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コラム
イベント開催リポート
タナベコンサルティンググループ主催のウェビナーやフォーラムの開催リポートです。
コラム 2025.01.27

ミラタップの事業承継と今後の経営戦略 ミラタップ

タナベコンサルティングは2024年12月6日「MIRAI承継フォーラム 2024」を開催。「激変する時代を乗り越える経営承継の戦略」をテーマに、住設・建材EC事業、住宅事業を手掛けるミラタップの代表取締役社長・山根太郎氏に、自身の事業承継や今後の経営戦略について講演いただき、リアルタイム配信を実施した。
※登壇者の所属・役職などは開催当時のものです。

 

株式会社ミラタップ 代表取締役社長 山根 太郎氏

株式会社ミラタップ 代表取締役社長
山根 太郎 氏
1983年、奈良県奈良市生まれ。関西学院大学卒業後、2008年伊藤忠商事株式会社入社、繊維カンパニー配属。2014年4月株式会社サンワカンパニーに入社、同年6月代表取締役社長に就任。業界の常識を打ち破る住宅設備機器のEC販売を推進し、組織改革や戸建て住宅事業「ASOLIE(アソリエ)」などの新規事業を展開する。

 

 

事業承継について

 

経営は成功確率を上げ、失敗確率を下げる確率論である。経営者である以上、さまざまな意思決定を行う機会があり、その結果、成功する場合も、失敗する場合もある。その意思決定の構成要素をどれだけ積み重ねられるかで、経営の成功は決まると考えている。

 

私は大学卒業後、伊藤忠商事へ入社し、2008~2014年までの6年間、同社に勤務。そのうち2010~2012年の2年間は、中国の上海に駐在した。その後、2014年に創業者である父からサンワカンパニー(現ミラタップ)を事業承継した。

 

私の社会人経験は、一般企業の社員と上場企業の社長だけであり、一般的な事業承継とは違い、父(創業者)と一緒に働いたことがない。2014年の社長就任当時は、まだ経営スタイルが確立されておらず、経営そのものが言語化できなかった。
そこで、意思決定のための構成要素を増やすために、すごいと思える経営者に直接会い、どのような構成要素でその意思決定を行ったかを伺い、取り込み続けた。これを繰り返すことで、意思決定の成功確率を上げ、失敗確率を下げる構成要素を増やしていった。

 

現在、ミラタップの社内執行役員は、私と副社長の津﨑宏一の2名だ。加えて、社外取締役としてライフネット生命の創業者である出口治明氏が参画している。これには、私が出口氏のライフネット生命の社長退任を聞き、直談判してオブザーバーとして取締役に就任してもらった経緯がある。

 

社長就任直後、出口氏に言われたことは今でも印象に残っている。出口氏は「社長自らがどんなこだわりを持って商品を作っているか、また、社長自身のことを公開できているかが重要。それができないならば、社長に就任すべきではない」と話してくれた。

 

社長に就任して10年経った今でも、自分が思っていることをアウトプットすることが社長としての重要な仕事であると思っており、自分が過去に経験してきたことを共有し、同じような立場の方の力にしてほしい、という思いで日々活動を続けている。

 

事業承継予定の若手の方と接する機会が多くあるが、そういう方々が、地方企業であることや経営規模を理由に、実際の行動に踏み切らない残念なケースが多いと感じている。

 


ミラタップの事業  出所:ミラタップ講演資料

ミラタップの成長の軌跡  出所:ミラタップ講演資料
 

社長就任の経緯と社名変更

 

もともと私は父の跡を継ぐつもりはなく、伊藤忠商事のアパレル部門に勤務していた。学生時代はプロテニスプレーヤーを目指し、留学も経験している。しかし、父が病に倒れたとき、「やはり跡を継いでほしい」と願った。私はこの際の「やはり」という言葉に注目した。

 

父も今後について検討し、内部昇格や会社の売却なども考えただろうが、最終的に自分に跡継ぎになってほしいと言ってくれた。それは私が父の意思を継いでくれるだろうという思いと、社員と私を比較した上での消去法による決定だったのではないかと今は思っている。

 

2012年6月に父が逝去し、私は2014年に社長に就任した。父からは、「5年くらいは従来の体制でなんとかなるから、勤務先である商社とも付き合いのある形で戻ってきてほしい」と言われていた。父の逝去後は当時の専務が社長を務めていたが、品質よりもデザインを重視する戦略をとった結果、リピーターを獲得できず、成長が見込めなくなっていた。
このことは売上高から分かり、社員からも早く入社してほしいと要請があったため、私は予定を早めて入社した。その2カ月後に取締役に就任し、直後の取締役会で当時の社長の退任動議を提出した。動議は可決され、当時の社長に自主退任という形で辞めてもらい、私が社長に就任することとなった。いわゆる、ハードランディング型の事業承継だ。

 

私を含めた事業承継者は、こういうケースも起こり得ると想定した上で、心を強く持ち、自分が何をなすべきか、会社や社会、ステークホルダーにとって何が正しいか考え、正しいと決めたことを腹に据えて行う必要があると思っている。

 

その後、2024年10月1日付で「サンワカンパニー」から「ミラタップ」へと社名を変更した。当社は国内における知名度の向上とシェア拡大を基本的な事業戦略としており、「ミラタップ」という名前の方が圧倒的に早く認知されるだろう、という予測があったためだ。

 

もともと他国では、サンワカンパニーという社名で商標登録をしようしても、類似社名が多く登録できなかった。また、社名が長く、社名のインターネットドメインがすでに取得されていたことも大きな理由である。

 

こういった経緯から、2017年に当社は社名変更プロジェクトをスタートさせた。重要な点は「商標が取得できるか」「ドメインを取得できるか」である。

 

記憶に残りやすい社名にするために含めた要素は以下の3点だ。
●4文字の単語である
●「ぱぴぷぺぽ」の半濁音
●違和感が残りやすい造語

 

これらは記憶に残りやすいといわれる単語の構成要素である。検討を重ねた結果「みらい」を「タップをする」という意味を込めて、「ミラタップ」という造語を新社名にすることを決定した。

 


出所:ミラタップ講演資料
 

親族内承継のポイント

 

まず、私が父から受けた帝王学について話したい。もともと私は事業承継するつもりはなかったので、明確な帝王学教育はされていない。しかし、ある意味で特殊な教育を受けたと思う。

 

それは「他者ではなく、自分が実際に見てどう思うか」ということの重要性である。多数派が正しいという考えを捨てて、プロフェッショナルとして責任を持ち、自分が自分の裁量の範囲で意思決定をすることを学んだ。

 

このようなマインドセットや、自分のことは自分で意思決定を行うべきだという教えこそが、今思えば一般的な家庭にはない、経営を行っている家で生まれた帝王学ともいえる教えだと思っている。

 

また、事業承継と組織という観点から、当社の組織経営のポイントを3点挙げると、以下の通りである。

 


●社長は猛獣使いであり、スーパーマンではない
●戦略はトップが行い、戦術の範囲で現場に裁量を渡す
●期待と役割を明確にする

 

先述の出口氏や副社長で公認会計士の津﨑は、会社経営や企業財務に関して私より詳しい。彼らのような優秀な人材が協力してくれることで、当社はとても良くなった。

 

津﨑が入社した際、私は津﨑に“顕微鏡”の役割を担ってもらえるよう依頼した。私は“双眼鏡”で遠くの未来を見て、私が見えない近いところ、細かいところを津﨑に見てもらう。見ているものは違うが、目指すべき方向は同じであり、たとえ意見が違ったとしても、互いをリスペクトし、議論して決めていこうと話し合った。

 

こういった形で7年間ともに活動してきて、津﨑からの私に対する期待と役割、私からの津﨑に対する期待と役割は大きくずれず、現在まで一枚岩となって経営を行えていると実感している。

 

 

今後の経営戦略

 

当社が2019年に刷新した経営理念は「くらしを楽しく、美しく。」。それ以前にも経営理念は存在したが、より明確にするために変更した。

 


出所:ミラタップ講演資料

 

自分がなぜこの会社で働き、この会社で頑張ることによって社会がどう良くなっていくのか。これらを明確にすることによって、全社員のやりがいをつくっていく。

 

当社は建材を販売しているが、実は10万本の木を買うことでカーボンオフセットニュートラルを達成しており、収益の一部で発展途上国の小児がん治療を支援している。当社が成長することで、日本の建築業界の自由度と透明性が高くなり、同時に地球が良くなっていく。私が生まれた時よりも良い状態にして次世代につないでいきたい。そういった思いで私は仕事をしているし、社員にもそういった思いを持って仕事をしてほしいと願っている。

 

「事業承継を成功させるコツは何か」と問われることがあるが、私は「守破離(守り尽くして破るとも離るるとても本を忘るな)」を大切にしている、と答えている。まず、先代や前任者がどのようにしてきたのかということを、経緯や当時の状況を含めて学ぶ。その上で他の流派や競技で学んだことを取り入れ、今までやってきたことを少し変えてみる。

 

現在、当社はこの段階にいて、創業者がやってきたことをしっかりと守り、彼が何をしたかったのか、なぜ当時この意思決定をしたのか、ということを想像しながら経営を行っている。そして、完全無人のショールームの開設や、ショールームへの来客に対してアバターで接客するような、他業界で成功したことをこの業界に取り込み、自業界に新しいことを導入している。

 

最後の「離」だが、今のビジネスを生かし、もっと直接的に社会に貢献できるビジネスをしたいと考えている。事業全体に社会性を持たせるということが、今後非常に重要になってくると思っているため、まず守る部分と破る部分で自社を成長させ、独自のビジネスをつくって次世代につなげたい。

 

ただし、守り尽くしても、破っても離れても、本質を忘れてはいけない。経営理念である「くらしを楽しく、美しく。」するという思いで日本のくらしを、そして世界のくらしをより豊かにしたいと考えている。

 


出所:ミラタップ講演資料