最良の人材が最良の価値を生み出す
若松 学生服、スポーツウエア、ヘルスケアウエアという3つの主力事業を着実に発展させるのは組織と人材です。商品開発や技術伝承の面で、その力をどう維持・伸長しようとお考えですか。
近藤 一番は優秀な人材の確保です。例えば、当社では2008年ごろ、生産工場での技術伝承が難しくなりました。原因は、国内の人材不足により、海外からの就労者を増やしたことでした。彼・彼女らは3年ほどで母国に帰ってしまい、工場に技術が定着しなかったのです。そこで考え方を改め、家政科や被服科出身の日本の高校生を対象にした採用活動を強化しつつ、総合職の社員と同等の教育を行う機会を増やしました。するとモチベーションが上がって社員が定着し、縫製や段取りの仕方など現場発で高品質・高効率な生産を可能にするさまざまなアイデアが出てくるまでになったのです。現在の当社は、そうした人材に支えられています。
若松 技術者としてのプロ意識の醸成に成功されたわけです。技術の伝承には、採用から教育にわたる人事制度の積極的な見直しが不可欠であり、進化させ続けることが重要です。
近藤 その後もインストラクター制度やマイスター制度をつくって熟練技術者の育成に力を注いでいます。今後は、より具体的に将来像を描いてもらえるよう、待遇面を踏まえた明確なキャリアステップを整備し、提示していこうと考えています。
若松 トンボは他のアパレル企業と異なり、安易に海外に工場を広げず、国内生産を大きな強みとしています。全社が「技術集団」になっている。そのモノづくりの力とノウハウを大いに発揮していただきたいと思います。
「衆知型全員経営」を軸に、常に「次代」を創造する組織
若松 経営幹部の育成を独自の方法で進めておられますね。タナベ経営が提唱するジュニアボードやビジョンボードもうまく活用されています。
近藤 役員候補者を育成するビジョンボードや、部課長を幹部候補に育てるジュニアボード、その登竜門となる幹部候補生スクールとも、タナベ経営との連携でうまく機能しています。当社は同族企業ではないので、そうしたステップで誰もが経営の中枢を目指せることを明示するのは、社員の経営能力の向上と会社の持続的成長に欠かせません。
若松 近藤社長や歴代の経営陣とディスカッションすると、次代、すなわち「次の世代の経営体制をどうするか」というテーマになることが多い。これは歴史ある会社の特徴です。事業承継は企業の最大の課題ですが、トンボが幾度もその節目を乗り切り、歴史を刻んでこられた秘訣は何でしょうか。
近藤 ひと言で表せば「衆知型全員経営」と言えるでしょう。当社は常に社員に対して「ガラス張りの経営」を心掛けてきました。私の代になってからも、悪いことほど優先的に社長へ報告するよう指示したり、若手社員との食事会を開いてコミュニケーションを深めたりしています。そうしたことを通じて、会社の現状と今後の方向性を互いに認識・議論し合うことが何より大事です。個人的に、社長業はワンサイクル3年と考えています。次の3カ年の経営計画は、2016年5月の140周年記念パーティーで全社員に発表する予定です。伝える骨子は、現在の年商250億円から300億円企業になるためにどうすべきか。私の代で終わることのない、先々を見据えた計画にしたいと考えています。
若松 CSR(企業の社会的責任)にも積極的ですね。子どもたちに「とんぼ」を描いて出品してもらう『「WE LOVEトンボ」絵画コンクール』も継続しておられます。何をするにしても、一度取り組むと継続されることがトンボの強みです。
近藤 同コンクールは2015年で第30回を迎え、1986年の第1回から累計で約254万点もの作品をご応募いただきました。トンボの文化事業の1つとして継続していきたいと考えています。
若松 10年後には、さらに大きな節目の150周年を迎えられます。英国の元首相ウィンストン・チャーチルの言葉に「過去をより遠くまで振り返ることができれば、未来もそれだけ遠くまで見渡すことができるだろう」というものがあります。これからも歴史に学びながら、未来の歴史をつくり続け、200年企業へと持続的に成長されることを期待しています。「変化を経営する会社、トンボ」の未来がますます楽しみです。本日はありがとうございました。