自動化が難しいとされる「弁当のおかずの盛り付け作業」を、人間の隣で安全に⾏うことができる協働ロボットが開発された。弁当や総菜などを提供する中食業界の製造ラインで使えるロボットは珍しく、注目を浴びている。
Foodly(フードリー)
POINT①:適度な力加減でおかずをつかむことができるハンド。トングが食材をつかんだかどうかは、センサー情報から推定してFoodlyが判断する
POINT②:一緒に作業する人の指や手が挟まりにくい安全設計のアーム。肘を限界まで折り曲げても、上腕部と前腕部の間に隙間ができる
POINT③:身長150cm、肩幅39cm。狭い弁当盛り付けラインの作業スペースで、人と隣り合わせに並んでも圧迫感のないコンパクトなデザイン
POINT④:弁当⼯場では同じラインで1時間に3、4種類を作らなければならず、そのたびにおかずの種類や盛り付ける順番、盛り付け位置などを変えている。そんな実情を踏まえ、簡単に移動できるよう下部にキャスターを装備
弁当工場の盛り付けラインで人と一緒に働き、山積みの食材から一つを見分けて取り出すことのできる人型協働ロボット「Foodly(フードリー)」が、人手不足の中食業界で話題を集めている。開発したのは、教材用・実験用ロボット開発を中心に手掛けるアールティ。2005年設立のベンチャー企業だ。
「愛知で開催された愛・地球博(2005年日本国際博覧会)でロボットブームが起こり、AI(人工知能)も注目を集めました。もともとロボット開発を研究していた私が、AIロボットを開発するために立ち上げたのが当社です。
しかし、2005年当時のAIはまだロボットを自在に動かせるほどの技術レベルに達していなかったため、当社は高専・大学で使用する教材用や実験・研究用のロボットをはじめ、二足歩行ができるエンターテインメントロボットなどの開発を行ってきました。その後、ロボットに組み込まれるさまざまな技術の進化によって、2019年に人間と一緒に働く協働型ロボットFoodlyの開発に成功したのです」
そう語るのは、アールティ代表取締役の中川友紀子氏である。ロボットは、AIや画像・音声認識、駆動機構、自律制御、情報解析、ネットワーク技術など幅広い領域の技術の集合体だ。これらの技術が大きく進化したことでFoodlyの開発が実現した。
産業用ロボットは、作業形式で「隔離型」「連携型」「協働型」に分類できる。隔離型は溶接やプレスなどを行うロボットで、安全確保のため完全に人と隔離されたスペースで稼働し、人間以上のパフォーマンスを発揮する。また、連携型は工場のFA(ファクトリーオートメーション)の一部を担い、柵などで人との空間を分けて作業を行う。
そして協働型は、人と肩を並べて同じ作業空間で動かすタイプ。Foodlyは、この協働型ロボットである。
現在、各産業界でさまざまな協働型ロボットが導入されているが、Foodlyが注目を浴びているのは、いったいなぜだろうか。
第一の理由は、山積みの唐揚げから1個を取り出せるような「不定形物のバラ積み取り出し機能」を持った人型協働ロボットの開発が、食品業界において初めての試みであることだ。
「おかず盛り付けの自動化は技術的に難しく、どの企業も手を付けていませんでした。弁当には何十種類も作るという商品特性があり、また多種多様なおかずを盛り付けなければならないからです。しかし、技術的に難しければ参入障壁が高く、競合他社も少なくなるメリットが生まれますから、あえて挑戦しました。当社のように小さい企業にとって弁当盛り付けロボットは、ニッチで親和性が高い市場。そう考え、2015年から介護施設と連携し、少しずつ開発を進めました」(中川氏)
2017年には金融機関やベンチャーキャピタルから資金調達を受け、本格的な開発に着手した。
第二の理由は、Foodlyの「マシンビジョン」の性能の高さが挙げられる。マシンビジョンとは、対象物を的確に認識する能力である。
「おかずは自然由来のもので、工業用部品のように規格品ではありませんから、同じ形のものがないケースがほとんど。例えば、鶏肉の唐揚げは形状が1個ずつ異なりますし、それが山盛りになっていたら、従来のロボットは認識できません。一方、Foodlyはディープラーニングによって山積みになった唐揚げの境目を認識し、1個だけをつかんで移動させることができます」(中川氏)
おかずは食材によって硬さも千差万別。異なる硬さのものをつかんで弁当ケースに運ぶ動作の自動化もハードルが高かった。程よい強さでつかむという力の制御が難しかったためだが、Foodlyは微妙な力加減を実現することにも成功した。