※GPSやGNSS(Global Navigation Satellite System)などの測位システムを利用せずに、安定して飛行できるドローン
自社と社会に共通する課題解決に大学発ベンチャーと挑戦
―― 創業50周年からの直近10年間は、産官学・地域など多様な連携を積極的に推進されています。連携開始は2014年でしょうか。
石田 はい、そうです。防水・塗装工事を請け負う当社は、仕様に基づいて材料を仕入れ、現場で施工します。自社製品を持っていなかったので、競合との差別化が難しく、「強みは何だろう」という課題感がありました。そこで、「請けて負ける『請負』ではダメだ。光るものを持とう」という父(同社代表取締役社長の石田敦則氏)の思いもあって開発室を設置し、展示会や講習会などへ積極的に参加してヒントを集めました。その過程で自社だけでは課題解決に至らないことが明確となり、室長になった私が1人で始動し、産官学・地域などとの連携を開始しました。
―― 着眼したのが、補修工法開発へのドローン技術の活用です。
石田 いきなりドローンに目を付けたわけではありませんが、本業で何ができるか、新たな可能性を探りました。しかし、どうしても「ありていのもの」にしかなりません。そこで自社と社会に共通する課題を整理してみました。
高度経済成長期の建物や橋梁の老朽化が進み、点検・補修現場が急増すること。一方で、建築土木業の就業者が少子高齢化で足りず、3K(きつい、汚い、危険)の高所作業で若い世代の担い手もいないこと。インフラ設備の維持管理を、より安全を確保し作業も効率的にして、生産性を向上する必要性に気付き、入り口の「調査」に目を付けて技術情報を収集しました。
そして、「空を飛ぶカメラやたたくもの」があれば人間の代わりができ、目視・打音検査の高所作業車やゴンドラ、足場組みも減らすことができる、と考えました。
―― 自社課題と社会課題が重なる解決テーマを見極めることが、第一歩になったわけですね。
石田 その後、2011年の東日本大震災で被災した福島県の原子力発電所で、人間が立ち入れない環境でも、自律飛行型のマルチコプターが自動巡回し、現場情報を取得していることを知りました。当時はまだドローンという言葉もなく、日本初の産業用マルチコプターを開発した千葉大学の野波健蔵先生(現名誉教授、日本ドローンコンソーシアム会長)に直談判し、教えを請いました。
―― 野波氏が起業した大学発ベンチャーの自律制御システム研究所(現ACSL)、国立研究開発法人建築研究所と「ドローンを活用した建築物の自動点検調査システム」の共同研究開発が2014年に始動しました。面識も紹介もない中でのアプローチが成功したのは、建築土木の現場施工を知り尽くす三信建材工業と連携するメリットが、大学側にもあったからでしょうか。
石田 ドローン技術を橋梁点検に使う、という発想はなかったですね。また、野波先生は開発技術を世に出し役立てたいと、社会実装を重視される研究者だったことも幸運でした。
―― 共同研究開発の成果は「非GPS(現・非GNSS)環境対応型ドローンやポールカメラを活用した近接目視(構造物)点検支援技術」として、2019年に国土交通省の「点検新技術性能カタログ」に掲載されました。
石田 山梨県の笹子トンネル天井板落下事故を契機に、2014年から全ての橋梁・トンネルのインフラ設備で、5年に1度は近接目視点検を行うことが管理者に義務付けられました。それに伴い、国土交通省が定期点検の近接目視の新技術を公募。当社もエントリーし、5年間の実証実験を経て、「現場で使う上で一定の評価試験を行った」とまとめられた証しが、このカタログへの掲載です。
―― 港湾や河川、水管橋でも新技術に掲載されて、開発の1つのゴールとしてお墨付きを得ました。
石田 国や全国の自治体で、橋梁など構造物点検における当社の実績は240件を超えました。ただ、どんなに高い技術も、実績がないと使いにくいもの。自社の売り込みよりも、分かりやすくブレークダウンし、プレーヤー仲間を増やすなど、技術そのものを普及・浸透する観点で取り組んでいます。
産官学連携で初めて共同研究開発し、国交省「点検新技術性能カタログ」に採択された「非GNSS環境対応型ドローンやポールカメラを活用した近接目視(構造物)点検支援技術」
新技術を実証しながら広く普及する地域連携
―― 普及・浸透においても、さまざまな地域連携が推進力になっています。特に「東三河ドローン・リバー構想推進協議会」(以降、東三河DR)では、管理者とのマッチング創出、ドローン飛行検査の実証実験や画像の検証・精度向上、現場作業や解析処理の効率化など具体的な団体活動が進んでいます。
石田 東三河DRは、新技術を「未来の道具」に変えて社会実装を目指す地域連携です。3つの研究会があり、その1つの「作業省力化研究会」では私が座長代理を務めています。分科会の「インフラ点検部会」では、地元の建設コンサルタントと連携して、性能カタログのドローン技術だけでなく他の技術も取り入れ、維持管理への活用に向けた実証実験を重ねています。
管理者の要求精度に応える3次元・AI画像や解析データの効率的な活用、工法の適用範囲や概算コストの検討、仕様化など、国がまだ手を付けていないこともすり合わせています。管理者(発注者)の国や自治体、受託する建設コンサルタント(元請)に成果を認知されることが重要ですし、データ管理手法なども研究課題として取り組んでいます。
―― 技術開発や普及・浸透の多岐にわたる連携の推進で、難しさを実感したことはありますか。
石田 技術面で必ず直面するのが、専門用語が分からず、意図もうまく相手に伝わらないことです。建築土木畑の当社にドローン技術の知見はなく、発想を具現化しにくいとも感じました。「できます」という言葉に、「研究として理論的にできる」という意味が含まれていて、取り組み始めてから「今の技術ではできない」と分かって、大慌てしたこともありました(笑)。
また、建設業である当社にとっての要求性能は「安全第一」ですが、研究領域では「機能のすごさ」が重視されるという面での認識の違いも大きかったですね。
―― 実証実験では、地域の自治体のバックアップが心強い存在だったそうですね。
石田 実験場所の確保が当社には難しい中、「あいちロボット産業クラスター推進協議会」の事務局である愛知県次世代産業室に尽力いただきました。橋梁や廃校、取り壊す建物の屋内環境など、ドローンが落下しても問題ない場所を確保できました。