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研究リポート
食品価値創造研究会
AI・IoT・DX・フードテックなどの新たな潮流が、食品業界においてもさまざまなイノベーションを起こしています。新市場創造の最新事例を学びます。
研究リポート 2024.12.27

島津製作所が考える食のトレンド ~安全性と現在・過去の取り組み~ 島津製作所

【第6回の趣旨】
タナベコンサルティングの今期の食品価値創造研究会は、「アフターコロナのEATトレンドを学び、持続可能な食事業に進化する」をテーマに、従来の常識・手法・商習慣に捉われることなく、「食のEAT視点」で先進企業から学びを得ることにより、アフターコロナ環境を乗り越え、持続可能な食事業に進化することを目指している。
第6回の東京開催のテーマは、E・A・TのE「エンジニアリング(技術進化)」そのものである。自社の付加価値・協創優位性を高めるためには、バリューチェーンの強化は必須であるが、変化の大きい今の時代において、どのような技術をどのように自社に取り入れるべきか、東京開催での事例を通じて考えていきたい。

開催日時:2024年12月17日(東京開催)


*本研究会のテーマ「E・A・T」の解説

 

はじめに

 

島津製作所は、 分析計測機器や医用機器などを製造する総合精密機器メーカーとして有名で、2025年に創業150年を迎える。質量分析計、液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフなどの分析機器は、食品、製薬、環境などのさまざまな分野で利用されているほか、医用画像診断機器などの医用機器も、診断や治療において多く利用されている。

 

本社が京都にある企業の1つとして有名であるが、2023年1月、羽田空港の対岸にある川崎市の「キング スカイフロント」地区に、Shimadzu Tokyo Innovation Plazaを開設。そのコンセプトは「魅せて、繋げる Innovation Plaza」だ。島津製作所の分析計測機器は、食品の安全・安心をどのように守るのか、またどのようなイノベーションを生もうとしているのか、増田潤一氏にお話を伺った。

 


Shimadzu Tokyo Innovation Plazaは、分析計測の応用技術開発拠点である

 


 

食の安全・安心を守る

 

食品を取り扱う企業にとって、お客さまに「安全・安心」なものを提供することは最も重要である。事例としてご紹介いただいたのは、農産物の生産において20年前に使っていた農薬が収穫時に意図せず混入してしまった、それを多成分のスクリーニング検査によって検知し、お客さまに提供せずに済んだというケースである。まさに長年の研究や知見の積み重ねが生きていると言える。

 

しばしば話題になる食品偽装は、自社で作られたものが偽りなく真正なものであることを証明できれば、安全・安心につながり、また自社でしか作ることができないという価値提供にもつながる。食中毒や包装容器からの溶出など、新しく発生するリスクに対しても、島津製作所の分析計測機器は常に対応している。

 


ガラス張りになった部屋に分析機器の数々があり、まさに「魅せるラボ」となっている

 

 

食の新しい感覚・流行を作る

 

食品産業の特徴であり、面白いところでもあるのが、次々と新しいトレンドが生まれるところである。分析計測機器があれば、水分・におい・食感など、おいしさを「感覚」でデザインするのではなく、「成分」や「数値」でデザインすることができる。

 

例として次の2つが挙げられる。
1.介護食品の食感評価:硬すぎると高齢者の方がうまくかみ砕けない、柔らかすぎると食べ応えがない、そこでテクスチャー(口に入れてから飲み込むまでの食感)で評価する
2.ビールの色と味覚の評価:食品の色もおいしさを決める大事な要素なので、色調を分析することで、おいしい見た目をデザインする

 

ヒット商品の誕生や、高付加価値の食品・農産物の裏には、こうしたおいしさの科学的裏付けがあるのである。

 


島津製作所の技術は日々進化し、そしてその技術を通じて実現できることも次々と増えている

 

 

「世界とつながる、新たな知の創造・交流空間」への挑戦

 

同拠点には講演ホールやラウンジがあるほか、広々した空間のオフィスがあり、また魅せるラボとして数多くの分析機器が並ぶ。

 

「分析機器は事が起きたときに売れる」のだそうだ。確かに、事件や事故が起きた際に分析したり、監視を強化するために機器を導入したりすることも多い。ただそれは「過去型」の分析機器の在り方である。Shimadzu Tokyo Innovation Plazaが目指しているのは「未来型」だ。

 

「こんなものを測りたい」「こんなものを作りたい」という思いと、「こうすれば分析できる」「こうすれば数値化できる」というソリューションが掛け合わさることで、まだ見ぬ商品、まだ見ぬ事例が生まれるのだ。「もっとおいしいものを食べたい」「食を通じてもっとワクワクしたい」、このような人間のこだわりや熱い思いがある限り、島津製作所のソリューションも進化し続けるに違いない。


施設全体を案内する東京支社 営業本部 分析計測ソリューション営業統括部 営業企画部 杉田 隆通氏

PROFILE
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増田 潤一 氏
株式会社島津製作所 分析計測事業部
Solutions COE ヘルスケアソリューションユニット 副ユニット長