SDGs委員会メンバー(左から)
アドバイザー 別所 明彦氏(執行役員 管理本部長)
副委員長 アウターブランディングチームリーダー 鳥越 寛史氏(開発部 材料開発グループ)
委員長 北村 祐一氏(総務部 情報システムグループ チームリーダー)
委員 アウターブランディングチーム 上野 健一氏(業務部 副部長)
副委員長 インナーブブランディングチームリーダー 岡田 卓也氏(生産部 ファイングループ ファインチームリーダー)
「顧客と社員に選ばれる」
「ブランディングにつながる」SDGsを始動
高度な開発力・技術・対応力を強みに、最適な調合で顧客のニーズに応じた樹脂を提供し、顧客の製品開発における課題を数多く解決してきたサンユレック。国内だけでなくアジアや欧州にも展開し、2014年には「グローバルニッチトップ(GNT)企業100選」(経済産業省)に選定されている。
「あらゆる業界・業種、海外からも需要があり、『絶対に必要で、ないと困る』ものとして認知されているものの、国内需要だけでは今後の事業拡大や利益の成長、社員待遇の向上が厳しいため、より積極的な海外市場展開を見据えています」
笑顔でそう語るのは、代表取締役社長の永井孝一良氏だ。2000年のISO14001認証取得以来、省エネや廃棄ロス削減を推進し、本社・工場屋根の太陽光パネルの自家発電、RE100※に準拠した再生エネルギー由来のCO₂フリー電気購入など、環境対応のものづくりに注力。さらに、近年は「SDGs経営」を推進中だ。
「2019年に社長就任後、中期3カ年計画でSDGs推進を重点目標に掲げました。主体的に社会貢献を果たす使命感というよりも、お客さまから進捗度調査を受けたり、新卒採用で学生から質問が相次いだりしたことが推進に至った率直な理由です。SDGsを推進しなければ製品を買ってもらえず、社員も採用できなくなる――。そんな危機感からスタートしました。
当初は、SDGsバッジを買ってユニフォームに付けようか、という程度でなかなか進展せず、社外の専門家の力を借りる必要があると判断し、タナベコンサルティング(TCG)に支援をお願いしました」(永井氏)
管理本部長の別所明彦氏は、「企業規模や実績、的確なサポートが得られる安心感が決め手となり、複数の外部パートナー候補の中からTCGへの依頼を決めました」と振り返る。
SDGs推進に当たり永井氏は、「顧客と社員に選ばれる取り組みにする」「コーポレートブランド確立につなげる」ことを条件として求めた。
「できるだけ若い社員に任せて、社内横断的に協力も得る、ボトムアップの活動推進を要望しました。そうすることで、次代を担う社員が成長し、未来への推進力につながります。『親和・協力・一致』というグループのモットーに忠実に、全員で力を合わせてSDGsを達成しようと動き始めました」(永井氏)
※RE100対応…企業が事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ
若手社員中心のプロジェクトでSDGsを推進
2022年12月、「SDGsプロジェクト」(~2023年9月)が始まった。「人選が大事になると思い、TCGにも相談しながら、積極的に取り組んでもらえる人材を選出しました」。そう語る別所氏は事務局として、選出した11名の若手プロジェクト(PJ)メンバーを支えた。
PJリーダーを担ったのは情報システムグループの北村祐一氏である。SDGs17の目標の1つである「つくる責任、つかう責任」など、グローバルな事業展開に伴う環境保全業務に携わっていた北村氏は「ぜひ、やらせてほしい」と自ら手を挙げた。サブリーダーを務めた開発部・鳥越寛史氏と生産本部・岡田卓也氏も「外部のコンサルタントを交えて進めると聞いて、会社の本気度を実感しました」と振り返る。
「313項目のロングリストを抽出してショートリストに絞り込み、マテリアリティやビジョンを策定する。TCGが提案するプロセスに沿って進める中で、以前から取り組んでいる活動でSDGsにつながっていることが数多くあると気付きました」(北村氏)
例を挙げると、「高槻シティハーフマラソン」「高槻ジャズストリート」など、地元である大阪府高槻市で開催されるイベントのスポンサーになって地域コミュニティに貢献する活動や、自社の太陽光発電による年間 27 万 kWh(2024年度実績)ものクリーンエネルギーの創出には従来から取り組んでおり、SDGsに該当する。
そうしたSDGs活動の棚卸しをして優先順位を付け、提供価値の重点施策として4つのマテリアリティ(自然環境との共生・協創イノベーション・従業員エンゲージメント・地域コミュニティへの貢献)や、SDGs達成へ取り組む120項目の実施行動とKPI(重要業績評価指標)を設定。全社で歩みを進める道しるべとなるビジョンとして、「Sustainability Vision 2030『まぜる力で未来をつくる』」も策定した。
施策の相乗効果でブランディングや採用に成果
サンユレックのSDGsサイト
ビジョンを実効性ある戦略にするため、2023年10月、同社はPJの延長線上に「SDGs委員会」を発足した。
6つのワーキングチームを構成し、SDGs活動を発信するブランディングを重点推進ポイントに決定。北村氏が委員長に、鳥越氏と岡田氏がアウターとインナー、各ブランディングチームのリーダーに就任した。「彼らが企画し、何かを決めた時には必ず経営会議に報告し、承認を得る。そのプロセスだけ徹底し、あとはPJ同様、若手に任せました」(永井氏)
「情報発信ツールとして、2024年5月にSDGsサイトを開設しました。また、活動内容が分かりやすく伝わるように、自社キャラクター『サンユレくん』を誕生させました。
プロモーションキャラを使って情報発信する成功事例をTCGに教わり、独自にフィギュアを製作して、インパクトを強めました。JR高槻駅の構内や、高槻市と連携したマンホールふたの広告にも『サンユレくん』が登場し、来客や地域の方から『見ましたよ!』との声をいただくなど、認知度向上や連携強化に結び付いています」(鳥越氏)
「サンユレックのSDGs」の世界観をサイトで発信し、「サンユレくんへの約束」として紡ぐ活動ストーリーは、社内外に強いインパクトを与えた。実際、PJ推進当初に4割だったSDGs活動の認知度が、2024年末には9割へ向上。さらに、インナーブランディングとしてeラーニングを開講し、社内報『SDGs通信』を創刊した。
「SDGsの知識や情報がないと、一過性の“お祭り的な取り組み”と勘違いされてしまいます。自部門では当たり前の取り組みも他部門は知らないことが多いので、全社で共有できるように。そして、楽しい活動にして企業文化として根付き、会社を好きになって持続する姿になるように、との思いを込めて毎月発信しています。日々の仕事とSDGsがリアルにつながっていることを知ってもらい、自分事として感じてもらうワークショップも開催しています」(岡田氏)
このほか、ブランディングの取り組みとして、社員の家族を招く工場見学会の開催、高槻城公園芸術文化劇場「サンユレックホール」のネーミングライツ取得などを実施。ステークホルダーとのタッチポイントを増やすことで、社内外での共感と交流が生まれ、エンゲージメントが向上している。実際に、高槻市の中学校から職場体験の要望が相次ぐようになり、経験者採用でも過去最多の150名超の応募が集まるなど、目に見える成果が生まれている。
JR高槻駅の広告、サンユレックホール(高槻城公園芸術文化劇場の大スタジオ)の名称はブランディングに大きく貢献。また、高槻の商店街には現在、「サンユレくん」の描かれたマンホールが登場し、話題を集めている
SDGsで自社の価値が高まり、成長につながる
PJから委員会へと活動の体系化が進む中、KPI達成など実効性の評価・管理も仕組み化している。
「KPIは部門長と一緒に決定しています。『数値化できない』という否定的な意見も出て苦労しましたが、『横から斜めからと捉え方を変えてみては』とTCGにアドバイスいただき修正を重ねたことで、今では現実的な数字になっています。
私自身も当初、SDGsには慈善活動のイメージがありました。しかし、取り組みを進めるうち、社会的責任を果たすだけでなく自社の価値が高まり、成長につながるものだと大きく捉え方が変わりました。委員会も世代交代しながら、サイト発信力やタッチポイントの増強、SDGs教育の拡充を持続的に進めていきたいですね」(北村氏)
アウターブランディングチーム出身の委員会新メンバー・業務部の上野健一氏は「環境にやさしいバイオマス度の高い新商材の開発に若手が挑戦していますし、学会発表などにも広く発信していけたら」と抱負を語る。「できるかどうか」よりも、まず「やってみよう」という機運が着実に高まっている。
「SDGsの感性を持つ社員が育ち、ブランディングも進み、部門間を超えた横並びの関係が強まって風通しが良くなりました。このことが、全社共通目標に向かってみんなで行動するトリガーになりました。『親和・協力・一致』で社会貢献を達成している実感と手応えが、何よりうれしいことです」(永井氏)
SDGsがゴールを迎える2030年へ「サンユレくんへの約束」として推進するSDGs経営は、ポストSDGs時代の幕開けも見据えている。
サンユレック(株)
- 所在地:大阪府高槻市道鵜町3-5-1
- 創業:1958年
- 代表者:代表取締役社長 永井 孝一良
- 売上高:108億400万円(2025年3月期)
- 従業員数:195名(2025年3月末現在)