サクふわトーストメーカー
消費者の声を拾い上げる商品開発で、ヒットを連発するトップ産業。
かゆいところに手が届く絶妙なアイデア商品はもちろん、商品を通した便利な生活を連想させる企画提案型営業で、販売数を伸ばしている。
生協(日本生活協同組合連合会)のカタログに掲載される生活雑貨を中心に幅広いアイテムを取り扱うトップ産業。和装バッグを製造するメーカーから商社へと転身した同社は、数々のアイデア商品を生み出すヒットメーカーとして注目を集めている。
4000点以上のオリジナル商品を持つ同社の商品開発パターンは大きく2つに分けられる。1つは、世の中にまだ存在しない商品をゼロから作り上げる開発だ。
例えば、型を押し付けるだけで食パンに切れ目が入る「サクふわトーストメーカー」や、保管場所に困る紙袋をすっきり収納する「出し入れカンタン紙袋収納ケース」などがある。日常生活で感じる小さな不満や困り事を丁寧に拾い上げ、ありそうでなかった便利な商品を世に送り出している。
もう1つのパターンは、市販されている商品の改良やコストダウンによって魅力を引き出す開発である。台所用のスポンジをペンギン型にし、かわいらしさと食器の隅々まで洗える利便性を両立させた「5つ子ペンギンスポンジ5色組」や、脱ぎ履きしやすい「履き口ゆったりトイレスリッパ」などが挙げられる。
履き口ゆったりトイレスリッパは、本体のサイズはそのままに甲の部分だけワンサイズ上のパーツを使用し、内側の生地を滑りの良いポリエステルに変えた商品。すでに進化を終えたように見えるトイレスリッパに、ちょっとしたアイデアを加えた結果、発売から1年半で11万足以上を売り上げる人気商品へ変身させた。
なぜ、消費者のかゆいところに手の届くアイデア商品が次々と生まれるのか。代表取締役社長の松岡康博氏にヒット商品開発のポイントを聞くと、「秘密はモニター会議にある」という答えが返ってきた。
トップ産業の商品開発の鍵を握る「モニター会議」とは、「30~60歳代の主婦モニターと開発担当者が集い、アイデアや要望の聞き取りや使用テストを報告してもらう会議」(松岡氏)のこと。1981年に始まったこの会議は現在40年目に突入し、松岡氏が「当社の基幹となる会議と捉えています」と言うほど重要なポジションに位置付けられている。
モニターは試験や面接を経て決定し、1回の契約期間は4カ月。前回から更新されたモニターも含め、随時4~6名が活動している。基本的に1月と8月を除く毎週金曜日(月4回)の10時から16時まで開催され、モニターが作成した3本のレポート発表のほか、試作品の感想や改良点などをざっくばらんに話し合う。
レポートの内容は、使用している商品への不満や新商品のアイデア、困り事など、日々の生活の中で感じたちょっとした気付きだ。3本のうち1本は、「浴室の掃除」「キッチンの収納」など与えられたテーマについて発表するルールである。モニターは普段から家事や子育てを担う主婦だけに、ハッとさせられる発見や厳しい指摘も多いという。
「私も毎回、モニターのレポートを見ていますが、『色がダサい』『高い』『こんなの家に置きたくない』など、感じたままの忌憚のない意見が挙がっています。逆に言えば、素直に発言していただけないと良い商品開発にはつながりません」(松岡氏)
ヘアアイロン収納ポケット
モニター会議を経て誕生したヒット商品の1つが、「ヘアアイロン収納ポケット」だ。きっかけは、ある女性モニターの困り事。彼女は出勤前にヘアアイロンを使っていたが、毎朝、洗面台の上に置いたままの状態で家を出るしかなかった。使用直後のアイロン部は温度が200℃以上あるため、すぐに収納すると家具が傷んだり、火事になったりしないか心配だったからだ。
「これを聞いたとき、『同じように困っている人がたくさんいるだろう』と直感的に思いました」と松岡氏は語る。解決できる商品が市販されていないかを徹底的に調査したが、どこにもヘアアイロンを安全に収納できるポーチはなかった。もともと同社は和装バッグメーカー。早速、ノウハウを生かして商品開発に着手したものの、「何度も試作を繰り返した」と松岡氏は振り返る。
当初、市販されているポーチ類を参考に販売価格2900円を提案するも、モニターは「1200円ぐらいじゃないと買わない!」とバッサリ。さらに、試作品を目にしたモニターから、「こんな色の商品は使いたくない」「旅行にも持って行けるサイズにしてほしい」「コードをすっきり収納したい」「タオルハンガーに引っかけたい」など、数々の要望が出された。
一見、わがままにも思えるモニターの声を1つずつクリアし、完成した商品を2016年に発売。瞬く間に多くの女性の支持を獲得し、累計販売数12万個を売り上げるヒットを記録した。
モニターの声がヒットにつながったことは間違いない。だが、数々のヒット商品を送り出している同社なら、細かい要望まで全て真摯に受け止めなくとも、売れる商品を作ることができるだろう。しかし、松岡氏は「売れることが目的ではない」と、きっぱりと言い切る。
「アイデアを積み重ねて商品を作り上げるのは、当社のものづくりの原点です。約50年前に開発した和装バッグの時代から、『商品を使うお客さまに喜んでいただきたい』という姿勢は変わりません」(松岡氏)
「和装バッグ」とは、着物をきれいな状態でコンパクトに運べる同社の看板商品。1972年に松岡康博氏の父で創業者である松岡繁二氏が開発し、現在も売れ続ける超ロングセラー商品だ。試作品を作っては社員や隣人、知り合いに試してもらいながら、着物に折り目が付かないよう持ち手の位置を変えたり、小物を収納するポケットを付けたりといった工夫を重ねた結果、同商品は今でも和装バッグのナンバーワンを走り続けている。
和装バッグ
「爆発的な大ヒット商品より、長く愛される商品を提供したい。それが当社の考え方です。そうした商品を開発するには、モニターの生の声が欠かせません。加えて、モニター会議を進行するコーディネーターの存在が非常に重要です」(松岡氏)
現在のコーディネーターは、社歴30年ほどのベテラン社員。「会社の都合よりも、モニターの『欲しい』『困っている』という気持ちに寄り添える人が良いコーディネーターになる」と松岡氏は言う。
また、モニター会議は営業面でも多くのメリットをもたらしている。同社は主に生協を通して商品を販売しているが、単に注文の入った商品を卸すだけでなく、商品を掲載するカタログ誌面用の写真撮影からキャッチコピーの作成、レイアウトまで、全てを社内で手掛ける。その際、主婦モニターの生の声をキャッチコピーに使ったり、モニターが発見した便利な使い方を再現した広告写真に変更したりすることで、ヒット商品へと”昇格”するケースも珍しくない。
アイデア商品の販売ではなく、商品を通して快適な生活を提供すること。同社のビジネスはそう表現できる。この価値を実現する開発・販売の両方の過程に、モニター会議は大きく貢献しているのだ。
モニター会議のノウハウが蓄積された今、ビジネスモデルの選択肢として考えられるのは、川上への進出である。実際、小売りや商社がメーカー機能を持つ事例もあるが、松岡氏はそうした変化には否定的だ。
「モニター会議では、事業領域に関係なくさまざまな要望が出されます。それらに何とか応えようとする挑戦が、当社の商品カテゴリーや事業領域を広げてきました。しかし、メーカーになってしまうと、経営上どうしても挑戦の範囲を自ら制限せざるを得ません。重要なのは、モニターの思いに応えること。今は、商社であり続けたいと思っています」(松岡氏)
その言葉の通り、今後も企画提案型の商社として、アイデア商品の開発に注力していく考えだ。ただし、「分野は広げていきたい」と松岡氏。中でも、視野に入れているのが食品分野への進出だ。
グループ会社で食品を中心に扱う通販会社・優生活での販売を念頭に、「モニター会議を活用した商品開発に挑戦したい」と松岡氏は話す。また、海外についても、中国にモニターを活用した商品開発拠点の立ち上げ準備を進めている。「中国人社員も育っているので、コロナ禍が落ち着けばすぐに着手したい」と意気込みを語る。
コロナ禍で生活様式は大きく変わり、「家を快適にしたい」「家族と過ごす時間を大事にしたい」というニーズが膨らんでいる。トップ産業が目指すのは、暮らしを豊かにする「生活文化創造企業」。これからも消費者起点のものづくりを通して、皆が笑顔になるアイデア商品を届けていく。
PROFILE
- トップ産業(株)
- 所在地:大阪府吹田市豊津町12-43 トップ産業ビル
- 創業:1964年
- 代表者:代表取締役社長 松岡 康博
- 売上高:130億円(グループ計、2020年9月期)
- 従業員数:200名(グループ計、2021年2月現在)