テクノロジーで建設業界の課題を解決するプロジェクトが発足した。その名は「JAPAN CON-TECH FUND(ジャパンコンテックファンド)」。スタートアップ企業に投資し、デジタル化が遅れがちな業界全体の生産性や安全対策の向上を目指す取り組みである。
慢性的な人手不足や技術者の高齢化などの課題を抱える中、デジタル技術の導入で業務効率化に取り組む企業も増えつつある建設業界。そんな転換期にある業界をもう一段階、底上げしようと、スタートアップ企業の支援に乗り出した会社がある。「塗装」という技術を用いて人々の暮らしを守る事業を展開するカシワバラ・コーポレーションだ。
山口県岩国市でプラント塗装業としてスタートした同社は、インフラメンテナンス事業やマンションの大規模修繕・建設などを手掛け、事業領域を拡大してきた。現在は、内装リフォーム・リノベーションなど「住まい」に関する事業を多角展開する企業グループへと成長している。
2019年3月に創業70周年を迎えた同社は、新プロジェクト「JAPANCON-TECH FUND」を開始した。CON-TECHとは、CONSTRUCTION(建設)とTECHNOLOGY(技術)を掛け合わせた造語で、建設業界全体のIT化を進めていこうという試みである。
「建設業界は製造業に次ぐ巨大市場といわれますが、人材不足と高齢化が著しく進行しています。2025年には労働人口がさらに減少する上、現在スキルが高く重要な働き手として活躍している団塊の世代が75歳以上になり、引退していくでしょう。また、建設業の現場は危険を伴う労働環境で、技術者の身体への負担も大きいなどの課題が多いにもかかわらず、他業界と比べてIT技術の導入が遅れています。
そこで、テクノロジーによって生産性と安全性の向上を図るためにスタートしたのがJAPAN CON-TECHFUNDです。これまでは、どちらかというとスタートアップ側から建設業界へのアプローチが主体でしたが、建設会社がスタートアップ側に歩み寄ることが必要と考えて、このプロジェクトを立ち上げました」
プロジェクト発足の背景をそう語るのは、カシワバラ・コーポレーションの事業開発プロジェクト室CONTECHプロジェクトのプロジェクトマネージャー・山田浩司氏である。50億円の投資枠を設け、作業効率化などの生産性向上や安全対策に効果のある技術を有するスタートアップに対して投資を行うという。同社は従来、熟練工などのヒューマンリソース頼りだった“ 技術” を大きく変えようとしているのだ。
JAPAN CON-TECH FUNDには、建設業界の課題解決を図るという大きな目標とともに、自社の課題解決と、さらなる事業領域の拡大に生かす狙いもある。
カシワバラ・コーポレーションは、幅広い分野で長年にわたって事業を行ってきたため、多くのノウハウと顧客を有している。しかし、IT技術に関しては門外漢だ。他社が有する優れたIT技術を活用できれば、現場の生産性や安全性を向上させられる。
また、投資を通じて新しい技術やサービスを発展させることで、カシワバラグループが展開する“ 住まいのプロ集団” としてのバリューチェーンを補完できる。
同プロジェクトの発表から10カ月が経過した現在(2019年12月)、すでに50件以上の問い合わせがあったという。
「投資を希望する企業へのヒアリングを行う中で、マーケットのニーズに合致しているかというビジネスとしての魅力はもちろん、経営者の事業に対する意欲や人柄、投資金額などを検討材料にして、実際に投資する案件を決めています。まだ公表できない案件が多いのですが、確かな手応えを感じています」(山田氏)
同プロジェクトが投資する案件は、数千万~数億円程度の投資額が中心になる。また、ベンチャーキャピタル(VC)との連携も図る。この連携は、投資のプロであるVCのノウハウをプロジェクトに生かすことはもちろん、将来を見据えたアライアンスでもある。投資先の事業が成長していく中で、第2弾、第3弾の投資が必要になる局面が訪れる可能性は高い。
「事業が順調に軌道に乗れば、数千万円レベルの調達ではなく、数十億円の資金が必要になるケースも出てくるはずです。その時、当社だけでは限界があるので、今後も一貫して支援できる枠組みを初めからつくるために、複数のVCと連携を図っています」(山田氏)
同プロジェクトが長いスパンで新事業支援をしていこうとしている姿勢がよく分かる。
JAPAN CON-TECH FUND は、2019年8月に出資第1弾としてDRONE PILOT AGENCY(ドローンパイロットエージェンシー、以降DPA、東京都品川区)へ5500万円の投資を行うと発表した。カシワバラ・コーポレーションの主力事業であるマンション大規模修繕工事の外壁塗装における課題を改善するためだ。DPAは、ドローンと画像分析AIで建築物の劣化診断などを行う新サービスを、カシワバラ・コーポレーションと共同開発していく。
現在、マンションの大規模修繕においては、まず足場を組み、職人が外壁の劣化や損傷を目視などで確認する。作業には危険が伴う上、かなりの日数を要し、コストもかかる。
だが、ドローンと画像分析AI技術で外壁の劣化を診断できれば、人が行う作業を大幅に減らせる。安全性向上と業務効率化、コストダウンが図れるとともに、人手不足という課題への対策にもなる。
「現状、マンション周辺でドローンを飛ばすことには制限があるので、まずは自由に飛ばせる敷地内で試験的に導入することを想定しています。確認作業が大変な工場の屋根や外壁の劣化状況の調査などです。当社がファーストユーザーになって実施検証やデータ提供を行うことで、サービスの質を上げていく。そんな連携ができると考えています」(山田氏)