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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2016.07.29

多角化と国際化の100年ブランド企業、変化と成長のグローバルビジョンで200年へ挑む キッコーマン 堀切 功章氏

目指すべき姿、5つの基本戦略を示した「グローバルビジョン2020」

 

若松 「グローバルビジョン2020」では、目指す姿として「キッコーマンしょうゆをグローバルスタンダードの調味料にする」「食を通じた健康的な生活の実現を支援する企業となる」「地球社会にとって存在意義のある企業となる」を挙げ、それを実現するための5つの基本戦略を定めておられます。それが、「しょうゆ世界戦略」「東洋食品卸世界戦略」「デルモンテ事業戦略」「健康関連事業戦略」「豆乳事業戦略」です。まず、しょうゆ世界戦略とは、ますます世界へ向けてしょうゆを広めていくということでしょうか。

 

堀切 高収益のビジネスモデルを展開しながら、しょうゆをグローバルスタンダードの調味料にしたいと考えています。世界中どこに行ってもキッコーマンしょうゆがあり、家庭の中で日常的に使われている状態です。これは、もしかすると達成にさらに100年を要する目標かもしれません。

 

若松 しょうゆを世界中の人々が当たり前に使う調味料とするのですから、たいへん夢のある目標ですね。キッコーマンはそれを実現できる可能性を持っていると感じます。

 

堀切 国内市場では量的な広がりが限定されるため、価値を高めることがテーマになります。一方、海外市場ではまだまだ量的な拡大を期待できます。同じしょうゆを販売していても状況は全く異なるわけです。

 

若松 東洋食品卸世界戦略も幅広く展開されているのですか。

 

堀切 日本食を中心とした東洋食品を提供しています。1969年にしょうゆの販売チャネルとして資本参加した会社を、その後、完全子会社化。この事業が大きく成長しています。

 

松 デルモンテ事業戦略は、トマト製品の事業戦略ですね。

 

堀切 米国のデルモンテ社と提携し、国内生産を始めてから半世紀以上がたちます。ケチャップなどのトマト製品をつくり出したのは、当時の経営陣が人口動態を分析して「しょうゆはいずれ頭打ちになる」と判断したからです。その後、フィリピンとインドを除くアジア・オセアニア地域での商標使用権と販売権を取得し、シンガポールを拠点に事業を展開しています。ケチャップも国内では頭打ちですが、中国をはじめ、アジアの新興国に欧米式の食文化が本格的に浸透するのはこれからなので、大きな成長が期待できます。

 

若松 健康関連事業戦略と豆乳事業戦略の展開はいかがですか。健康関連事業では、総合病院も経営されていますね。

 

堀切 健康関連事業戦略は、バイオ事業や健康食品の拡大を推進しています。健康食品とは当社が培ってきた技術をベースにしたサプリメントなどです。また本社近くに「キッコーマン総合病院」を有し、野田市の地域医療に貢献すると同時に、食と健康を医療を通じて実現したいと考えています。

 

キッコーマンの名前が付いた病院だけに、入院中の唯一の楽しみである食事には力を入れています。塩分やカロリーを控えた献立でも満足感が得られるよう工夫したり、食器をプラスチックから陶器に替えたりして「日本一おいしい病院食」を目指しています。最近では高齢者施設などに食材を卸す企業が病院見学に訪れるようになりました。

 

豆乳事業戦略は、M&Aで紀文食品から豆乳事業を譲り受けてスタートしました。健康志向で豆乳のマーケットが広がる中、キッコーマングループの新たな柱として育て上げる計画です。

 

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㈱タナベ経営 代表取締役社長
若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

創業の精神と変化の創造が次の100年をつくる

 

若松 「過去の実績は、必ずしも未来を保証しない」「未来は予測するためではなく、創るためにある」。私はこれが経営の原則だと考えます。次の100年を見据えた取り組みを聞かせてください。

 

堀切 当社の経営陣が多角化と国際化という戦略を選択したのは50年以上前。つまり、半世紀前の意思決定が、現在のキッコーマンを形成したのです。われわれの役目も半世紀先、1世紀先という視点で会社の在り方を探索すること。その時代に「どうありたいか」「どうあるべきか」を議論しています。これまでの100年を振り返ることも大切ですが、本当に意義があるのは、次の100年をどうするかを考えることです。

 

最近の変化は非連続的でスピードが速いため、変化が起きてから対応していては手遅れです。故に、変化の先取りが必要ですが、これは至難の業。一番確実なのは、自分で変化をつくり出すことです。エクセレントカンパニーと呼ばれる会社は、マーケットそのものも含めて、自らの手で変化を創り出しています。

 

若松 同感です。そうしないとライバルや環境に陳腐化させられてしまいます。これからは、子どもへのブランド浸透が重要度を増していくでしょう。ボリュームゾーンは高齢者ですが、子どもはかけがえのない“未来”なので最重要視すべきです。

 

堀切 当社は2005年に「食育宣言」を行い、現在のコーポレートスローガンである「おいしい記憶をつくりたい。」を食育スローガンとして掲げました。食育の重要性は、さまざまな教育現場で証明されていますが、実行するのは難しい状況です。そのような課題を解決するため、当社の社員が「しょうゆ博士」として小中学校で出前授業を行い、食の大切さを訴求する「キッコーマンしょうゆ塾」などを展開しています。

 

若松 世界的なリーディングカンパニーであるキッコーマンには食育を普及させる使命(ミッション)があり、それが存在意義にもつながります。食の未来を切り開く使命を実現し、世の中になくてはならないキッコーマンであり続けることをお祈りします。本日は誠にありがとうございました。

 

 

PROFILE

  • キッコーマン㈱
  • 所在地:〒278-8601 千葉県野田市野田250
  • TEL:04-7123-5111
  • 設立:1917年
  • 資本金:115億9900万円
  • 売上高:4083億7200万円(連結、2016年3月期)
  • 従業員数:5933名(2016年3月31日現在)東証1部上場
  • http://www.kikkoman.co.jp/