住まいと暮らしを提案し地域シェアナンバーワンを実現するファーストコールカンパニー:シアーズホーム 代表取締役 丸本 文紀×タナベコンサルティング 若松 孝彦
経営者の仕事は社員を幸せにすること
丸本 経営者の仕事は、社員の給与を上げて幸せにすることだと思います。当社は、ほぼ毎年5%ずつ社員の給与を上げています。あとは社会貢献も重要な役割ですね。配当金の一部は社団法人を通して地域のサッカーチームや野球チーム、文化施設のスポンサー金に充てるなど社会貢献に使っています。
事業で儲けて社員の給与を上げ、税金をたくさん払って国に尽くし、地域貢献していく。これが地方の経営者の仕事だと思います。
若松 私はそれを「マクロ的善循環」と呼んでいます。企業行動としてのミクロ経済の善循環は先ほどお話しいただきましたが、マクロ経済である地域や国などを巻き込んで善循環を実現するための取り組みが、これからの経営には大切です。「儲けるは欲、儲かるは道」。ミクロ経済とマクロ経済の善循環モデルが大切です。
企業が成長しなければならない理由を、社員への見返りも含めて会社がしっかりと示していく。給与を上げる源泉がどこにあるのかと言えば、その基本はピーター・F・ドラッカー氏が示した「顧客の創造」にある。そこに思いをはせないと、企業の持続的な成長は難しいと思います。
丸本 ノートに書き留めている言葉があります。日本経済新聞の連載『私の履歴書』に掲載された、タイのCP(チャロン・ポカパン)グループ会長であるタニン・チャラワノン氏の言葉です。「いかに事業を受け継ぎ、守るかと聞かれれば、こう答えることにしている。『方法は1つしかない。事業を創造し、生み出し続けるのみだ』」(日本経済新聞『私の履歴書』2016年7月23日付)。
同社は養鶏場からスタートして、今やタイ最大のコングロマリット企業へと成長しましたが、これこそが経営の在るべき姿だと思います。規模が大きくなったら後は管理で儲けるというのは経営ではない。今ある事業で儲けながら次に行かないと未来はありません。
若松 事業経営の本質だと思います。ただ、難しいのは「事業センス」が簡単には身に付かない点です。創業者は苦労しながら事業を拡大する中で事業センスを獲得していきますが、後継者は経験しないまま経営することになる。逆説的ですが、今はそういった感覚を持った人が生まれるような経営やマネジメントとは何かを考えるべき時期なのかもしれません。事業を創造する経験が事業センスを磨く1つのチャンスになると考えていますが、余力がないと難しいのも事実です。
丸本 その通りです。失敗する余力が必要。また、事業の創造にはB/S(バランスシート:貸借対照表)経営が不可欠です。情と論理性の両方が大事であり、論理性がないと迷いが生じます。私は迷ったときは数字を見るようにしています。やりたいことがあっても、数字から「今は難しい」と判断したときは、1年間頑張ってお金を貯めた後に挑戦します。1番強いのは、マーケティングができて経営数字が扱えることですが、そういった人はなかなかいませんね。
若松 それを実現するために、当社のチームコンサルティングを活用して「ホールディング経営」を導入されました。まさに、純粋持ち株会社と事業会社の関係であり、事業会社はB/S経営をしないといけませんからね。経営には“ロマン”と“ソロバン”の両方が必要です。おのずと経営人材が育つ仕組みです。
エリア拡大と事業創造でグループ売上高1000億円を目指す
若松 シアーズホームグループで売上高300億円の達成が見えています。将来に向けた展望、ビジョンをお聞かせください。
丸本 売上高1000億円は超えたいですね。そのためには、新しい事業を始める必要があります。きちんと数字を見ながら事業を創造していかないといけませんし、やはり人材育成が大事ですね。
B/Sが分かれば社長の業務が見えてきます。B/Sをつくり、設備効率や人材効率を上げながら、収益を上げる力を養っていく。また、ホールディングス化が人材育成につながっていることを実感しています。タナベコンサルティングにお手伝いいただいている「ジュニアボード」※2も、人材育成やチームづくりをする上で非常に良いですね。今後も続けていきたいと考えています。
若松 ホールディング経営をサポートする形でサクセッションプラン(事業承継計画)も進めていらっしゃいます。グループ経営に必要な要素は、①ホールディングス化、②ジュニアボードの導入、③企業内大学の導入、④M&A、⑤DX経営、主にこの5つがあります。いずれにしても、経営者としての視点や経験を積める場を意識的につくっていくことが必要です。
丸本 タナベコンサルティングとのお付き合いを通して、経営が進んでいくような感覚があります。課題が明確になるといった印象です。単に売り上げが上がる、利益が上がるというだけではなく、会社を良くしながら地固めしている感覚があります。
若松 ありがとうございます。私が言うのもおこがましいですが、丸本社長はさまざまな知識や学びをご自身のものにされて、取捨選択しながらリーダーシップをとって社内に実装されています。それが成長の原動力になっているように感じます。
最後に、住宅産業全体を見ると人口減少により市場は縮小すると予想されます。シェアの拡大と同時に、伸びゆく事業の種をまいておくことが肝要です。その点で言うと熊本県は、ファウンドリ企業(半導体製造を専門に行う企業)の世界的大手であるTSMC(台湾積体電路製造)が、日本で初めての工場建設を熊本県・菊陽町で進めている影響で地価が値上がりしています。まさに数十年に一度のチャンスですね。今後の事業創造についてはどのような計画をお持ちですか。
丸本 チャレンジしたいのはインバウンド(訪日外国人)の分野です。インバウンドや富裕層向けの貸別荘事業を準備しています。また、不動産賃貸業も視野に入れています。不動産企業の強みは賃貸収入があること。フローとストックのバランスがポイントになると思います。
若松 対談を通して多くの学びがありました。シアーズホームグループの人を中心に置く「人的資本経営」と、あくなき事業の創造で1000億円企業へと飛躍されることを祈念しております。
本日はありがとうございました。
シアーズホーム 代表取締役 丸本 文紀(まるもと ふみのり)氏
1955年熊本県生まれ。中央大学商学部卒業後、1978年ニコニコ堂入社。
1989年4月シアーズコーポレーション(現シアーズホーム)設立。
タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。
タナベコンサルティンググループ(TCG)
大企業から中堅企業のビジョン・戦略策定から現場における経営システム・DX実装までを一気通貫で支援する経営コンサルティング・バリューチェーンを提供。全国600名のプロフェッショナル人材を有し、1957年の創業以来15,000社の支援実績を持つ日本の経営コンサルティングのパイオニア。
PROFILE
- (株)シアーズホーム
- 所在地:熊本県熊本市南区馬渡2-12-35
- 創業:1989年
- 代表者:代表取締役 丸本 文紀
- 売上高:272億9200万円(連結、2022年3月期)
- 従業員数:597名(連結、2022年3月現在)