社会問題の現場に赴き、初めて顔を合わせたメンバーと協業して解決策を探る。そんな体験ができる「スタディツアー」を提供するのがリディラバだ。同社のツアー参加を機に、生き生きと課題解決に取り組むようになったり、主体性を持って事業にコミットしたりする人材が生まれている。
Field Academy(フィールドアカデミー)
実践的に社会課題解決力を養う法人向け人材育成プログラム
「社会の無関心を打破する」をミッションに掲げ、社会問題の現場を実際に訪れるツアーを提供しているリディラバ。同社は2009年、ソーシャルイシュー(社会課題)を解決するには、気軽に関心を持ち、解決すべき課題を考える機会が必要だと考えた代表取締役の安部敏樹氏が、東京大学在学中にボランティア組織として創業したのが始まりだ(2012年に一般社団法人化)。
リディラバは活動開始から10年間で、貧困や食の安全、性教育から安全保障に至るまで、300を超える社会問題の現場を訪れるツアーに延べ1万人もの人を送り、世間の関心を高めてきた。安部氏はこの取り組みにより、さまざまなビジネスコンテストで多数の賞(最優秀賞)を獲得。社会起業家として注目を集めている。
「社会課題は当事者だけでは決して解決しません。高齢化が進む地域で、地域のお年寄りがどれだけ知恵を絞っても、現状を打破できる妙案は生まれてこないでしょう。第三者にいかに興味を持ってもらい、課題にコミットし、周囲を巻き込んで解決策を遂行していくか。その第一歩となればと、現場を訪ねるツアーを続けています」(安部氏)
リディラバが2018年からスタートした「Field Academy(フィールドアカデミー)」は、法人向けの実践的な人材育成プログラムだ。大企業や省庁など10団体が参画し、入社8〜10年目の次世代リーダーである中堅社員を募り、現実の社会課題の現場へ行って解決策を提案させるという経験を提供している。複合的に課題が入り組み、特に解決が難しいテーマを取り上げているという。
当事者意識を持って、考え抜くことで主体性が高まる
現状・理想を行き来しながら、最も本質的な「アジェンダ」を見いだす力
理想状態(ヴィジョン)を掲げ、仲間と目線を合わせていく力
セクターを超えて、さまざまなステークホルダーを巻き込んでいく力
自らが、会社の仕事を通じて成し遂げたいミッションを掲げる
※研修・テーマによって内容は異なります
2019年に実施されたテーマの一つは「地方創生」に関わるもので、新潟県の越後妻有地域(十日町市、津南町)を舞台に展開された。同地域では2000年から世界最大規模の国際芸術祭「大地の芸術祭」が開催されている。海外からも著名なアーティストが多数参加し、美しい棚田や公園を会場にユニークなアート作品が400点近く展示される。美術館など恒久的に展示される作品もあり、会期中は50万人の観光客が集まるなど、アートの里として広く認知されるに至っている。
一見、町おこしに成功した地域のように見えるが、課題も多い。初開催から20年が経過して、当初の企画者は高齢化。集落の住人の高齢化も進み、舞台となる棚田の保全にも黄色信号がともっている。また、今に至るも全ての集落がアートフェスティバルを盛り上げようと意見が一致しているわけでなく、よそからの来訪者を煙たがる住人もいるという。
さまざまな企業からやって来た社員らは、妻有に集まると業種・職種を超えて4、5人でグループをつくり、住人やNPO(民間非営利団体)などステークホルダーへのヒアリングを開始。生の声を聴くことで課題への理解を深め、当事者意識を持って解決に向けた動機を高めていくのだ。
いったん持ち帰って週1回程度、都内でメンバーが集い、解決策を練っていく。どうすれば当事者が喜んでくれるのか、住人たちも巻き込めるかを考え、詳細なプランを組み立てていくのである。
そして3カ月後に最終提案を出す。住人やNPO団体が審査員となり、良い提案は採用されるという流れだ。最終提案後はメンター(助言者)がフォローして、研修で学んだことを現業へ生かせるように促していくという。