商品とサプライチェーンの組み合わせによる成長
2024年3月期、過去最高の売上高と当期純利益を記録した資材専門商社のシモジマ。コロナ禍で人流が止まり、包装資材やイベント関連資材の需要が激減した2022年3月期に営業利益が赤字に転落したが、コロナ禍以降に経済活動が回復し需要が反転急伸することを見据え、そのチャンスを逃さない準備と持続的な成長のために策定したのが同社初の中期経営計画である。
2020年に創業100周年を迎えたシモジマは、店舗用品事業を中核に卸売ビジネスを展開する資材商社である。多様な仕入れ先と自社開発のオリジナル商品をBtoBの営業販売、店舗販売、ECの3チャネルで提供。同社が長期ビジョンに掲げる「“パッケージ×サービス”でお客様に元気を届けるトータルパートナーを目指す」は、多彩な自社ブランド商品とサプライチェーンの組み合わせが成長エンジンとなってきたことを物語る。
コロナ禍の苦境を打開する突破口となったのは、2021年11月に策定した2026年3月期までの5カ年中期経営計画である。長期ビジョンに基づき、「事業の拡大・経営基盤の強化・経営体制の強化」を3つの柱と位置付け、2026年3月期の目標を売上高650億円、営業利益率5.5%と定めた。
シモジマ型オムニチャネル政策の推進
その達成軸となるのが、「シモジマ型オムニチャネル政策」である。コロナ禍にも競争優位性を確立するビジネスモデルへの変革を目指し、ECへの投資額を増やしてDX戦略へとかじを切った。
また、リアルでの対面営業・接客も重視し、CRMデータや部門間連携を増強。営業・店舗販売・ECの販売チャネルが三位一体となり、相互送客で最適な商品・チャネルを提案するプラットフォーム化に注力した。さらに、商品数を100万点に、登録顧客数を100万名に増やす「100万×100万プロジェクト」も推進している。
シモジマ型オムニチャネル政策としては、マーケティング戦略と営業戦略の2つの観点で販売力強化に乗り出した。マーケティング戦略は、営業販売・販売・ECそれぞれの市場動向を検証し、競合企業に対する優位性の確保を重視。新商品開発や商品力強化のために顧客の声や現場の情報を集約し、スムーズに商品開発につなげる体制を構築した。変容する市場の変化に適応し、多彩な商品群を開発し続けている。営業戦略もプッシュ型とプル型に分けて展開し、さらにその組み合わせにより顧客ニーズに適した特注品にも対応した。
業務プロセスを改善し、ビジネスモデルを変革するDX戦略は、CX(顧客体験価値)の向上を目的とした「事業推進型」と、EX(従業員体験)やEH(社員幸福度)につなげる「生産性向上型」の両アプローチで推進している。
事業推進型は、顧客のカスタマーサクセスに役立つ商品・サービス・情報の提供を最適化し、顧客の獲得とLTV(顧客生涯価値)の向上に貢献する。生産性向上型は、ICTを最大限に活用してEX・EHを向上し、社員一人当たりの利益額の最大化を目指す。
これらの戦略を推進した結果、2023年3月期には業績が回復し、営業利益率3.6%、ROA(総資産利益率)5.9%と目標値を達成。そのため、中期経営計画の目標値を営業利益率5.5%、ROA8.5%に上方修正し、2024年3月期も売上高557億9400万円、営業利益は約32億6200万円と好業績を維持するなど、成長軌道を描き続けている。
厳しい経営環境下に中期経営計画を策定し、変革に乗り出した背景には、80%を適正水準として維持する高い自己資本比率と、無借金経営を続けてきた保守的な資本政策からの脱却があった。取締役会で自社の成長を中長期の視点で検討し、財務的な安定性を重視しながらも、営業キャッシュフローの範囲内で成長投資と株主還元に振り分けて、企業価値向上に向けて積極的な投資を推進している。
また、DX投資に加えて物流投資、M&A投資、人的資本投資を拡大。物流投資は、西日本エリアの物流体制の充実に向けて東大阪配送センターを刷新した。人的資本投資は、若手人材の育成研修を加速し、次世代のDX人材育成に着手した。中期経営計画の設備投資総額は5年間で総額70億円を目標に定めていたが、2024年3月期には累計38億円となり、目標達成が確実な見通しとなっている。
明確な長期方針と中計に基づき、「攻め」の積極投資によって事業インフラの整備を計画的に推進し、望む成果をもたらしているのである。
戦略を推進するための組織構造変革
同社の成功要因の1つとして、策定した戦略の高い推進力が挙げられるが、これをけん引するのは、創業家以外で初の代表取締役社長となった笠井義彦氏である。笠井氏が2021年の就任時に宣言したのは、「従業員が生き生きと働ける会社」にすることだった。自分の夢を持ち、生き生きとした社員が育つことが自社の成長と発展につながると考え、その道筋となる方向性を初めての中計で指し示し、社内だけでなく対外的にも公表したのだ。
同社は、社員を「企業にとっての成長ドライバーであり、最も重要な経営資本」と定義している。人的資本の活性化で社員がより良いパフォーマンスを発揮し、顧客やステークホルダーの満足度を高めることで、業績向上につながる好循環を生み出す。このようなエンゲージメント向上の仕組みづくりは、経営のマテリアリティー(重要課題)のKPI(重要業績評価指標)にも定めている。
社員が生き生きと働ける組織構造は、時代の一歩先を見通す展開を可能にし、売上高や社員のモチベーション向上の原動力となっている。食品容器分野では、紙や植物由来素材を使用した環境配慮型商品の企画開発を、社員が企画していち早く進め、販路拡大に成功している。
また、IR活動の充実を目指し、2024年に初めて統合報告書を発行した。自社の存在価値と提供価値をより明確に発信している。その中で、「包む」文化の持続可能性を追求する価値創造ストーリーの基軸として、パーパス「夢を包み、心を結ぶ。」を明文化した。
さらに、次期中計の策定にも着手しており、積極的な未来志向の計画として、社員が夢を持ち、長期的な視点と思考を浸透させることで、持続可能な経営と社会づくりに貢献することを目指している。
想定外の経営環境や経営トップの交代といった転機をチャンスに変えるためには、明確な方向性を示し、それを具体的な行動に落とし込むことが重要だ。柔軟に修正しながら進める中期経営計画が、自社の未来を切り開く鍵となる。加えて、目標達成というゴールだけを追求するのではなく、自社の価値を組み合わせてアップデートしていくことが、中長期的な成長と発展において重要であり、継続的な力強い推進力となる。
(株)シモジマ
- 所在地 : 東京都台東区浅草橋5-29-8
- 創業 : 1920年
- 代表者 : 代表取締役社長 笠井 義彦
- 売上高 : 577億9400万円(連結、2024年3月期)
- 従業員数 : 812名(連結、2024年3月現在)