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100年経営対談

100年経営対談

成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2024.06.03

企業家のリーダーシップが社会や世界を変えていく

京都先端科学大学 国際学術研究院 教授 一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻 客員教授 名和 高司氏


「たくみ」から「しくみ」へ

 

若松 発明を事業化するには日本の強みである匠の技を仕組み化したり、ブランドを育てたりする無形資産の活用が必要なのではないでしょうか。しかし、この部分は日本企業の不得手でもあります。

 

名和 私は匠を「現場の力」という意味で使っていますが、日本には高度な匠の技が本当に多くあります。それは日本の良さであり大事に守っていくべきものだと考えていますが、属人的であり過ぎることがスケールを採れない原因だとも考えています。

 

日本の良さを残しながら仕組み化することは可能ですし、属人的だった技が標準化されると匠はもっと先に行こうとするため、匠の技がどんどん進化していく。そのような経営こそ強い経営だと私は思います。

 

例えば、トヨタ自動車のTPS(トヨタ生産方式)は効率化の道具ではなく、進化させるための仕組みです。何かあればアンドン(電光表示盤)で知らせてラインを止め、問題を突き止めて修正してラインを復旧します。さらに、学んだことはその都度TPSに反映されるので、仕組みがどんどん進化していく。現場の力が仕組みになっている好例であり、同社の強さの源です。

 

若松 そこを理解せずに、匠の延長で仕組みをつくろうとするとスケールしにくい。加えて、イノベーションで事業開発し、それを軌道に乗せるためにはブランディングや新たな経営要素が欠かせません。

 

名和 仕組みやブランドは抽象的に見えるため、なかなか日本では確立しません。そのため、「経営か、現場か」といった分け方になりがちですが、私は3層構造だと捉えています。現場の力を増強するものが仕組みやブランドであり、そこが機能していると「溜めの利く経営」になります。日本企業があまり意識してこなかった部分ですが、それだけに取り組むことは大きなチャンスになります。

 

若松 そこに取り組むと展開が大きく変わっていきます。TCGでは、ブランディングも含めたDX、HR、ファイナンス、M&Aなどでビジョンの構築をサポートしていますが、全社戦略の視点や経営者の視点がないと今後は立ち行かないと思います。

 

名和 私は、企業に託された思いがブランドだと考えています。コミットメントや決断ぐらい強い意識を持たない限り確立できないもの。その意味で経営の言葉であるべきです。取り組む過程で実力が付き、期待された成果が出るようになると期待値がさらに上がる。経営とは、高くなっていく期待を追いかけ続けることだと私は思います。

 

若松 同感です。日本企業は、匠一流、仕組み二流、ブランドは三流ですが、「匠一流、仕組み一流、ブランド一流」になると成長軌道が変わります。ただ、これらが経営的、有機的に結び付いていないことが問題であると認識しています。トップマネジメントのデザインが大切です。

 

当社は、企業のトップマネジメント層へのアプローチを通してそこに貢献したいと考えていますが、先ほどの匠にしても、今のうちに仕組み化しておくべきです。属人的なままでは人の寿命と一緒に終わってしまいますからね。「社長の寿命=事業の寿命=会社の寿命」という関係性が最も危険です。日本的経営の良さをアップデートし、経営をブランディングすることが、これからのコンサルティングファームの大きな役割ではないかと考えて、私もTCGをデザインしています。

 

 


日本的経営のアップデートを

 

名和 TCGの場合、初めから経営者目線でコンサルティングをされている点が外資系コンサルとは異なりますし、大事なポイントであると思います。外資系コンサルは世界中の新しいモデルや仕組み、ツールなどの引き出しをたくさん持っており、それらの「飛び道具」を伝授するスタイルが主流です。

 

これまで日本企業は欧米流の経営モデルを後追いしていましたが、それでは日本的な良さが生かされないと気付き始めています。そうした経営者は独自のスタイルで試行錯誤を始めていますが、独学ではうまくいかないのが現状ではないでしょうか。

 

これからは経営者の本当にやりたいことを実現するために、同じ思いで並走するコンサルタントが必要です。TCGなら、寄り添いながら企業の成長を支えていけると思います。

 

若松 ありがとうございます。名和先生の言われるツールありきではなく、クライアントの現実の経営や経営者と向き合い続けることが、TCGが目指すコンサルティングモデルです。

 

私たちは「LTV(顧客生涯価値)」と呼んでいますが、TCGの特長は40年、30年、20年といったように長期にわたってコンサルティングをするケースが多いこと。私自身も経営コンサルタント歴30年になります。今まで約1000社の経営コンサルティングに関わり、その中には30年寄り添っている会社もあります。円高や円安、東日本大震災、リーマン・ショック、コロナ禍もありましたが、そうした変化にコンサルタントが寄り添うことで、企業経営の臨床事例とともに真の経営メソッドが増えていきます。やはり、コンサルタントは企業の医者、ビジネスドクターなのだと実感しています。

 

名和 ちょうど今、100年を経てなお進化し続ける企業を研究していますが、100年以上進化し続ける企業は変身ではなく「変態」しています。何かを被る変身ではなく、自分の中にある可能性がどんどん変わっていくのが変態であり、それが本当の進化だと思います。TCGが企業に寄り添いながら、触媒になって企業を変化させていくことを期待しています。

 

国内には、素晴らしい要素を持っていながら生かせていない会社がたくさんあります。「もったいないですよ」と気づかせ、寄り添い、並走しながら一緒に成長することができれば、世界を変えることにもつながります。

 

若松 私自身、100年続く会社は「変化を経営する会社」と定義付けているので、非常に共感します。変化への能動的適応の先にあるのが、名和先生のおっしゃる「変態」なのだと、()に落ちた次第です。

 

TCGのチームコンサルティングでは、顧客を中心に各分野の専門コンサルタントが集まってクライアントサクセスを目指します。これを実現するためには、クライアント以上にクライアントのことを知る存在にならないといけません。コンサルタントが全方位で経営を見ながら、優先順を決めて全体最適になるよう導くわけですが、そうしたデザイン力や編集力が備われば、簡単にはまねできない競争優位性につながると考えています。

 

 


企業には経営者に並走するコンサルタントが必要

 

若松 最後に、日々経営者に寄り添うTCGのメンバーにメッセージをお願いします。

 

名和 私が経験した外資系コンサル会社は、その場の瞬発力で勝負する世界。微分の価値が求められる業界です。別の言い方をすればハンター的であるのに対して、タナベコンサルティングはファーマー的なスタイルです。小さな積み重ねが徐々に貯まってインパクトを与えるLTVは、まさに積分の価値です。

 

積み重ねの中には失敗もあるでしょうが、長期的視点で価値を高めていくには、多くの人を巻き込んで小さな挑戦を重ねながら成功の確率を上げていくことが肝要。だからこそ、一喜一憂しても仕方ないと思えるぐらい腰の据わったコンサルタントは大成すると思います。

 

また、若い頃は切り込み隊長で良いですが、本当にコンサルタントとして力を出そうとするならば、借り物を被る変身ではなく、自分の良さを出していく変態への道を歩んでいただきたいと思います。

 

若松 経営コンサルタントは、人格や考え方がコンサルティングににじみ出てくる仕事です。世界中の企業を成功で満たしながら100年先も一番に選ばれるような会社を1社でも多く輩出するのが私たちの貢献価値であり、そうした企業をこれからも支えていきたいと考えています。本日は示唆に富んだお話をありがとうございました。

 

 


京都先端科学大学 国際学術研究院 教授 一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻 客員教授 名和 高司(なわ たかし)氏

1957年生まれ。1980年に東京大学法学部卒業後、三菱商事の機械グループ(東京、ニューヨーク)に約10年間勤務。ハーバード・ビジネススクールにてMBA取得(ベーカー・スカラー)後、マッキンゼーのディレクターとして約20年間コンサルティングに従事。自動車・製造業分野におけるアジア地域ヘッド、ハイテク・通信分野における日本支社ヘッドを歴任。日本・アジア・米国などを舞台に、多様な業界で次世代成長戦略、全社構造改革などのプロジェクトに幅広く従事。2011~2016年にはボストン コンサルティング グループのシニアアドバイザーも務める。2010年に一橋大学大学院国際企業戦略研究科(現一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻)客員教授に就任。2022年に京都先端科学大学国際学術研究院教授に就任。主な著書に『企業変革の教科書』(東洋経済新報社)、『経営改革大全 企業を壊す100の誤解』(日本BP)、『パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える』(東洋経済新報社)など多数。

 

 

 


タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)

タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『チームコンサルティング理論』『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

 

タナベコンサルティンググループ(TCG)

大企業から中堅企業のビジョン・戦略策定から現場における経営システム・DX実装までを一気通貫で支援する経営コンサルティング・バリューチェーンを提供。全国660名のプロフェッショナル人材を有し、1957年の創業以来17,000社の支援実績を持つ日本の経営コンサルティングのパイオニア。