紙資料や言葉だけではない、建設プロセスに有効活用できる価値あるスキーム ――。ICTを駆使した「映像CIM」が、施工現場のいまとこれからにもたらすもの、そのリアルな姿とは。
「映像CIM」
古来、交通の要衝だった濃尾平野。肥沃な大地は河川の氾濫に悩まされ続けたが、築堤などの土木工事が下流に位置する名古屋都市圏の発展を可能にした。その構図を支えるのが、濃尾平野の中心・小牧市で創業70年近くになる可児建設だ。
“縁の下の力持ち”の存在だった同社がいま脚光を浴びている。土木施工の現場にICTを活用するCIM(Construction Information Modeling / Management:情報化施工)のパイオニアとして、だ。
「私たちが推進しているのは映像CIMです。調査・企画・設計・施工・維持管理を共有データで一元化するのがCIMですが、さらに映像を、紙資料や言葉だけではない媒体として建設プロセスに有効活用する、情報化施工モデルです」
そう語る代表取締役の可児憲生氏が、妻で取締役の純子氏と夫婦二人三脚で同モデルを始動したのは2014年のことである。環境風土テクノ社や立命館大学などと共同研究を進め、2019年5月に土木学会中部支部「技術賞」を受賞。国土交通省「建設現場の生産性を飛躍的に向上する革新的技術の導入・活用プロジェクト」にも「映像を活用したvalueなCIM化技術活用スキーム」研究推進チームとして参画した。
映像CIMは、施工記録を映像で残すだけではなく“良い品質の現場を造る”のが目的だ。
「当社の事業は公共工事が95%以上。発注者の国や地方自治体の原資は税金ですから、良いものを造り長く持たせることが使命です。注意すべき工事の要所を撮影し、映像データでリアルタイムに現場の状況が分かることで、品質管理の高度化や生産性の向上につなげることができます。土木の場合は目的も環境も、二つとして同じ現場がないからこそ、映像CIMが生きるのです」(可児氏)
撮影は24時間が基本で、工事の妨げにならない場所に定点カメラ4~6台を設置。映像データはリアルタイムで本社オフィスの大型モニターに映し出し、インターネット環境があればどこからでも確認できる。
また、1日の作業工程を数分間隔で時系列に見られるタイムラプス(Time Lapse、以降TL)映像データを工事記録として作成。社内サーバーのデータベースにタグ付けして保存し、検索・閲覧しやすくしている。
TL映像は翌日の朝礼の際、現場全員で確認し、どこに無駄があるかといった改善点の情報を共有。手戻りを減らし、作業時間や人件費のコスト削減につなげている。
「図面を見て、言葉で改善点を共有しても、空間イメージが一致するとは限りません。でも映像を活用すれば一目瞭然です」(可児氏)
品質管理や生産性の向上のほか、安全管理にも役立っている。見られている意識からポイ捨てが減って美化が進み、安全通路を通らないなどの不安全行動もなくなった。
さらに、経験の浅い土木技術者が効率的に事前学習するツールになるのも強みだ。案件を受注後、施工計画書を作成する際に、平面・縦断・横断図面や仕様書だけでイメージを膨らませるのに比べ、似た現場の施工映像を見ることで注意点が分かり、「内容の深みが違う計画書が出来上がる」と可児氏はいう。ベテランの現場監督が何のために、どう動くかを確認することもできる。
「『背中を見て学べ』という時代ではありません。映像データから技術とノウハウを見て学び、技術を継承する。それが持続的な事業経営にも結び付いていきます」(可児氏)
TL映像を発注者が見る場合は、手の内を明かすことになる。だが、それは「良い品質」の「無駄のない現場」であれば、確かな「技術力の証し」となっていくのもメリットだろう。
映像CIMシステム構成