タナベコンサルティングが策定したパーパス&バリュー
貢献価値を発信する絶好のタイミング
若松 コロナ禍の3年間は社会活動の多くが止まり、さまざまな分断も起こりました。私自身、企業として生き残れるかを社長として何度も自問自答しました。また、困っている企業や顧客に対して、私たちのビジネスは何で貢献できるのかについて考え抜きました。
TCGのパーパス&バリューは創業65周年を機に策定しましたが、コロナ禍であったことで、二度と訪れない、忘れることのできない究極の自問自答ができました。コロナ禍が明け、今はパーパスを実践するチャンスだと考えています。パーパスを起点に未来に向けた戦略、組織、経営システムを見直すチャンスです。
入山 おっしゃる通りです。一番大事なことは自分自身が腹落ちすること。TCGでは約10カ月かけてパーパスを策定されました。相当な自問自答を繰り返されたと想像します。
若松 そうですね。その中で腹落ちする瞬間がありました。250の紡いだ言葉が経営理念と重なり、ストラクチャー(構造)として完成したときの腹落ち感は忘れることができません。
入山 そのような瞬間が訪れるのですか。
若松 みんなで議論している最中に言葉が降ってくるような感覚がありました。集まった250もの言葉が立体的に組み上がっていく瞬間に、創業者の顔が頭に浮かんだのです。「その決断を、愛でささえる、世界を変える。」が、自ら腹落ちした瞬間でした。
そうした経験から言うと、社員を巻き込んでつくることがポイントだったと感じています。社員のパワーが後押ししてくれた感覚があります。経営理念は創業者が一人で試行錯誤して考えた言葉です。会社は何らかの意志、志がなければ興りません。それを後の世代が理解し、翻訳し、宣言することに意味があります。だからプロセスを大切にしました。
入山 プロセスは非常に重要です。2つのパターンが考えられますが、メーカーなどの事業会社の場合は社長が決めるのも良いと思います。特に同族経営の場合は、どういった未来をつくりたいかを壁打ちしながら突き詰めていく方法です。一方、TCGのような経営コンサルティングファームの場合、社員一人一人が社長の代わりのような存在ですから、みんなでつくっていくのも良いと思います。
若松 TCGのプロフェッショナルコンサルタントの一人一人が、支援するクライアントの壁打ち相手になって、「どのような未来をつくりたいか」を明確にしていかないといけません。その意味でも、今回のプロセスを経験したことは非常に意味があったと思います。「経営理念が大事だ」「ビジョンが必要だ」と提言している側が、その意味を理解していないと、社長の決断を支えることができませんからね。
パーパスを腹落ちさせ、いかにバリューを行動へ落とし込むか
若松 先ほど、「創業の原点と遠い未来は一直線につながっている」というお話をしましたが、創業から受け継がれる経営理念は普遍の志です。そして、パーパス&バリューはそこから一直線に未来につながる「道(WAY)」でなければならないと考えています。
ですから、今回のパーパス策定に当たっては、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)ではなく、フィロソフィー、パーパス&バリュー、ビジョンというストラクチャーにしています。そこで大切なのがバリューという行動指針です。
入山 TCGの場合、パーパスが腹落ちしているため体系化できましたね。
若松 ビジネスモデルやバリューチェーンを変革していく上で、パーパスはビジョンコンセプトやストーリーになります。ビジョンに向かって変革するには、創業時につくられた経営理念の表現だけでは満たせないと感じました。
当社の場合、未来に向かうビジネスモデルやバリューチェーンは、パーパスストラクチャーをつくる上で見えてきました。例えば、バリューの1つ目にした「高い専門性と高い総合性の発揮」です。創業者がつくった言葉ですが、私も非常に好きな言葉であり、TCGのビジネスモデルの参考にしてきました。実は、「高い専門性」と「高い総合性」の両方を発揮するというのは矛盾でもあります。専門性と総合性というトレードオフな言葉を、あえてバリューの1つ目にしました。
入山 私は良い経営者・会社の特徴は矛盾していることだと思っています。
米国のハーバード大学ビジネススクールや一橋大学で教鞭を執られた竹内弘高先生の論文に、「トヨタ自動車の強さの秘密」について書かれたものがあります。それによれば、トヨタ自動車の究極のポイントは矛盾していること。ご存じのように、石橋を叩いても渡らない会社ですが、時に非常に大胆な意思決定をします。
私がみなさんにお伝えしている両利きの経営も、幅広く遠い知見を組み合わせながら一方で深掘りをすること。やはり矛盾しています。
若松 なるほど、面白いですね。私自身は、高い専門性と高い総合性を同時に追究するのが経営コンサルティングファームであり、「We are Business Doctors」のスピリッツだと考えています。経営は個々の専門的機能の集合体ですが、それらを高い次元で融合させなければ良い経営にならないし、競争優位性も生まれないと考えます。
入山 冒頭でも言いましたが、パーパスやビジョンは一般動詞でなければなりません。一方、バリューはどちらかと言えば形容詞です。TCGのバリューは「清新に」「真摯に」「さわやかに」といった形容詞が使われており、こう在りたいという思いが入っています。それがコンサルタント一人一人の行動に落とし込まれていきます。
若松 そこは大事です。先述したように、組織は戦略に従います。では、戦略は何に従うのかと言えば理念ではないかと思います。考え方、コンセプトが戦略を生み出します。そして、理念は組織において経営されることで成果になっていきます。この関係性を、パーパス&バリューを通していかに経営に落とし込むかが重要になります。
経営者の決断を愛で支える。それが日本全体を変革する底力になる
若松 経営コンサルティングファームとして、プロフェッショナル人材がどのような思いで仕事と向き合うのかは非常に大事な部分です。最後に、策定したパーパス&バリューに取り組むTCGの社員にメッセージをいただけますか。
入山 今回、本当に素晴らしいパーパス&バリューを策定されました。今の日本に足りないのは「経営者の決断」です。答えのない時代を迎え、誰も正解を教えてくれません。それでも、経営者は決断しないといけません。
そうした中、TCGのような経営コンサルティングファームが決断を支えることがますます重要になっていると思います。経営者の決断を促し、日本全体を変革していくことが求められています。TCGのみなさまには、パーパスにあるように愛で経営者の決断を支えながら、日本全体を変革していただきたいと思っています。
若松 ありがとうございます。読者のみなさまの会社での、経営理念やパーパス&バリューの意義と、その浸透策の参考になることを願っています。
そして、TCGとしては、私たちのパーパス&バリューに共感する優秀な人材を世界中から集め、世界中の企業を成功で満たすというビジョンを実現していきたいと考えています。入山先生との対談で得た学びを生かしながら、さらに力強く、私たちらしく「TCG WAY」を歩んで行きます。本日はありがとうございました。
早稲田大学 大学院 経営管理研究科 教授 入山 章栄(いりやま あきえ)氏
1998年慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院で博士号(Ph.D.)を取得。同年から米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサー(助教授)。2013年に早稲田大学ビジネススクール准教授、2019年4月から現職。専門は経営戦略論および国際経営論。「Strategic Management Journal」「Journal of International Business Studies」など国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。主な著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか〜知られざるビジネスの知のフロンティア』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)。
タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。
タナベコンサルティンググループ(TCG)
大企業から中堅企業のビジョン・戦略策定から現場における経営システム・DX実装までを一気通貫で支援する経営コンサルティング・バリューチェーンを提供。全国600名のプロフェッショナル人材を有し、1957年の創業以来17,000社の支援実績を持つ日本の経営コンサルティングのパイオニア。