開催日時:2025年7月10日~11日

 

はじめに

 

アド・ワン・ファームは、2010年に施設農業を手掛けるアド・ワンから生産部門が独立する形で設立され、リーフレタスなどの養液栽培培事業を開始した。

 

その後、北海道内各地に農場を設置して事業を拡大。自動制御栽培システム「MGS (Moving Gutter System)」を導入するなど、システム化とデータ管理による省人化・安定生産にも積極的に取り組む、北海道の水耕栽培におけるリーディングカンパニーである。


総面積15480㎡を超える敷地において、年間550万玉ものリーフレタスの安定生産を行っている

 


 

水耕栽培で野菜を育成する最新施設「MGS」

 

「MGS (Moving Gutter System)」とは、苗を乗せたガター(栽培ベッド)が自動制御によってハウス内を移動する栽培システムである。作業者が移動して管理を行う従来の水耕栽培とは異なり、「人が動かなくとも、野菜が動いてくる」という画期的な生産体制によって、作物の安定供給や従業員の負担軽減といった多くのメリットをもたらしている。

 

太陽光に加え、LEDライトによる補光も行い、十分な光を受けて成長した苗は3~5週間で収穫期を迎え、1日当たり約12000~15000玉の収穫が可能である。また、栽培日数や収穫量は全てデータで管理され、年間を通じた計画的な生産を実現している。

 

天候に左右されず、365日種まきから収穫までを行えるこのビジネスモデルが、スーパーや外食産業への安定供給を可能にしている。さらに、栽培工程の大規模な自動化によって、作業者は定位置で効率的に作業できるようになり、労働負担の軽減と生産性の向上を実現した。「MGSが、アド・ワン・ファームを担うシンボルになって欲しい」と、宮本氏は語る。

 


MGSの導入によって栽培作業は大幅に効率化され、最小限の人員での栽培を実現。
また、生産体制においては衛生管理を徹底している

 

初期投資の課題と加工食品市場への進出

 

水耕栽培やハイテク農業は、初期投資が非常に高額なハイリスク事業であり、1000㎡(平方メートル)規模の施設を建設するだけで1億円以上のコストがかかると言われている。

 

また、金属造構築物(ハウス)は14年、農業用設備は7年という減価償却期間が設定されており、その期間内に投資を回収し、利益を確保しなければならない。需要の変動による取引価格の上下が激しい市場環境において、計画通りの収益を確保することが同社にとって大きな課題であった。

 

こうした課題を克服するため、同社は外食産業や加工食品市場へのアプローチを強化した。特に、年間を通して安定した需要が見込めるカット野菜や粉末野菜の製造を手掛けることで、市場価格の変動に左右されにくい収益モデルを構築している。初期投資のリスクを最小限に抑えつつ、戦略的に事業を展開する姿勢が同社の成功の鍵となっている。

 


カット野菜や粉末野菜の製造といった加工段階までを自社で一貫して手掛けることで、
提供価値の向上と安定した収益モデルの構築を実現している

 

アド・ワン・ファームの理念と今後の取り組み

 

宮本氏は、「MGSを導入した水耕栽培だけでなく、ヨーロッパの栽培手法である『ハイワイヤー方式』(ワイヤーで作物の茎を誘導し、日光吸収や収穫の効率を高める手法)といった新たな技術をいち早く取り入れ、常に農業分野のトップを走り続ける企業で在りたい」と語る。

 

技術革新がさらに加速する今後の時代において、アド・ワン・ファームは先進的かつ安定的な技術の発展を追求し続ける。そして、そのビジョンに共感する社内外のパートナーが持つ新たな力や発想を取り入れ、次世代の農業を創造していくことを今後の展望として掲げる。


ハイワイヤー方式により栽培されるトマト

PROFILE
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宮本 有也氏
株式会社アド・ワン・ファーム 代表取締役