タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(左)、神戸大学大学院 経営学研究科 教授 金井 壽宏 氏(右)。神戸大学 貴賓室にて
企業とは、生い立ちも経験も立場も異なる人々が1 つの目標に向かって走り続ける集団。バラバラになることなく、組織として高度に機能するためには何が重要なのか。日本における組織・リーダーシップ研究の第一人者である神戸大学大学院の金井壽宏教授に話を伺った。
【図表1 】ファーストコールカンパニー宣言 100年先も一番に選ばれる会社
金井 ファーストコールカンパニーのような5つの特徴を持った会社に求められるであろう2つ目のポイントは、経営トップをそばでサポートする右腕人材、パートナー人材の役割ですね。小倉氏も、都築幹彦氏という力強い右腕がいたから、宅急便を実現できたと語っています。
若松 ソニー創業者の井深大氏と盛田昭夫氏、ヒューレット・パッカード創業者のウィリアム・ヒューレット氏とデビッド・パッカード氏のような感じですね。天才と評価できるような経営者には、必ずパートナーがいます。非常に大切であり、組織経営の始まりでもあります。後継経営者の場合は、急に右腕人材をつくることは無理ですが、社内でジュニアボードを運営し、それに近い人材を選んだり、自らの内閣を育成したりできます。最良のパートナー人材や内閣を見極める方法はありますか。
金井 お勧めの方法の1つに「オートパーツ・エクササイズ」というものがあります。これは、社員の役割をエンジンやブレーキ、ステアリングといった想像しやすい自動車部品になぞらえて議論していく手法で、それぞれの社内での行動や役割を自覚したり、周囲が再認識する時に有効です。もし、社長がアクセル型なら、ブレーキになる人を右腕に据えるとよいかもしれません。
若松 それは興味深いです。自動車は、どの部品が欠けても目的地まで走行できないわけですから、組織や人材を生かす手法と似ています。後継社長は創業者の経営スタイルをそのまま引き継ぐのが難しいので、そうした組織学習で経営スタイルを見直し、組織経営を自覚することも一手です。
金井 創業者が命令で引っ張ってきた会社を、性格の違う子息・息女が承継した場合、「サーバント・リーダー」として力を発揮する方法もよいと考えます。これからの時代は、このリーダーシップ・スタイルの方が適切に機能します。サーバントとは「奉仕」の意味で、旧来の「トップのために社員がいる」という発想を逆転した「社員に奉仕(社員を支援)するためにトップがいる」という考え方の経営です(【図表2】)。この考え方を取り入れることで、社員の自主性が伸びるとともに、トップとの信頼関係やコミュニケーションが厚くなり、目標を達成しやすくなります。ただ、「何のために奉仕するのか」「なぜそのスタイルにするのか」という理念や目的は、常に忘れないように注意したいところです。
【図表2】支配型リーダーとサーバント・リーダー
神戸大学大学院 経営学研究科 教授金井 壽宏(かない としひろ)氏
1954年、神戸市生まれ。京都大学教育学部卒業。マサチューセッ ツ工科大学でPh.D.(マネジメント)、神戸大学で博士号(経営学) 取得。神戸大学経営学部教授を経て1999年より現職。リーダー シップやキャリア、モチベーションなど、働く人の生涯にわたる発達や、 組織の中の人間行動の心理学的・社会学的側面に注目し研究を 行っている。著書に『リーダーシップ入門』(日経文庫)、『変革型ミ ドルの探求』(白桃書房)、『企業者ネットワーキングの世界』(白桃 書房)など多数。 個人の能力以上に組織のケイパビリティーの方が強い 若松 「自由闊達に開発する組織」をつくるには、現場に権限を委譲し、顧客と対話をしている社員の意見がトップに入る組織デザインが必要です。米歴史学者のアルフレッド・D・チャンドラーJr. の言葉に「組織は戦略に従う」がありますが、私は自分のコンサルティング経験から、「組織は戦略に従い、戦略は理念に従い、理念は組織で経営されてこそ成果となる」ことを導き、提唱しています。サーバント・リーダーシップは、まさにこれに合ったリーダーシップ・スタイルです。理念(戦略)を実践し、成果に変えるために大事なことは何でしょうか。 金井 まずは社員に対する徹底したコミュニケーションです。理念を実践した成功例やチャレンジ例をしっかりと評価すること、理念に沿って社会の役に立っている自社に誇りを持ってもらうことなどによって、経営トップの考え方の浸透を図ることが大切ですね。 若松 「宗教は信じた者が救われるが、理念は救われた者が信じる価値観」。すなわち、成果が出ない理念は信じてもらえず、組織では機能しません。そして、人は理念に加えて評価と報酬があってこそ、モチベーションを高めて動くものです。これらの仕組みづくりの課題も、先ほどのパートナー人材のいるチーム組織によって解決できそうですね。 金井 個人の能力より組織のケイパビリティー(※2)の方が断然、持続性において強い。そして、後者は簡単には他社に模倣されません。優れた個人の能力は、その人が組織を離れるとなくなってしまいますが、組織能力は違う。何事も組織として見ることが重要なのです。また、経営者個人と組織のライフサイクルを照らし合わせ、ある時点になったら次世代経営者の育成、リーダーシップのバトンタッチを行うべきです。 ※2 企業が全体として持ち、持続する競争優位性のもととなる組織的な能力 後継者は40代の人材がよいと思います。その人なりの経営を本当に確立するには10年から15年はかかります。「若いからまだ早い」という感覚は持たない方がよいでしょう。新任経営者の成長期間は、先代社長も共に勉強し続けることが大切です。学びに年齢は関係ありませんから。 多様なリーダーシップを生かせる組織デザイン 若松 タナベ経営では40代の人材を「戦略リーダー」と捉え、最も成長する年代と位置付けています。 金井 確たるリーダーシップを発揮できるようになるのが、入社から20年ほどキャリアを積んだその年代です。リーダーに足るスキルやノウハウの7割はその人自身の経験で積み上げた部分で、2割は先輩リーダーを手本にした部分、残りの1割は会社の研修などで学んだ部分。世の中にはさまざまなタイプのリーダー人材がいますが、どんなリーダーが自社の次のトップにふさわしいのかを見定めることが肝要です。 若松 例えば、どのようなリーダーシップのタイプが挙げられますか? 金井 ラグビー元日本代表監督の平尾誠二さんから何度となく教えてもらったのですが、チームにはゲームリーダー、チームリーダー、イメージリーダーの最低3人が必要だそうです。ゲームリーダーは嫌われ者でもよいからとにかく試合を勝ちに導く人。チームリーダーはメンバーをまとめる人徳やスピリットを持つ人。イメージリーダーは絶対負けるだろうという相手に臨んだときに、ゲームリーダーやチームリーダーが持たないとっぴなアイデアを上手に効果的に出す人。チームが組織として真の強さを発揮するには、1人のリーダーだけではダメとのことでした。 若松 個性を生かしたリーダーシップの役割分担ともいえそうです。多様なリーダーシップを駆使して全体をけん引するスタイルは、これからの組織の在り方に近い気がします。 金井 企業におけるリーダーシップには大抵、ビジネス推進のタスク軸と集団のメンテナンス軸という課題が存在します。その両方を1人の人間ができるに越したことはないのですが、もしもそうした人材がいないのなら、組織の機能分担も含めて何人かで分け持てばよいのです。先述したトップの右腕人材、パートナー人材の重要性もそこにつながります。 若松 極論を言えば「全社員がリーダーたれ」「随所に主となれ」。多様なリーダーシップの存在を受け入れることが組織を活性化し、会社を100年経営へと導く秘訣なのかもしれません。 金井 ですから経営トップとしては、社員個々が持つ「リソースの価値」をきちんと把握し、説明できることが最低限の責務です。例えば、社員に「今の君はこんな状態だけど、ここを磨けばすごく良くなるぞ」と気付きを促すことを繰り返していく。そうすると自然とリーダー人材が増えていくでしょう。トップは「リーダーを育むリーダー(leaderdeveloping leader)」です。 若松 私は「長所連結主義」と呼んでいます。サッカーに例えるなら、各選手の長所(技能)を生かしてパスを回さないと、ボールはゴールに入らないということです。企業組織も、一人一人の長所をつないでいかないと、目指すべきゴールにはたどり着けません。私も経営者として、また経営コンサルティングの際に、常々その視点を重視しています。金井先生の言葉から、さまざまな気付きをいただきました。本日はありがとうございました。
(株)タナベ経営 代表取締役社長若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタン トとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業ま で約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカ ンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。 関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営 入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社 長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共 にダイヤモンド社)ほか著書多数。