顧客創造投資:長尾吉邦
日本企業は「総下請け体質」であり、最大の課題は「新しい顧客の創造力」である。
思い返せば、タナベ経営(現タナベコンサルティング)の「ファーストコールカンパニーフォーラム2015」(2015年6~7月開催)で提言した「収益力:売上高経常利益率10%を実現する5つの条件」は次の通りであった。
第1の条件:オンリーワンポジションの確立
第2の条件:提供方法の独自化とブランディング活動の強化
第3の条件:リピート・紹介を重視したベースモデルの確立
第4の条件:収益の変動と格差の解消
第5の条件:顧客創造投資
この提言も参考にしていただきながら、各社は改善努力を積み重ねてこられた(日本の一企業当たりの売上高経常利益率:2019年度4.8%⇒2020年度5.0%、経済産業省「2021年企業活動基本調査確報-2020年度実績-」)。ところが、企業物価高(原料・材料・部材)の環境下において価格転嫁が遅れ、再び収益率が悪化傾向にある。
「顧客から価格アップを認めてもらえない」「顧客が離れるのが怖い」「既存チャネルを失うと売り上げが見込めない」。この3つが理由の大半を占めている。コストダウンや生産性アップ、アセットライト(保有資産を必要最小限にすること)で悪化を補おうとしているのが、いまの実態だ。
しかし、よく考えていただきたい。これらで得た利益は本来、社員の給与アップや未来投資に振り向けなければ、企業は“ジリ貧”へと向かい未来を失っていく。刺激的な表現ではあるが、思考も行動も「下請け体質」であることが本質的な課題なのだ。
いま、日本企業の課題は「新しい顧客の創造力」である。いわば、下請け体質からの脱皮だ。
そこへの投資が必要である。①商品・サービス開発への投資、②マーケティング・セールスリソースへの投資(営業担当者の増員、営業サポート担当者の増員)、③ウェブマーケティングへの投資(国内外の新規顧客リードをウェブで獲得する仕組みの構築)、④ブランディングへの投資(広告宣伝、広報)など、蓄積してきた自己資本も活用して顧客創造投資をかけていく。
筆者が考える“自立企業”の目安は「新規顧客の売上高比率40%」「新商品・サービスの売上高比率40%」。①~④の投資により、この2つの目標を実現していただきたい。