タナベコンサルティングは2024年12月、「2024年度 デジタル経営に関するアンケート」の調査結果を発表した。本稿では調査結果の一部を抜粋して紹介する。
DX進捗度は「全体的にまだ不十分」が約4割と最多
DXの取り組み進捗度について、「全体的にまだ不十分」と回答した企業が37.2%と最多となり、次いで「複数の“業務”でデジタル活用」と回答した企業が25.0%となった。
2023年度の回答結果と比較すると、 「全体的にまだ不十分」と答えた企業が6.9ポイント、「複数の“業務”でデジタル活用」と回答した企業が2.4ポイント増加した。自社なりにDXを進める中で新たな課題が見えてきたことや、DXの取り組み自体が思うように進まないことで、「全社的にまだ不十分」という認識が広がっていると考えられる。
DX戦略の状況は3割以上が「デジタル施策は場当たり的」
DX戦略の状況について、「デジタル施策は場当たり的」と回答した企業が32.7%、次いで「DX戦略はあるが推進度に課題」と回答した企業が26.3%となり、2023年度と比較して増えた。
DX戦略を策定すること自体が、経営の優先度や推進担当の経験スキルなどの要因からハードルが高く進まない、かつ、DX戦略を策定しても、その通りの推進には至っておらず、課題を感じている企業が増えていると推察される。
約4割が「DX推進部門を保有」、兼任中心は2023年度より7.0ポイント増
DX体制の状況について、「DX推進部門を保有(専任あり、兼任中心)」と回答した企業が合わせて38.8%となり、2023年度と比較して増加した。
一方で、DX推進部門を保有していても兼任中心となっている割合が、2023年度よりも7.0ポイント増加していることから、DXの需要に対しての組織はつくったものの、専門人材が不足している状況が推察される。
デジタルマーケティングは「実施していない/これから取り組みたい」が3割以上
デジタルマーケティングの取り組み成果は、「現在実施はしていないが、これから取り組みたい」が33.7%と最多で、いまだにマーケティングのデジタル化に着手できていない企業が多い現状がうかがえる。次いで、「デジタル施策は実施しているものの、成果に結びついていない」と回答した企業が29.6%だった。
一方で、施策が何らかの成果につながっているとの回答を合計すると29.3%になることから、取り組んだ結果、成果創出ができている企業とできていない企業に二分されていることが分かる。顧客データの利活用レベルが、デジタルマーケティングの成否につながっているのだろう。
「有用なマーケティングデータがつかめていない」企業の4割以上が「顧客データは表計算ソフトレベルで管理」
マーケティング活動でのデータ活用度について、「結果と対策が結びついていない」が14.4%と、2023年度から3.5ポイント増加していることから、データに基づくマーケティング活動ができていない企業が増えたことがうかがえる。
また、「有用なマーケティングデータがつかめていない」と回答した企業のうち、データ管理レベルについて「顧客データは表計算ソフトレベルで管理」との回答が44.2%と最も多くなっていることから、システム導入以前に手作業での集計に依存している実態も浮き彫りとなった。
経営判断にデータを活用している企業の3割以上が「Excelでデータ加工」
デジタル技術を活用したデータ活用の取り組みについて、「必要なデータが蓄積され経営判断に活用されている」と回答した企業のうち、「必要なデータを定義できていない」割合は3.4%と最も低かった一方、31.0%は「Excelでデータ加工している」状態だった。
この結果から、多少の非効率はあったとしても、自社にとって必要なデータが何かを定義できていることが、データを経営判断に生かす重要な要素であると考えられる。
また、同様に「必要なデータが蓄積され経営判断に活用されている」と回答した企業のうち24.1%が、「データ活用できる人材が不足している」と回答。データサイエンティストの需要に対して供給が圧倒的に不足しており、人材育成・獲得に多くの企業が苦戦している状況が見て取れる。
DX専門コンサルタントによる提言
DXは単なる業務のデジタル化ではなく、競争優位性を築くための企業変革である。推進組織には、直接・間接部門からそれぞれ全社横断的にメンバーを募るのが望ましく、DX推進リーダーはIT・DX分野に明るいことに加え、戦略思考を有する人材が理想的だ。
外部から人材を雇うことも手段の一つだが、継続的に人が育つ仕組みをつくることが、企業の体質強化には必要である。
また、DX推進体制を強化するためには、デジタルスキルだけではなく、企業経営に関する知識やマネジメントスキルもバランスよく習得する必要があり、そのためのリスキリングも必要だ。ITシステム投資以外にも、推進体制や人材育成といった改革の基礎整備に、今こそ投資すべきである。
データ利活用が不十分と感じている企業は、「どのようなデータを何のために活用するか」という、目的や必要なデータの定義から始めるべきだろう。その検討の後に、データ連携・可視化の仕組みを整えることで、データの収集や集計業務をはじめとする業務の効率化や意思決定の迅速化が期待できる。
レガシーシステムの刷新は、企業の競争力を高めるための重要なステップであり、今後の成長を支える基盤となる。柔軟なシステムを基幹に据え、新しい技術やツールを効果的に導入することが、自社の持続的な成長につながる。
また、業務整理と標準化は、業務効率化だけでなく、システム化の際に不要な投資を防ぐ効果もある。各組織や個人が抱える業務をリストアップし、改革の優先度を付けることで、効率化ツールの導入がスムーズに進む。
並行して、デジタル化によって生み出された時間をどう活用するかの議論も進めるべきだろう。その業務に携わっていた社員を直接利益に貢献する業務に移行することや、戦略的な業務に従事する機会を与えるなど、新たな業務を設計することも重要である。これによって、労働時間の削減にとどまらない、本質的な意味での企業全体の生産性向上と持続的な成長が期待できる。
【調査概要】
アンケート名: | デジタル経営に関するアンケート調査レポート |
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調査対象: | 全国の企業経営者、役員、経営幹部、部門責任者、デジタル担当者など |
調査期間: | 2024年8月19日~2024年9月6日 |
調査エリア: | 全国 |
有効回答数: | 312件 |
※各図表の構成比(%)は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。
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※業種別の回答など、より詳細な調査結果と、タナベコンサルティングの提言を掲載しています。