メインビジュアルの画像
研究リポート
企業価値を高める戦略CFO研究会
経営者・経営幹部は、事業価値・企業価値を見極め、事業ポートフォリオを最適化する必要があります。会計ファイナンス思考による戦略的意思決定を学びます。
研究リポート 2024.11.11

財務戦略とIRで企業価値を向上~株価と資本コストを意識した経営~ 日本瓦斯

第5回の趣旨
企業価値を高める戦略CFO研究会第5回テーマは、「企業価値を高める長期ビジョン・価値創造ストーリー」。
今回は、ニチガス専務執行役員CFOの清田慎一氏より、「財務戦略とIR活動による企業価値の向上」についてご講演いただいた。
開催日時:2024年10月22日(東京開催)

 

日本瓦斯株式会社 専務執行役員CFO 清田 慎一氏

 

はじめに

日本瓦斯(ニチガス)は、LP・都市ガス事業や、生活関連事業、リフォーム事業などを手掛ける総合エネルギー事業会社である。

企業価値向上に向けて前述の2つに取り組む理由について、財務戦略は「株主が好む利益の上げ方があること」、IR活動は「世の中で知られていない会社は評価されないこと」が理由として挙げられる。

同社は、これらの取り組みによって株価を10年で約10倍に成長させている。また、「ROIC(投下資本利益率)向上のためには社員の気持ちにフォーカスした取り組みが必要である」と清田氏は語る。


ニチガスにおけるガバナンス改革と株価の推移

まなびのポイント 1:株主が好む利益の上げ方

株主が好む利益の上げ方とは、一言でいえば「使った元手に対しての利益(リターン)が大きいこと」であり、これを端的に表すのがROICとROE(自己資本利益率)である。

同社は2019年3月期以降、不必要な株主資本を持たない方針を徹底してきた。総還元性向100%を維持しながら高収益資産の割合を増やすことで、不要な資本を株主に還元し、自己資本を積み増やさず、自己資本比率を48%から来年末には40%に最適化する計画だ。

ROICとは「事業に投じた額全体と利益の比較」であり、ROEとは「出資額と利益の比較」である。そのため、株主が最も重視する指標はROEとなるが、そもそも事業全体が儲かっている(ROICが高い)状態でないと、ROEの成長にも限界があるという発想からROICも重視している。

まなびのポイント 2:ニチガスにおけるIR活動

IR活動において、「株主が本当に知りたいことは何か」という視点が重要であり、一般的な決算説明はPL(損益計算書)による利益説明の印象が強い。

株主が本当に知りたいことは、利益だけでなく財務パフォーマンスもあり、その中でもPL・CF(キャッシュフロー)・ROICなどの運用パフォーマンスに加えて、 WACC(加重平均資本コスト)・ROEなどの調達パフォーマンスの視点が必要となる。同社では、決算説明会資料19ページのうち、6ページを財務情報の説明に使っている。

また、同社はIR面談を年に300回以上実施をしている。さらに、決算説明電話会議やIR面談のアポイントを自ら依頼するなど「攻めのIR」を実施しており、その結果として2024年に機関投資家の人気投票でエネルギー業界1位、機関投資家比率約65%を達成した。


IRに関する取り組み(2023年)

まなびのポイント 3:人の気持ちにフォーカスすることで社内を動かす

ROICツリーの活用は有効な場面はあるが、結果的に同社には馴染まなかった。

本社主導の大型投資ではなく、現場主導の細やかな投資が積み上がり資産が形成される企業では、多くの個性が混じる社員を動かさないとROICの改善は果たせない。

そのためには、人の気持ちにフォーカスしたROIC向上施策が重要であり、同社においては、具体策の例示と合わせてROICを向上させる必要性を分かりやすいメッセージで伝えることが有効であった。

ROICの改善は効果が見えにくく難しいが、ROICの改善とはBS(貸借対照表)の再構築であり、短期的な努力と取られかねないPLの改善と比べると持続性が高い。この仕組みを浸透させることができれば、社内の理解度も進みROIC向上につながる。