ブランドという言葉を聞かない日はない。ブランドは元々、「牧場の所有者が他者の家畜と自分の家畜を区別するために焼き印を施す行為」を表す北欧の言葉に由来すると言われている。古くから自社と他社を何らかの情報によって区別するということは多く行われてきた。しかし、インターネットやスマートフォンが発達した現在において、ブランドに関する情報はあまりに多く、ブランドは世の中にあふれている。
ナショナルブランド、プライベートブランド、ハイブランドなど、ブランドの種類は数多く存在し、それぞれのブランドによって表現される企業・商品・サービスは数え切れないほど世の中に提供されている。
そのため、コモディティー化(一般化)しているブランドも多く存在するのが実情だ。企業が提示するブランド固有の付加価値の多くが、顧客(ユーザー)からはうまく認識されず、競争優位性を生み出せていない。その結果、同一仕様のブランドが価格の優劣のみで選択される状況になっている。つまり、企業の提示している「ブランド」はその意味を成していないものが多いのである。
多くのブランドがコモディティー化している一方で、顧客から愛され、付加価値を有し、他と明確な差別化を図れているブランドも存在する。なぜその企業は、差別化を実現できているのか。それは、ブランドの目指す姿を明確にすることで理解してもらい、社内外に浸透させているからである。その目指す姿を「ブランドコンセプト」または「ブランドビジョン」と言う。
ブランドコンセプトとは、自ブランドが約束する顧客ベネフィット(顧客が感じる知覚価値)や実現したい世界観を一言でまとめた言葉である。コーヒーチェーン店のスターバックスは「サードプレイス」、日用衣料品のグンゼは「明日をもっと、ここちよく」、キャンプ用品のスノーピークは「人生に、野遊びを。」というコンセプトを掲げている。このコンセプトを全ての活動の軸にすることによって、顧客に愛される付加価値の高いブランドを実現しているのである。
ブランドビジョンとは、ブランドのコンセプト、目指す未来像や理念・ミッション、価値創造ストーリーを言語化したものである。
例えば、飲料・医薬品メーカーのキリンホールディングスは、2027年に目指す姿を「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」、大手ゼネコンの大林組は「MAKE BEYOND つくるを拓く」、通信機器事業のNTTドコモは「あなたと世界を変えていく。」というビジョンを掲げている。ブランドコンセプト同様、このビジョンを企業活動の軸に据えることで、顧客に愛される唯一無二のブランドを築いている。
顧客へのメッセージ要素が強いブランドコンセプトに比べて、ブランドビジョンは自ブランドがどのような姿になりたいかという社員向けのメッセージ要素が強い。どちらを用いるかはブランドの目的や考え方によって異なるが、成功するブランドの共通点は、目指す姿であるブランドコンセプトやブランドビジョンが社内外に浸透し、それに基づく企業活動が日々実践されていることにある。好例としてカトープレジャーグループが挙げられるだろう。
前述の通り、ブランドコンセプトやブランドビジョンを定義し、社内外の人々とコミュニケーションを取ることにより、価値の高いブランドを築くことができる。しかし、それらを企業活動に落とし込み、一貫性を持たせることは容易ではない。実際、コモディティー化しているブランドの多くが、この一貫した活動を実現できていない。
では、ブランドビジョンを企業活動に実装する際に考えるべきポイントは何か。これを定義したものが「TCGブランドバリューチェーン(新・ブランディングの7つのステップ)」(【図表1】)である。
【図表1】ブランド価値を最大化する「TCGブランドバリューチェーン(新・ブランディングの7つのステップ)」
自ブランドが保有するブランドバリューを基に、ブランド価値を整理し、自ブランドの目指す姿としてブランドビジョン(ブランドの目指す姿・価値創造ストーリー)を新しく設定する。このブランドビジョンを企業としてデザイン化するため、ブランドのビジネスモデルとブランド名・ロゴなどのブランドアイデンティティーに落とし込む。
その後、ブランドを築くプロセスを設計した上で、インナーとアウターに向けたブランディングアクションを具体化する。
これらの手順を踏みながら、自ブランドを設計・具体化するプロセスが「TCGブランドバリューチェーン」である。この連鎖した考え方・活動を行うことにより、ブランド価値は最大化できる。