その他 2023.04.03

社会への貢献にかける創業者の意志を継承:TOTO

 

 

創業以来、水環境と公衆衛生を守る製品の開発に努めてきたTOTOにとって、「ESG経営」は新しい取り組みではない。貴重な水資源に負荷の少ない清潔なトイレ文化の普及をリードする同社が、「ESG経営」実現に向けて注力している重要課題とは。

 

 

創業当初から貫いてきたESG経営

 

東洋陶器(現TOTO)の創業は1917年。当時、日本では明治以降の急激な近代化で人口と工場が一気に増え、汚水処理が深刻な環境問題になっていた。コレラや赤痢など水因性の伝染病が流行し、多くの人々が命を落としていた時代である。

 

そのような状況に課題意識を抱いていた創業者の大倉和親氏は、ヨーロッパを訪問した際に腰掛型の陶器製トイレがあることを知り、衛生的なトイレの普及が日本社会の発展につながることを確信。TOTOのものづくりは、国による下水道・下水処理場などのインフラ整備や、環境・衛生に関する法整備よりもずっと前に、人々の衛生意識を啓発するところからスタートしたのである。

 

以来、世界18カ国・地域(日本を含む)で事業を展開する同社の活動は、全て「健康で文化的な生活を提供したい」という大倉氏の意志に根差している。

 

「『水まわりを中心とした、豊かで快適な生活文化を創造します』という理念は、当社を取り巻くビジネス環境がどれだけ変化しても変わらないハートの部分です。TOTOの存在意義を示す『グループ共有理念』として多言語に翻訳し、世界中の社員一人一人へ丁寧に共有しています」

 

そう話すのは経営企画本部ESG推進部(小倉)企画主幹である曾根崎修司氏だ。「経営」と「CSR(企業の社会的責任)」を一体のものとして考え、企業理念を実現するための本業としてCSR活動に取り組んできた同社は、国際的なESG投資指標「Dow Jones Sustainability World Index(DJSI World)」※1の構成銘柄にも選定されている。

 

 

節水へのたゆまぬ挑戦から生まれたコア技術

 

ESG経営の成果は、同社の代名詞である「超節水トイレ」の技術革新に見て取れる。戦後の人口増加と高度経済成長で市場が拡大するとともに、水不足が社会問題となっていた1973年、同社は大規模な投資を決断し、本格的な節水型トイレの開発に乗り出した。6階建ての仮設ビルを建て、3年がかりで実証実験を行った。1976年に大洗浄1回当たりの水量を20リットルから13リットルへ劇的に削減したという。(「TOTO百年史」より)

 

「当社がこだわってきたのは『節水量』だけではなく、『洗浄性能』『快適性』との両立です。汚物とトイレットペーパーを1回でしっかり流せなければ2回、3回と水を使うことになるからです」と曾根崎氏は語る。

 

その後も、内部機構の形状と水流のバランス、汚れが付着しにくい表面加工技術、清掃しやすい便器の形状などの研究を重ねた同社は、1993年に6リットル洗浄のトイレを発売。進出して間もない時期に米国市場で売り上げを伸ばした。

 

「水不足が深刻化していた米国で、折しも1994年に1回当たりの洗浄水量を6リットル以下に規制する法律が施行されたのです。それもあってか、製品を購入する家庭が増え、『1回でしっかり流せるトイレ』として大反響を得ました」(曾根崎氏)

 

それから30年、2023年現在の最上位モデルは洗浄水量3.8リットルまでに進化を遂げ、超節水トイレとしてブランド力を発揮している。

 

「水源に恵まれ、今のところ洗浄水量の制限もない日本では実感しにくいかもしれませんが、地球上にある13.8億立方メートルの水は97.4%が海水で、淡水はわずか2.5%。そのうち私たちが実際に利用できる水は0.01%しかありません。世界の水不足は危機的な状況であり、トイレの洗浄水量に厳しい規制をかける地域が数多く存在します」(曾根崎氏)

 

同社では、企業理念に掲げた「お客様の期待以上の満足を追求します」という言葉通り、国の規制よりもはるかに先んじて人類の生存に不可欠な水資源の危機と向き合い、これまでの常識を超える節水に挑戦してきた。その中で生み出されたのが、汚れが付着しないよう陶器表面の凹凸を100万分の1ミリ単位でなめらかにする「セフィオンテクト」(1999年)と、外に飛び出すことなく水を旋回させて汚物を流す「フチなし・トルネード洗浄」(2002年)という2つのコア技術であり、これらが他社の追随を許さない強みになっている。

 

 

※1…世界的なESG投資の指標。米国の金融サービス企業S&P Globalが持続可能性(Sustainability)に優れた企業を評価する際に用いる

 

 

出所:TOTO提供資料よりタナベコンサルティング作成