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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2025.02.03

企業の持続的成長を支える企業内大学構築・運用のポイント 藤田 奈緒

企業内大学は経営システムの1つ

タナベコンサルティングでは、OJTとOff-JTを包括した学びのプラットフォームとして、企業内大学の必要性を提唱している。企業内大学を、「会社の中に学校をつくり、理念・戦略を具現化する人材を体系的かつ計画的に輩出する学習プラットフォーム」と定義し、各社独自の名称を名付けて「アカデミー」と呼ぶ。

人材の成長を多方面から支える企業内大学は、ただの教育プログラムではなく、経営システムの一つと位置付けることができる。(【図表1】)

【図表1】企業内大学プラットフォームの概念

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

企業内大学の構築ステップ

 

企業内大学は自社オリジナルのシステムであるため、コンセプトやカリキュラム内容など構築の手法はさまざまである。筆者がこれまでに携わってきた企業内大学で最も多いタイプは、新人の知識インプットや技術伝承を目的とし、創業の精神や業界知識、業務遂行スキルを中心に構成されたカリキュラムである。

そのほか、管理職者のマネジメント力の向上や、企業理念の浸透を目的としたカリキュラムも多い。企業内大学を構築する際、人材育成の課題や目指したいゴールが複数にわたる企業は、まずどこに着手するかを決定してから進めていくことが望ましい。(【図表2】)

 

【図表2】企業内大学のカリキュラム区分

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

企業内大学の構築は、大きく次の5ステップに分かれる(【図表3】)。ここでは、新入社員をゼロから育成することを目的とした「スタートアップアカデミー」の構築から運用までの流れを見ていきたい。

 

【図表3】アカデミー構築の5ステップ

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

ステップ1:コンセプトの定義
まずは、アカデミーのコンセプトを定義する。人材育成方針をかみ砕き、「どのような教育システムとしていくか」「学部体制はどうするか(誰が学部長・学科長として企業内大学の運用を管理していくか)」などを踏まえた上で、新人社員の入社1年後、または3年後、5年後の到達イメージ(何を、どこまでできるようになってもらいたいか)を定義する。

ステップ2:カリキュラムの構築
次の3つを軸に、習得すべき内容を棚卸ししてカリキュラムを構築する。ここでは、部門や階層で学部体制を定めることが多い。

①社会人としての心構え・ビジネスマナー(新入社員のみ)
②自社や業界で働く上でのルール
③業務遂行に必要な専門知識・技術

②のような入社直後のオリエンテーションとして実施する内容も、企業内大学の動画コンテンツとして蓄積しておくと、中途採用者にも活用できるため、作成をお勧めしたい。

ステップ3:学ぶ手法の決定
カリキュラムの内容や目的・重要度に応じて、個別研修(書籍・テキスト、オンデマンド動画)、集合研修(リアルでの対面研修・オンライン研修)の2つを組み合わせる。

熱意を伝えたいカリキュラムは対面で実施し、マニュアルのように繰り返し確認してもらいたい内容はオンデマンド動画で実施するなど、「どのような学習方法で知識を身に付けてもらいたいか」をイメージしながら学ぶ手法を決定する。

ステップ4:講師の選定
カリキュラムの内容にふさわしい社員を講師として選定する。集合研修は当日までの準備を依頼し、オンデマンド動画を撮影する場合はレジュメの作成や録画を依頼する。

講師に依頼する際には、「なぜ講師として選出されたのか」を明確に伝え、講師本人のモチベーション向上を促すことが、企業内大学を運営する上で非常に重要である。また、講師を経験することを成長の機会と捉え、あえて若手社員を講師に選定することも教育手法の一つである。

リスキリング(学び直し)など、自社では教育できないテーマには、外部講師を検討いただきたい。

ステップ5:実施後の流れ
スキルマップやチェックリストを用スキルマップやチェックリストを用いて現場で習得度を確認する。スキルマップなどがない場合、設計したいカリキュラムの棚卸し時に並行して作成することを推奨している。

人材育成に関する施策を実施しても効果が得られない要因として最も多いのは、「新人が何を学んだのか、現場が理解していないこと」である。そのため、現場でどのようなフォローを行ってほしいのかを事前に明確にしておくことが重要であるが、設計段階から現場を巻き込んでいくことも近道だ。

現場の要望をヒアリングし、現場が求めている社員を育成することが、スタートアップアカデミーの設計において重要である。

PROFILE
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藤田 奈緒
NAO FUJITA
タナベコンサルティング
HR ゼネラルパートナー

人事制度や教育制度の構築支援、セミナー講師・運営など、人材育成の現場に幅広く携わる。階層別・テーマ別の教育カリキュラム策定から企業内講師育成・研修運用までを支援し、中堅・中小企業の人材育成内製化を実現した経験を多数持つ。人材育成研究会のサブリーダーを務め、「業績に直結する教育の効果的な運用」を研究中。