今なぜ働き方を変える必要があるのか
段階的に進められてきた長時間労働の上限規制が、2024年4月から建設業・物流業にも適用されている。多くの人の労働力に頼って事業を営む労働集約型産業である建設業、物流業にとって、この規制適用は経営に非常に大きな影響を与えるものである。
建設業、物流業に限らず、あらゆる業種で「働き方改革」が進められる中、早い段階から組織体制・人事制度の改革に着手した会社もあれば、労働時間管理システムをようやく導入した会社もあり、その推進状況には格差があると言える。
働き方改革というと、どうしても長時間労働の抑制や休日の増加といった、労働時間の管理を考えがちである。しかし、現在の業務の在り方を変えずに、単に労働時間を削減することだけが、果たして社員にとって良いと言えるだろうか。また、そうした手法の改革で、会社は労働力を確保し続けられるだろうか。
本来、働き方改革は会社にとっても社員にとっても、精神的・肉体的・社会的に満たされた状態、つまり「ウェルビーイング(Well-being)」を実現するものであるべきだ。言い換えるならば、「人的資本経営」にもつながる取り組みが働き方改革なのである。
人的資本経営につながる働き方改革とは
経営「資源」である人材を投入し、投入量に応じた十分な価値が生み出されているかどうかを「管理」することに主眼を置く経営を「人的資源経営」と呼ぶ。それに対し、人材を「資本」と捉え、その価値が向上すること(=成長・活躍してもらうこと)が、企業価値の向上にもつながるという「投資」の発想が「人的資本経営」である。
企業の発展のために人材という財産に投資する。投資というからには、当然リターンを期待するわけだが、リターン、つまり「人材の成長・活躍」を信じることが人的資本経営の第一歩である。では、「人的資本経営」にもつながる真の働き方改革に向けて、どのような視点で取り組めば良いのだろうか。
そもそも、働き方改革の本質とは何か。結論から述べると、働き方改革は「ビジネスモデル改革」である。筆者の持論だが、このビジネスモデル改革には、①組織変革の推進、②DX戦略の推進、③事業ポートフォリオ組み直し、といった順序があると考えている。(【図表1】)
【図表1】働き方改革の本質
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
それぞれの段階における施策とキーワードについて詳しく述べる。
短期施策:組織変革の推進
組織の構造から変革していく。コア業務への集中、受注基準の決定、それを全社員活動にすることで、結果として組織風土を変化させるのが重要なポイントである。
中期施策: DX戦略の推進
明確なDXビジョンを持ち、組織を新しくつくり、デジタル投資の優先順位を決めることが重要である。昨今はDXが注目され、デジタル化の投資をしている会社は増えているものの、DXのD(デジタル化)は進んでいるがX(トランスフォーメーション)していない企業は少なくない。そこに足りないのは「全体像としてどうあるべきか」というDXビジョンである。DXビジョンから入り、お客さまの満足度向上や利益上昇といった生産性向上に直結するデジタル投資が必須だ。
長期施策:事業ポートフォリオを組み直す
事業ポートフォリオとは、企業が運営する事業・プロジェクトの集合を指す。年商100億円を超える企業になると、事業構造は1つではなく、複数の事業の組み合わせになってくるが、既存事業を守りながら新規分野の割合を増やすことが、事業ポートフォリオ変革に際し非常に重要になる。キーワードは「高付加価値、高単価、低稼働率」。低稼働率でも利益が出る仕組みが必要な基準であり、結果として高付加価値でなければならないし、高単価になる。
また、足元の業績をつくるため、まずは受注価格の適正化を図る必要がある。我々の思想には、「良いものをより安く」という言葉がなじんでしまっているが、昨今のインフレや人件費の上昇を鑑みると、「良いものは適正価格で」という考え方が肝要である。
見直すべきは、ソフトやサービスの価格が適正化されているかどうかだ。これらの価格は見落とされがちだが、建設業であればアフターメンテナンス、物流業であればオプションなどの価格が適正であるかどうかを確認する必要がある。
成長戦略におけるビジネスモデルの再構築、事業戦略・経営戦略まで幅広い知見を有するトップコンサルタント。戦略ドメイン&ファンクションの専門性を融合した課題解決を支援し、企業変革のプロフェッショナルとして高い評価を得ている。マーケティングDX・SDGs・新規事業開発の領域など、多岐にわたるクライアントのプロジェクトを手掛ける。