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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2016.03.31

ブランドを磨き感動を創造。変化と成長を続ける100年企業 久原本家グループ本社 河邉 哲司氏

ブランド価値を高めるビジネスモデルを構築

 

若松 初の自社ブランドビジネス、めんたいこの椒房庵は、どのようにスタートされたのですか。

 

河邉 タレのOEMで会社は成長しましたが、OEMはいつなくなるか分からないため、自社ブランドが必須だと以前から考えていました。そこで、めんたいこのブランド化に挑戦したのです。本場・福岡での最後発のスタートでしたから、原卵も北海道から良いものを仕入れるなどこだわり抜きました。赤字も続きましたが、ここで学んだことは非常に大きかったですね。

 

販売は地場の百貨店で始めました。驚いたのは全国から注文が相次いだことです。顧客の間でおいしいとのクチコミが広がり、おのずと通販が伸びていきました。直販店と通販、2つのチャネルで商品を販売したことが勉強になり、その成果が茅乃舎ブランドに結び付いたのです。

 

若松 中堅企業のビジネスモデルを見ていると、下請け、OEM、自社ブランド開発と成長過程を経ています。持続的成長を果たそうとすると、自社ブランドと向き合うときが必ず来ます。「何としても自社ブランドを持つ会社にしなければ」という河邉社長の使命感を感じます。

 

河邉 食品メーカーは、自社の製品をほとんど卸や食品工場に販売しています。しかし、流通だけで採算を取るのは非常に難しい。だから、大手と同じことをするのではなく、独自のビジネスモデルをつくることが大切で、それが「久原ブランド」につながっていると思っています。

 

若松 売上高はターゲットとなる市場規模で決まります。売上規模以上に自社ブランドの「ファーストコール化」(顧客から一番に選ばれること)を優先することで、経常利益率10%を実現できる独自のビジネスモデルになります。売上規模はそれらの結果と考えるべきです。

 

河邉 茅乃舎は通販から始めたブランドですが、実店舗を増やし、2年前に売り上げが通販4割、店舗6割に逆転しました。とはいえ、食品メーカーが、食品の通販で約4割の売り上げを持っているのは、極めてまれなビジネスモデルだと思います。これこそが当社の独自性です。

 

若松 今後ますますネット通販は拡大するでしょうから、そのチャネルを現時点で持っている価値は大きいですね。2015年、本誌で「地域に密着してリージョナル(地域的)にマーケットを展開することが、最終的にはグローバル戦略になる」という話を松井忠三氏(良品計画の前代表取締役会長)と交わしました。実店舗と通販の2つを結び付けるバランス、顧客密着モデルが独自性のポイントになりますね。

 

河邉 現在、全国に15店舗を展開しています。2016年には目標の20店舗を達成する予定ですが、あまり多店舗展開はしたくありません。さらなる成長のためには、いかに「本物」を追求できるかが大切。小規模ならではのブランドビジネスを行いたいのです。

 

そのためには、「少し価格は高いけれど、おいしい」と感動してもらえるかどうかが肝要となります。あちらこちらでは販売せずに、きちんと定価で売る――。つまり、ブランド価値を高めるビジネスモデルをつくっていきたいのです。

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福岡県・久山町にある「レストラン茅乃舎」。大きな茅葺き屋根が山里の風景に溶け込んでいる

 

 

オンリーワンのモノづくりで感動を創造

 

若松 当社の創業者・田辺昇一は、「良い店は客を変えない、良い客は店を変えない」とよく言っていました。久原本家は実店舗と通販の両方で、真に顧客密着のリージョナルなビジネスモデルをつくれるのではないでしょうか。実現すれば、類似店が現れても顧客は離れません。

 

河邉 当社はお客さまとの関係性をもっと強くしていかなければなりません。実店舗においては接客も重要ですが、「久原本家でないと」といわれるようなオンリーワンのモノづくりを徹底的に行っていくつもりです。

 

ここで直販の良さが発揮されます。流通に乗せると、普通は1年の賞味期限が必要でしょう。しかし、直販だと賞味期限が短くても商品を提供できます。おいしさや感動の違いは明白ですよね。そこにビジネスチャンスがあると思っています。

 

若松 現在、企業には、ソリューション価値を提供できるか、つまり顧客が抱える課題を解決できるところまで商品・サービスの価値を高められるかという課題があると同時に、「感動」という価値の創造も求められています。福岡という地域から感動を生み出している久原本家の今後のビジョンを教えてください。

 

河邉 さらに新しいブランド事業を創造しようと考えています。あとは海外進出です。2016年の夏、ベトナムにレストランを出店する予定です。これからも、さまざまなことに挑戦し、良いこと、悪いことをしっかりと整理した上で、後進に道を譲ろうと思います。それが久原本家の次なる100年の礎となるでしょう。

 

若松 私たちはコンサルティングの経験から「ファーストコールカンパニーはナンバーワンブランド事業を創造し続ける会社」と提言しています。「戦略は実行」です。組織規模が大きくなってくると、ブランド価値を保つためにも、社員の皆さんの実行力がますます重要になってきますね。

 

河邉 従業員に対しては、とにかく感謝の一言です。「売り上げが伸びても決してそこに甘んじることなく、お客さま目線で『当たり前』以上に接するように」と言い続けています。

 

若松 最後に、社長という仕事に対する思いをお聞かせください。

 

河邉 社長の役割は2つあります。1つは先頭で旗を立てて走っていく。もう1つは後ろから皆をグッと支えていく。引っ張り、押して支える、両方が必要です。新しく入社する社員を「わが家へようこそ」と歓迎する会社でありたいと願っています。

 

若松 私は「神の導き、仏の後押し型のリーダーシップ」と呼んでいますが、大変共感します。その企業文化を150年、200年と続け、より醸成されることを祈念いたします。本日はありがとうございました。

 

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(株)タナベ経営 代表取締役社長
若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。