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モデル企業
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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2020.06.30

無添加石けんで「人にも環境にもやさしい」ことを シャボン玉石けん

本当に良いものを消費者に届けたい。その願いを、全世界で目指すゴールに重ねる「SDGs宣言」とし、さらなる持続可能性を追求する取り組みに迫る。

 

 

SDGsと重なる企業理念

 

「♪てのひらシュシュッシュー、てくびもキュキュッキュー♪」。軽快なリズムに乗って歌いながら楽しく正しく手を洗えるのが、シャボン玉石けんオリジナルの「シャボンちゃんの手あらいうた」だ。

 

「子どもはすぐに口ずさんでくれ、大人も楽しんでくれます。新型コロナウイルス対策として『手洗いダンス』を動画サイトにアップしてくれる方も増えました」

 

そう語るのは、シャボン玉石けん代表取締役社長の森田隼人氏である。同社は化学物質や合成添加物を一切使わない無添加石けん市場を創り出した先駆者。2009年には感染症対策研究センターを設立し、感染予防や衛生管理の研究・提案普及にも取り組んでいる。

 

「まず自らがやる」という主体的な経営姿勢には原点がある。高度経済成長期、自社の主力製品である合成洗剤が環境や体に有害だと知って無添加石けん製造へとかじを切ったことだ。以来、「健康な体ときれいな水を守る」を企業理念に、人にも環境にもやさしいものづくりを貫いてきた。そして2019年1月、事業分社化したグループ4社全体で「SDGs宣言」を新たに発表した。

 

「当社がずっと取り組んできていることはSDGsにリンクします。何を大切にするのか、どうやって実践していくのか。私自身にも社員にも、また社外に対しても明確に示すため、SDGs達成に取り組むことをあらためて宣言しました」(森田氏)

 

同時に、シャボン玉石けんが実現する「持続可能な世界」のコンセプトイメージを描き出した。事業の三つの柱「化粧品・家庭用品、ヘルスケア、環境」の展開や社会貢献活動と、SDGsの17ゴール全てが重なるのは、揺るぎない理念を体現してきた証しと言える。

 

看板商品の無添加石けんは、大釜の中で約1週間、天然油脂をじっくりと炊き上げ、油脂本来の保湿成分を石けんに残す「ケン化法」。使う人にも使った後の水環境にもやさしい、SDGsが目指す姿にかなう商品だ。

 

2015年に活動を開始した「1% for Natureプロジェクト」では、一番の人気商品『シャボン玉浴用3個入り』の売上金額の1%を、人と環境にやさしい活動に寄付。ミャンマーで井戸を建設する「命の水事業」や屋久島の生態系保全など、多彩な活動を支援し続けている。

 

同社はそんな自社像をSDGsという鏡に映し出すことで、社員の意識と実践力や顧客の共感を高めている。先導役はマーケティング部が担い、社内では外部講師を招いたセミナー開催やSDGsカードゲームによる学びを実践。無添加石けんファンが集う「シャボン玉友の会」の会報誌でも積極的に情報を発信している。

 

「無添加石けんの製造を始めてから約半世紀、持続可能なものづくりを実践している自負があります。ただ、十分な対応ができていない部分もあります。企業理念やSDGsに照らし合わせると、原材料や包装資材など、改善の余地がある課題が浮き彫りになりました。健康や福祉、水と衛生、海・森の自然環境を守ることなど、今までやってきたことを軸に、『つくる責任 つかう責任(ゴール12)』『パートナーシップで目標を達成しよう(ゴール17)』にも貢献する取り組みを充実させていきます」(森田氏)

 

 

シャボン玉石けんが取り組むSDGs

 

 

 

 

 

 

 

地元・北九州市と「包括連携協定」を締結

 

SDGs宣言を経営の推進力とするシャボン玉石けんは、2019年12月、地元の北九州市と「SDGs包括連携協定」を締結した。同市は「SDGs未来都市」(内閣府)や「SDGsモデル事業」(内閣官房)に選定され、2017年には第1回ジャパンSDGsアワード「特別賞(パートナーシップ賞)」(SDGs推進本部)を受賞するなど、環境問題へ積極的に取り組んでいる。

 

「SDGsを広める上で、互いにとってメリットしかない。そう考えて『世間での認知度を高めるため、一緒に情報発信していきましょう』と当社から市に呼び掛け、快諾をいただきました」(森田氏)

 

環境問題へ積極的に取り組む北九州市とシャボン玉石けんは、以前よりさまざまな活動で連携してきた。少量の水で迅速に消火でき、消火後も環境負荷の少ない石けん系泡消火剤「ミラクルフォーム」を、北九州市消防局や北九州市立大学、古河テクノマテリアルとの産学官連携で開発。現在はこの技術を応用し、インドネシアの泥炭・森林火災用消火剤の普及実証実験に共同参画している。冒頭で紹介した「手あらいうた」も、北九州地域感染制御ティームの監修によるものだ。

 

包括連携協定で推進する活動は多面的だが、初年度は「防災・災害対策」「健康増進」「SDGsの推進」「ふるさと納税」の四つをスタートした。防災・災害対策は石けん系泡消火剤の開発・実証実験を継続。健康増進は、北九州市立八幡病院の医師や地場ドラッグストア、学校や自治会など広範囲な連携で感染症対策を推進。ウイルスを不活化する無添加石けんハンドソープ「バブルガード」を使用し、感染予防の手洗い教室を開催している。

 

「自治体と地域企業が連携したことで、『やりたくてもできなかったことが実現できた』との言葉をドラッグストアからいただきました。北九州市立八幡病院の院長・伊藤重彦先生は感染予防研究の第一人者でもあるので、つながりを深め、活動を広げていきたいと考えています」(森田氏)

 

さらに、SDGsの認知・理解促進に向けて、北九州市や朝日新聞社と「私のSDGsコンテスト」を共催。川柳・フォトの2部門に4710件の応募が集まった。地域貢献としては、ふるさと納税制度の返礼品を新たに開発し、市の財源確保に協力している。

 

国内屈指の炭鉱都市として栄えた北九州市は公害問題を、シャボン玉石けんは合成洗剤と決別し17年続いた赤字経営の危機を、どちらも乗り越えて転機に変えた共通点がある。パラダイムシフトや次代を見据えたアプローチに共感・共鳴し合える包括連携は、これからさらに実りあるものになろうとしている。