その他 2025.07.30

顧客を理解し、最適なアプローチを導き出す ミスミグループ本社

ミスミグループのAIプラットフォーム「meviy(メビー)」は、機械部品調達を革新。2019年の本格始動から国内外20万人のユーザーを獲得し、国内シェア4年連続ナンバーワンを築き上げた。成長をけん引する営業・マーケティング戦略に迫る。


「meviy」で製作された機械部品。商品バリエーションは800垓超

デジタルモデルシフトで競争力を強化

電子機器やベアリングの卸売会社として1963年に創業したミスミグループは、1977年に機械部品の標準化を手掛け、カタログ販売を実現。以来、半世紀かけて商品バリエーションを800がい(1兆の800億倍)超まで広げ、高品質・短納期で機械部品を調達できるインフラ的な存在として、製造業の生産性向上に貢献してきた。

しかし、星の数ほどの商品をもってしてもなお、カタログ販売で提供できるのは、ものづくりの現場で必要とされている機械部品の約半分。標準化できない複雑な形状や特殊素材の部品までは提供できていなかった。

meviyは、その限界を突破しようと同社が新たに開発した革新的なサービスだ。40年にわたり定着していた「カタログから選ぶ」スタイルから、お客さまが自由に設計したデータを基に、「カタログのように」価格と納期がその場で分かり、短納期かつ低価格で届けられないかと、 発想を転換したのである。お客さまが設計した機械部品の3D CADデータをアップロードすると、AIが価格と納期を即時に算出。発注した瞬間にデータが同社の生産拠点に送信され、製造が開始される。品質はもちろん、最短1日出荷という短納期で、ものづくりの現場に部品を届けることで「時間価値」を提供しているのだ。一般工業用途であれば、個人事業主・法人を問わず無料で誰でも使えるプラットフォームで、切削、板金、溶接などさまざまな加工方法に対応。1点ものから量産まで多種多様なものづくりに活用できる。

このサービスが生まれた背景には、中小規模の町工場をはじめとする技術力の高い加工会社の多くが、3Dデータに対応していないという実状があった。その場合、設計者は個々の部品の紙図面を手作業で作成し、ファクスなどで見積もり取得や受発注を行わなければならない。つまり、部品の調達プロセスにおける膨大な負担が、製造業のボトルネックになっているのだ。

meviyは、この課題を解消して、設計者や購買担当の負担を劇的に減らすことに成功した。例えば、1500点の部品を必要とする設備を作る場合、部品の調達から完成までおよそ1000時間かかっていた工程が、meviyを使えばわずか80時間で済む。

同社は非常に大きな機械部品市場において部品調達のイノベーションを実現した功績がたたえられ、2023年に「第9回ものづくり日本大賞 内閣総理大臣賞」を受賞した。

 


機械部品の見積もりや製造をデジタル化した「meviy」
出所 : ミスミグループ提供

「圧倒的顧客目線」 で継続利用を促進

しかし、どんなに素晴らしいサービスでも、「知ってもらう」「使ってもらう」「継続的に使ってもらう」ことは容易ではない。meviyのマーケティング戦略を統括するIDマーケティング推進室ジェネラルマネジャーの大川英恵はなえ氏は、ローンチ当初の状況を次のように振り返る。

「集客からリードの獲得、受注、アフターフォロー、利用促進まで、営業担当者が全て1人で担当していたため、結果的に手が回っていない状況でした。『meviyで生産性を向上させましょう』とうたいながら、当社の生産性が低かったら本末転倒です。

そこで、製造業の基本に立ち返り、営業・マーケティングのプロセスにおいても「3M」(ムリ・ムダ・ムラ)を一掃しようと体制を見直しました」

新体制の構築に当たっては、顧客関係管理ソフトウエアを導入して顧客データの基盤を構築。「The Model(ザ・モデル)」という営業プロセスモデルに基づき、サービスに対する顧客の認知・利用状況を「未認知」「認知未購入」「一般顧客」「ロイヤル顧客」という4つのステージに分類した。そして、各ステージに専任の担当者を配置し、ロイヤルカスタマーを創出するまでのアプローチに抜け漏れや重複が生じないよう、各ステージで取り組むべきことを絞り込み、「分業」に徹することにした。

また、マーケティング部門は「データマーケティング」「Go To Market」「ブランド戦略」の3チームに分かれて、活動の目的を明確化。3チームが連携し、圧倒的顧客目線を部門の戦略に掲げ、常識に捉われないマーケティングモデルを開発。情緒価値の醸成をグローバルに推進してきた。また、デジタルデータからお客さまのインサイトを発見し、meviyの持続的成長を実現するコミュニケーションを実行している。

一方、顧客理解を深めるうちに、meviyを初めて利用した顧客が操作方法を十分に理解できず、データのアップロードに失敗して離脱するという課題が見えてきたと大川氏は語る。

「当初はウェビナーで操作方法を周知していたのですが、次第に集客数が伸び悩み、これ以上コストをかけても費用対効果が見込めない状況でした。そんな中、チームメンバーから『見る人たちがもっと共感して楽しめるように、ウェビナーからYouTubeに切り替えたい』と提案があり、2023年10月にmeviy公式チャンネルを開設しました」(大川氏)

新しい挑戦は会社支給のスマホ1台で、すぐに開始されたという。

「スタジオは社内の会議室です。当初はマイクも照明もグリーンバックも特別な機材は使っていません。企画・台本・撮影・出演は全て自前で、サムネイルと動画編集だけ外注していました。動画1本当たりの予算は1万円程度です」(大川氏)

YouTubeでは、発案者である営業経験豊富なチーフディレクターが、meviyを使い始めたばかりの初心者役を演じ、さまざまな相手役とコミカルな掛け合いを繰り広げながらmeviyの機能を分かりやすく解説している。日々、顧客のもとに足しげく通い、フェイス・ツー・フェイスの対話を重ねているからこそ得られる「圧倒的顧客目線」で制作した親しみやすい動画はたちまち反響を呼び、接触者数はウェビナーの12.2倍に。それに伴い、meviyの初回購入者数も5倍に急増した。広告の費用対効果は目標の20倍を上回り、「日経クロストレンドBtoBマーケティング大賞2024」の「コンテンツ部門」で部門賞の栄冠に輝いた。「安く早く」を意識して、現在は3日に1本のペースで企画制作し、これまでに制作した動画は320本を超えるそうだ。

「私たちは常に、『誰に』『何を』『どのように見せるか』『見せた後どのような行動を取ってもらいたいか』という訴求内容を明確にすることから始めます。未認知の人に向けたサービスの紹介だとしたらどうあるべきか、認知はしているが未購買の人の不安や疑問を解消するにはどうしたら良いのか、リピーター向けに新商材を訴求するとしたらどうしたら良いかなど、顧客の状況を具体的に描くことで、打つべき施策が自然と見えてきます」(大川氏)

 


YouTubeチャンネル「株式会社ミスミmeviy – メビー」では、meviyの操作方法や利用することによるメリットを発信している。https://www.youtube.com/@meviy-399

唯一無二の創造的なものづくりを支援

meviyの裾野を広げている第2の取り組みは、「meviy for education」である。これは、ものづくりに挑戦する学生を応援しようと企画した特別プログラムで、審査を通過した教育機関にmeviyで使えるクーポンを発行するというものだ。

2023年以降、50団体以上を支援。中にはNHKの「学生ロボコン2024」で準優勝に輝いた団体もあったという。

「meviyには、アップロードした3Dデータの製作の可否をAIが判定し、製作するための修正案を提案する機能が備わっています。また、価格と納期をすぐに確認できるので、使い続けるうちにコスト感覚を身に付けられます。高齢化や後継者不足に直面している製造業において、人材育成は喫緊の課題です。meviyを通して『製造業って面白そう!』と思ってくれる若手人材を少しでも増やしていけたらという思いで企画しました」(大川氏)

同プログラムは、全社広報チームと連携したPR活動によって、多くのメディアから注目される一大イベントになりつつある。すでに全国の大学や高等専門学校の約3割で活用されているmeviyだが、まだまだ伸びしろは大きいようだ。

meviyが多くの新しい顧客を獲得できている最大の要因は、画一化による人間不在のDXではなく、人それぞれの多様なものづくりを支援する個性尊重のDXだからではないだろうか。2024年9月にリリースされた拡張サービス「meviy マーケットプレイス」では、3Dプリンターなど、meviyでは対応していない加工方法も、対応可能な製造パートナーとお客さまをAIでマッチングして、「唯一無二のものづくりがしたい」という思いに応えている。同社の考えるDXとは、単に「人の手」を減らすことではない。

「知ってもらって、使ってもらって、好きになってもらう。そのために、今後も顧客を知る活動を続けます」と、大川氏。ミスミグループは、meviyを皮切りにデジタルモデルシフトを推進し、新しい商品・サービスを今後も展開していく方針だ。

 


ミスミ IDマーケティング推進室 ジェネラルマネジャー 大川 英恵氏

(株)ミスミグループ本社

  • 所在地 : 東京都千代田区九段南1-6-5 九段会館テラス
  • 創業 : 1963年
  • 代表者 : 代表取締役社長 大野 龍隆
  • 売上高 : 4019億8700万円(連結、2025年3月期)
  • 従業員数 : 1万1064名(連結、2025年3月現在)