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研究リポート
ビジネスモデルイノベーション研究会
秀逸なビジネスモデルを持つさまざまな企業の現場を「体感」する機会を提供しております。ノーボーダー時代に持続的成長を実現するためのヒントを学びます。
研究リポート 2024.12.19

魁を追求して社会に貢献する~創業時から抱き続ける「ヤヨイ・スピリット」の真髄と成長の軌跡~ ヤヨイ化学工業

第5回の趣旨
ビジネスモデルイノベーション研究会では、「両利きの経営」における「知の探索と深化の融合・結合の実践」をテーマに、さまざまな分野で秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問している。
第5回はテーマを「3つの新(新技術・ 新事業・ 新市場)によるフロンティア戦略」とし、サブテーマに下記3点をおいて、ゲスト企業の視察を実施した。

1.マーケットリーダーの描く新たな市場創造
2.顧客価値最大化のためのコアコンピタンス(技術・開発)
3.「3つの新」を支える組織・経営システム・風土づくり

ゲスト講師であるスギノマシン様、ヤヨイ化学工業様の講話・現場視察から、「3つの新」を起点に挑戦を続け、技術オリエンテッド・ニッチリーダーとして社会に貢献するビジネスの要諦を学んだ。
2024年10月23日(富山開催)

 

はじめに

ヤヨイ化学工業は、1932年に前身である佐野糊工業として富山県高岡市で創業。現在は、内装施工に関わる資材を全般的に製造・企画・販売する全国唯一のメーカーである。

創業当時、同社は洗濯用の糊を中心に製造・販売していたが、1960年代より壁紙用接着剤「アミノール」の製造販売を契機にインテリア業界に進出し、1972年に現在のヤヨイ化学工業を設立。

当時は住宅の壁装に乾式工法を取り入れるなど壁装のニーズが高まっていたため、同製品は壁紙用接着剤として全国的に普及した。また、いち早くVOC(揮発性有機化合物)の発生しない接着剤を商品化。主力製品である「ルーアマイルド」は、現在に至るまで壁紙用接着剤のトップブランドとして健康にも配慮した居住空間づくりに貢献している。

インテリア業界というドメインにおいて、同社はインテリア施工用の接着剤や下地調整材という副資材のニッチ領域にも商品の幅を広げ、現在では内装施工に関わる資材をトータルで扱うリーディングカンパニーとして存在感を発揮している。「その根底にあるのは魁の追求である」と、同社代表取締役社長の二口真氏は語る。今回は、その取り組みについて学んだ。


ヤヨイ化学工業本社(中田工場、新技術研究棟)

ヤヨイ化学工業の軌跡

二口氏は大学進学を機に上京し、新卒で東京の金融機関に就職。そこで約12年間勤務した後、1997年にヤヨイ化学工業に入社した。

入社当時は、「ルーアマイルド」発売から数年が経過しており、本社を現在の中田工場に移転し出荷場を完成させたほか、キー局番組にて同商品のテレビCMを放送し全国的なPRを拡大していた時期であった。

二口氏は2009年に社長に就任し、2012年に営業部門を分社化してヤヨイ化学販売を設立、翌年の2013年には本社新研究棟を竣工、製品開発部を本社に集約させるなど、現在に至る設備インフラ基盤を着々と整備してきた。

研究会ではこれらの研究棟・工場を視察し、生産ラインと作業員による円滑なオペレーションと、自動配送マシン導入によるさらなる効率化について学んだ。


主力製品である壁紙施工用でん粉系接着剤「ルーアマイルド」

ヤヨイ化学工業の「ワン・ドメイン戦略」

ヤヨイ化学工業は自社の事業ドメインをインテリアと定義している。その中で、営業においては全国のインテリア商社のほぼ100%と直接取引し、内装施工に関わる部材をほぼ全般的に扱うワンストップサービスを実現している。

また、製造においても可能な限り自社での一貫生産を目指し、原料となる石膏の原石を海外から直接輸入、合成樹脂は自社で重合している。さらに、製造ラインは自動化・機械化とともに製品の軽量化を進めている。

同社がポリシーとして徹底しているのは、他社がまだ手掛けていない「半歩先」のモノ・サービスを自社開発することである。二口氏は、「他社の『一歩先』を目指して開発し、世に出した結果失敗したケースもある。『一歩先』ではなく、『半歩先』が肝要なのです」と続ける。

このバランス感覚に優れたイノベーティブなスタンスこそ、二口氏の強調する同社の精神「魁を追求して社会に貢献する」を体現している。


ヤヨイ化学工業のポリシー「ワン・ドメイン戦略」

逆風の中で取り組むチャレンジと、発揮される魁のイノベータースピリッツ

内装施工業界には課題が数多くある。例えば、少子高齢化による住宅着工戸数の減少や、原材料高騰による資材価格の上昇、「物流の2024年問題」による配送ドライバー不足などだ。二口氏はこれらを認識した上で、「課題の数だけビジネスチャンスがある」と課題を起点とした新たな取り組みを進めている。

例えば、インテリア市場の活性化(潜在的需要の創出)に向けて、壁紙の張替需要喚起のために各種媒体でのPRを積極的に打ち出すとともに、新たなマーケットを創出するために新商品「どこでもピタ」を開発。また人材活用にも目を向け、業界イメージの向上、若手施工技能者の採用を目的に、「フィニッシャーズ」というオリジナルキャラクターを用いたブランディング活動を行っている。

自社の事業においては、これまでの領域にとどまらない新事業の創出を図り、BtoC市場向けの新商品開発や、環境面と地域課題解決に着眼した農業分野での水耕栽培など、多岐にわたる未来事業創出に挑戦している。同社の追求する魁、すなわち逆風の中でも発揮されるイノベータースピリッツこそ、未来の読めないVUCAの時代に求められる企業姿勢の1つである。


オリジナルキャラクター「フィニッシャーズ」によるブランディング強化・イメージ向上(左)、
市場創出に向けた新商品「どこでもピタ」(右)

PROFILE
著者画像
二口 真氏
ヤヨイ化学工業株式会社
代表取締役社長