エムスリー(東京都港区)の成長が止まらない。2021年3月期の売上収益(連結)は1691億9800万円(前期比29%増)、営業利益579億7200万円(同69%増)、売上収益営業利益率34%(同8ポイント増)。2011年3月期と比較すると、10年間で売上収益は約11倍、営業利益は約9倍である。
同社は「エムスリーの目指すもの」として、「インターネットを活用し、健康で楽しく長生きする人を一人でも増やし、不必要な医療コストを一円でも減らす事」というミッションを掲げている。
コア・コンピタンスは、30万人以上(全医師の92%)の医師が登録するプラットフォーム「m3.com」。ミッションから落とし込まれたインターネットによるソリューション事業を、M&Aも活用しながら次々と開発、事業化している。進出国数は10、事業タイプ数は26、展開事業数(タイプ×国)は41(2018年度実績)で、これからも成長の余地は大きい。
エムスリーのビジネスモデルは秀逸であり、同時に企業のビジネスモデルのデザインにも大きなヒントを与えてくれている。ポイントは次の3点だ。
①ペルソナ(ユーザー像)は誰か。それをプラットフォームとして認識し、「人と人をつなぐ」をベースに顕在・潜在ニーズを発見する。BtoB事業においては、ペルソナの設定を「法人格」にすることがあるが、もう一歩掘り下げて「ヒト(個人)」にしてほしい。
②サービスをデジタルに限定して開発する。リアルをデジタルに置き換えることを優先すると、時間を浪費しがちである。最初からデジタルで完結するソリューションに限定して開発するという振り切りが必要だ。その上で、ソリューションサービスという事業の軸を増やしていく。
③進出するグローバルリージョン(国)のマーケットに適した事業を選ぶ。事業の横軸はエリア拡大だ。前述したエムスリーの展開事業数を確認いただきたい。「国(10カ国)×事業タイプ数(26事業)=260事業」になるはずが、「41事業」である。
すなわち、各国・地域のマーケットに適した事業に絞って海外へ進出しているのだ。タナベ経営は、これを「グローバルリージョン戦略」と呼んでいる。グローバルという地域はなく、米・ニューヨークも、英・ロンドンも、中・上海も、全てがリージョナルである。つまり、どの国にも適用できる「グローバル事業」は存在しないという前提に立ち、各エリアのマーケットに適した事業から入るやり方だ。しかも、同社のようにデジタルサービスであれば、リアルと比べて進出のハードルが格段に下がる。
このように、ペルソナのプラットフォーム化、デジタルソリューション(縦軸)とエリア(横軸)の拡大というビジネスモデルは、成長性を約束してくれると言えよう。