その他 2019.12.27

リスクを徹底的に排除し、円満な買収に成功:タカハシアートプランニング

 

タカハシアートプランニングが店舗のデザイン・設計・施工を手掛けた「キャッツアイ篠路店」

 

企業が持続的成長を図る手段として有用なM&Aだが、半ば強引に書類上の契約を進め、合併後に調和が図れないケースも少なくない。
タナベ経営のサポートにより、円満な譲り受けに成功した企業に話を聞いた。

 

東京進出を加速させるためにM&Aを検討

 

北海道でカラオケ店や飲食店、ゲームセンターなど、エンターテインメント系施設を幅広く展開するタカハシグループ。その1社であるタカハシアートプランニング(以降、TAP)は、店舗のデザイン・設計・施工や住宅リフォームなどを手掛ける会社だ。グループがカラオケ事業などで培った店舗デザイン経験を生かす形で、2010年に設立。現在はグループ外の事業者の店舗設計・施工も行い、業績が着実に伸びている。

 

同社の強みは何といってもエンターテインメント施設に精通していること。「グループ全体としてエンターテインメント施設運営の経験が長いだけに、押さえておくべきツボが分かる。グループの企業幹部とは常に情報を交換しており、最新事情についてもキャッチアップできています」と代表取締役社長の髙橋和也氏は自信をのぞかせる。

 

実際、同社の店舗作りにおける設計・監理のノウハウは貴重で、首都圏からも声が掛かるという。4、5年前からは東京の施工会社とタッグを組み、都内の大手エンターテインメント事業者の新装工事にも携わっている。

 

そんな髙橋氏のもとへ2018年6月、タナベ経営がM&A案件を紹介した。もともとはグループの別会社である北東商事が提案を受けた案件だったが、その社長が内容を見て、TAPの方がマッチすると判断したためだ。

 

タナベ経営が提示した案件は、社員数約10名の東京の店舗内装設計施工会社だった。業務内容はTAPとほぼ同じで、店舗開発を行う親会社の設計・施工を主な事業とする立ち位置も共通していた。

 

「東京のエンターテインメントや外食の市場は非常に活発です。次から次へとテナントの入居者が入れ替わり、そのたびに私たちのような内装会社に声が掛かる。競争は激しいですが、それを差し引いても魅力的な市場です」と髙橋氏は言う。事業の拡大を目指す上で、東京進出は常に心の片隅に置いており、過去には東京で人を採用して支社を設立しようと動いたこともあったという。それだけに、M&Aの話には心が躍ったそうだ。早速、株式を100%保有する親会社社長と会い、話を進めていくことになった。

 

 

TAPが店舗を施工したカラオケ「キャッツアイ清田店」(左)
網走ビールの「流氷ドラフト」。天然色素クチナシによる鮮やかなブルーが特徴的(右)

 

道東観光開発の「知床観光船おーろら」(左)
女満別空港線を走るバス(網走バス)(右)

 

 

タカハシグループ

  • (株)タカハシ
    グループ全体の経営管理
  • タカハシエンターテイメント(株)
    エンターテインメント系施設の運営
  • タカハシフードサービス(株)
    飲食店の運営
  • タカハシアートプランニング(株)
    店舗などのデザイン・設計・施工や住宅リフォームなど
  • タカハシライフサポート(株)
    サービス付き高齢者向け住宅「花・水・木」の運営など
  • 北東商事(株)
    ゲームセンターなど、アミューズメント施設を手掛ける
  • (株)フィールド
    カラオケボックス「MASH」の運営
  • 道東観光開発(株)
    観光船事業、道の駅事業、外食系事業
  • 網走ビール(株)
    ビール、発泡酒の製造・販売
  • 網走バス(株)
    バスなどの一般乗合旅客自動車運送事業
  • 網走ハイヤー(株)
    ハイヤーやタクシーなど一般乗用旅客自動車運送事業
  • (株)きたみ観光バス
    バスなどの一般乗合旅客自動車運送事業
  • (一社)日本地域福祉協会
    介護付き有料老人ホームの運営など

 

 

どうしても譲れなかった二つの課題

 

もっとも、髙橋氏にとってM&Aは初めての経験だ。不安はあった。

 

「私は、根は向こう見ずな性格です。でも、それだけにビジネスではより慎重になろうと心掛けてきました。M&Aには当然、リスクがあります。不安を一つずつクリアにしながら、話を進めていきました」(髙橋氏)

 

2社を1社にするとなれば、妥協しなければならないことも多い。だが、髙橋氏にはどうしても譲れない課題が二つあった。

 

一つ目は、統括者の不在だ。譲渡対象会社の社長は合併を機に退任する意思を表明していた。経営母体が交代することを踏まえれば、もっともな判断ではあったが、TAP側も人材に余裕がなく、新たに加わった社員をまとめていくには有能なマネジャーが必要だった。

 

「先方の社長には、何とか残って指揮を執ってもらいたかった。難しいお願いだとは思いましたが、これも譲れないところでした」(髙橋氏)

 

二つ目は社風だ。一つの会社となったときに調和してやっていけるか。これは、社風が似通っているかどうかが鍵を握る。財務や人事は数字などで可視化されており、客観的に判断することができたが、社風はそうもいかない。実際に訪問して雰囲気は良さそうに見えたが、本当のところはどうなのか。

 

この課題を解決するために、髙橋氏は一計を案じた。

 

「試験的に東京の仕事を発注してみたのです。その仕事ぶりを見れば、すぐに分かると思いました」(髙橋氏)

 

買収を考える会社へ仕事を発注するのは、そうあることではない。だが、タナベ経営のM&A担当者はその意向を踏まえて関係者の説得に当たった。そして、2件の工事を発注した。

 

その仕事ぶりは、十分に満足のいくものだったという。

 

「先方の会社は“工事を大切にする”という理念を掲げていましたが、それがお題目だけではないか不安でした。しかし、実際の仕事ぶりを見ると非常に丁寧で、理念がしっかり浸透していると分かりました。たとえ合併が成就しなかったとしても、ぜひアライアンスを組んで仕事をしたいと社長にお伝えしたら、先方も『ぜひ』と言ってくださいました」と髙橋氏は振り返る。

 

こうして一つずつリスクをつぶし、2019年2月に契約を締結。その会社はTAPの傘下に入ることとなった。買収した会社は、その年の8月に解散、事務所を引っ越し、9月より晴れてTAPの東京支社となった。前社長は現在も、東京支社長として陣頭指揮を執っている。