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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2024.07.01

「アトツギ」ベンチャースピリッツを胸に新社名「miratap」へ サンワカンパニー 代表取締役社長 山根 太郎氏


 


社会課題を直接解決できるビジネス創造を目指す

 

若松 今後はどういった未来を想定されているのでしょうか。

 

山根 市場を変えていくことが日本の住環境を良くすると確信しています。そこに向けて挑戦していきますが、一方で、会社を経営する上で欠けていると感じているのが社会性の部分です。今後はエネルギー問題や食糧問題など、社会課題の解決に直接つながるようなビジネスを創造していきたい。

 

例えば、素材開発を通してCO2(二酸化炭素)の排出を抑えたり、エネルギー問題の解決に直結したりするような未来です。今の事業を伸ばしつつ、ホールディングス体制の下、次世代に向けた研究や開発を行う組織をつくれたら面白いと思います。

 

若松 社会課題を解決するには開発力が求められます。子会社をつくるのも1つの方法ですし、前段階としてラボ機能(ミラタップ研究所)を持たせることでステージが上がります。外部の専門家や他業種と接する機会が増えるため、人材育成にも大きなメリットがあります。先ほどお話があったように、開発力やECサイトを持つ強みを磨くブランド戦略になると考えます。

 

人材面では、山根社長が就任されてから新卒採用を始められましたね。

 

山根 2017年から新卒採用を始め、2024年は8期生として総合職8名、一般職4名の計12名が入社しました。彼・彼女らのミッションは、サンワカンパニー独自の文化を醸成すること。新入社員研修では、3カ月かけて約10部署をジョブローテーションします。さらに、3年ごとに3回ジョブローテーションして、新卒社員にとって一番得意な部署に配属する体制を採っているので、新卒社員は全ての部署を経験していることになります。

 

当社は私も含めて9割が転職者なので、前職の文化が持ち込まれています。「サンワカンパニーに最適な戦略は何か」「カルチャーとは何か」、社内を一周して一通りの業務を経験した新卒社員が中間管理職になったとき、“サンワらしさ”とは何かについて葛藤や議論が生まれ、独自の文化が醸成されていくことを期待しています。

 

若松 私は経営者を育てるサクセッションプランの1つとして、「できるだけ多くの部門を経験させてほしい」と提言しています。社歴の長い社員や経験者採用の社員ほど、1つの部門しか経験していないことが多いです。キャリアの専門性は強いのですが、会社全体、組織全体のことは理解できていません。部門はどこまでいっても部分、経営は全体ですからね。時間はかかりますが、全体が理解できている人材には経営者思考が培われます。

 

 


守りと攻めを見極める「守破離」の経営

 

若松 山根社長は後継経営者であり、その立場から事業経営をされてきました。ご承知のように、国内企業の後継者不足は深刻です。山根社長の著書『アトツギが日本を救う』(幻冬舎)を拝読しましたが、全国の後継経営者候補のみなさんに、ぜひメッセージをいただきたいと思います。

 

山根 本書が出版されたのは2018年。当時の経験を書きましたが、社長を10年経験した今、私がアトツギの方にアドバイスするならば「守破離」の実践です。攻めの姿勢で改革を断行しましたが、30歳と若かったからできたこと。結果としては良かったのですが、一方で組織が崩壊するリスクもありました。後継者は、「守」「破」を飛ばしていきなり「離」をしたくなりますが、それは違うと今は思います。

 

若松 私は自身のコンサルティング経験から、「事業承継は新築ではなくリフォーム、リノベーションです」とアドバイスしています。創業は更地に家を建てるので、自由にデザインすることもある意味で簡単ですが、リフォームやリノベーションはそうはいきません。図面を入手して今の構造を理解し、手を入れる順番を決めて取り組む技術が必要です。守るべき柱や壁、取り外して崩せる壁を見極めないと屋根が落ちます。「創業と承継は経営技術が違い、ましてや創業者のまねをしてはいけない」とアドバイスし続けてきました。

 

山根 まさに「守破離」の実践ですね。制約がある難しさはあります。また、多くの事業は創業者の原体験が基礎になっていますが、アトツギにはその原体験がないため自分事になりにくい点も難しいところです。

 

若松 山根社長が自分事にできた要因はどこにありますか。

 

山根 プロ意識です。もちろん、ビジョンや事業構想はライフワークとして私がやりたいことですから自分事になっていますが、私の情熱を仕事に向かわせているのは、モチベーションではなくプロ意識です。

 

若松 非常に共感します。自社の商品やサービスを好きになることも大事ですが、それ以上に「後継経営者という仕事」に対してプロフェッショナルマインド、使命や情熱が必要です。

 

 


体験でしか事業経営は学べない

 

山根 私の場合、父の逝去で入社して30歳で社長になりました。その経験を基にアドバイスするならば、同族後継者は早く社長になった方が良いということ。私が成長できたのは、社長として全て自分で決断して失敗したからです。「二度とこのような失敗はしてはいけない」「取り返さないといけない」と試行錯誤した経験がノウハウとして蓄積されました。

 

1人で考え抜いて、腹をくくって決断した結果、失敗したことも一度や二度ではありませんが、失敗の回数が成長につながっています。子どもに失敗をさせたくないという親心も理解できますが、早く任せた方が経営者としての能力は高まると思います。

 

もう1つ挙げるならば、当たり前のレベルを上げること。例えば、私が勤めていた伊藤忠商事では、1カ月に1回の報告会で未回収債権の報告が求められます。当時は大変なプレッシャーでしたが、転職後にミスを防ぐ仕組みの重要性を痛感しました。仕組みで回っている会社の当たり前の水準を知ることは参考になります。

 

若松 月1回の会議で未回収債権マネジメントを徹底しているのは、さすが伊藤忠商事ですね。販売は商品の資金化が原則であり、回収は資金繰りに直結します。グローバルな大企業になっても、資金繰りを常に社員に意識させるところは“近江商人”の原点と言えます。私はこれらを「性弱説のマネジメント」と呼んでいます。

 

山根 末端の社員ですら「稼ぐ・削る・防ぐ」の「カ・ケ・フ」を徹底されるなど、伊藤忠商事で学んだことは多くあります。それでも、やはり先代の背中から学んだことの方がずっと多い。あいさつや時間厳守、凡事徹底の大切さ、価値観など。それらは経営者の家庭で育っていれば自然と刷り込まれるものだと思います。

 

若松 山根社長のお話を聞くと、過去から学ぶ肯定感、未来を明るく創造するビジョン構築力、現状に甘んじることなく改善していくリーダーシップを感じます。私の提唱する「過去肯定、現状改善、未来創造」という経営者思考とも合致します。山根社長の場合、先代は日常のあらゆる場面で経営哲学や人生哲学を伝えてこられたのだと思います。明確なビジョンを持ち、決断をしてきたからこそ、サンワカンパニーがアトツギベンチャーとして成長を続けているのだと感じました。本日はありがとうございました。

 

 


サンワカンパニー 代表取締役社長 山根 太郎(やまね たろう)氏

1983年奈良県生まれ。関西学院大学経済学部卒業。大学在学中はプロテニス選手を目指して海外に転戦するも断念。在学中にイタリア・フィレンツェ大学に交換留学。大学卒業後、2008年伊藤忠商事繊維カンパニーに入社。2010年から2年間上海駐在。2014年4月にサンワカンパニーへ入社後、同年6月より現職。2018年には世界最大規模の家具見本市「ミラノサローネ国際家具見本市」で最も優れた出展企業に贈られる「ミラノサローネ家具見本市アワード」を日本企業として初めて受賞。主な著書に『アトツギが日本を救う 事業承継は最高のベンチャーだ』(幻冬舎、2018年)。

 

 

 


タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)

タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『チームコンサルティング理論』『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

 

タナベコンサルティンググループ(TCG)

大企業から中堅企業のビジョン・戦略策定から現場における経営システム・DX実装までを一気通貫で支援する経営コンサルティング・バリューチェーンを提供。全国660名のプロフェッショナル人材を有し、1957年の創業以来17,000社の支援実績を持つ日本の経営コンサルティングのパイオニア。

 

 

PROFILE

  • (株)サンワカンパニー
  • 所在地 : 大阪府大阪市北区茶屋町19-19 アプローズタワー21F
  • 設立:1979年
  • 代表者 : 代表取締役社長 山根 太郎
  • 売上高 : 154憶9600万円(連結、2023年9月期)
  • 従業員数 : 255名(連結、2024年3月現在)