vol.19、vol.20では、後継経営者に必要なマインドセット、押さえておくべき経営指標について解説しました。今回は、後継経営者が次代を創るためのビジネスモデルデザインについて見ていきます。
タナベコンサルティングでは事業経営を「1T4M」という切り口で整理し、事業と経営を明確に区別して考えています。
事業とは、自社の強みとする固有技術(テクノロジー)で新たな市場(マーケット)を開拓し、顧客(需要家)を創造していくこと。経営とは、管理技術(マネジメント)、財務技術(マネー)、人材(マン)を駆使して安定業績を実現し、企業の存在価値を高めつつ継続発展させていくことです。
トップには2つのタイプがあります。固有技術を生かしてマーケットを開拓し、事業を興すことが得意な「事業家タイプ」と、管理技術、財務技術、人材資源をうまく活用して優良企業に育てることが得意な「経営者タイプ」です。
事業センスと経営センスの両方の才覚がある経営者はまれです。社長自身が事業家タイプなのか、経営者タイプなのかをしっかりと見定め、自身の強みを生かし、内閣づくりと取締役の責務に取り組むことが大切です。
ミッションとは、理念に基づいた企業の存在価値や使命であり、言い換えれば「社会的役割」。したがって、企業におけるミッションとは「社会の課題を解決すること」です。ミッションを追求するためには、ソリューション(課題解決技術)が必要であり、ソリューションこそがビジネスモデルとして構築・展開されていくのです。
企業の根幹を成す理念は不変のものです。しかし、ミッションは時代とともに変えていく必要があります。なぜなら、社会課題・顧客課題が社会環境の変化、顧客の環境変化とともに変わるからです。
すなわち、社会課題・顧客課題が変われば、ミッションを再定義していかねばなりません。それは、顕在化している課題だけではなく、今後起こり得る潜在的な課題や価値観の変化による新たな課題の発生など、時代や環境の変化によって社会的課題が変化・多様化していくからです。
いま一度、皆さんの会社を取り巻く社会課題・顧客課題を見つめ直し、「未来に確実に起こる顕在的課題」「未来に起こり得る潜在的課題」「自社の顧客や商品の先にある課題」と照らし合わせ、「ミッションを再定義」していきましょう。
儲かっているからといって、一つの事業ばかり行っていると、いずれ経営のバランスを崩すことになります。これを予防し、正しく変化(シフト)する事業戦略が「1T3D戦略」です。
「T」は「テクノロジー(固有技術)」、「D」は「ドメイン(事業領域)」の意味であり、ターゲットとなる事業領域を3つ以上創造することを指します。
ある事業でナンバーワンになっても、トップであり続けることは難しいもの。その地位に甘んじることなく「1つの固有技術を駆使して、3つ以上の事業領域を攻略し、リスクを分散しながら、それぞれで“ナンバーワンブランド”の創造に挑戦すること」が1T3D戦略の本質です。
まず、ターゲットに設定したドメインでニッチトップ(隙間でナンバーワン)になります。しかし、主役は必ず交代すると認識し、「卵を一つの籠に盛らない」よう、新規事業開発へ取り組まなければなりません。
すなわち、環境変化に応じてドメイン自体も変化し、また細分化していることを認識する必要があります(近年はドメイン×ドメインというハイブリッド型も見受けられます)。
既存ドメインで通用していた強みが、ドメイン再定義後でも通用するとは限りません。自社が参入しているドメインおよび今後参入しようと検討しているドメインについて、再定義する必要があります。
企業はしっかりと事業目標を決めなければなりません。利益目標だけではなく、将来においての事業の存続と繁栄に結び付く全領域にわたって設定すべきです。
事業目標として設定すべき項目は、①中長期損益目標(3~5年後の売り上げ、利益など)、②3~5年先の予想バランスシート(財務体質目標)、③市場におけるポジション、の3項目です。
さらに、中期経営計画よりも上位に設定すべきなのが「1、10、100」の目標です。
「1」とは、「ファーストコールカンパニー 一番に選ばれる会社」になること。一番に選ばれる会社にならないと生き残ることができない環境になっています。言い換えるならば、一番を狙えるマーケットに絞り込んでいくことが必要です。
「10」とは、「売上高経常利益率10%」。会社が存続するためには、変革し続けていくことが求められ、変革のためには原資が必要です。
「100」とは、100年。100年先まで存続できる会社を目指します。変化と成長を重ね、ナンバーワンブランドを創造することです。
また、ファーストコールカンパニーを目指すための目標設定として、次の基準値を達成できるよう事業そのものの再設計を検討していきましょう。