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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2022.08.01

顧客中心の一気通貫体制で総合リフォーム業全国ナンバーワン:ニッカホーム 代表取締役会長 榎戸 欽治氏×タナベコンサルティング 若松 孝彦

 

 

「捨てることが拾うこと」
目先の損得だけでは人も企業も成長しない

 

若松 多くの成長の壁を乗り越え、今ではニッカホームのグループ売上高は504億円を超えています。100億円の壁を突破し、300億円、400億円という成長軌道に乗るきっかけはありましたか。

 

榎戸 「自分の持っているものを捨てることで、新しいものが拾える」と気付いたことが、1つの転換点になったと思います。例えば、あるお客さまから「うちの息子が仕事を辞めてしまったが、採用してくれないか?」と頼まれた際、普通なら断りますが、採用してみたら優秀な人材だったことがあります。人の縁は特にそうですが、目先の損得で判断してはダメですね。事業もそう。逆の視点を得たことは大きかったと思います。

 

若松 同感です。経営には短期的な損得を超えた長期的な「志」が必要です。榎戸会長からは人を大切にされる姿勢が伝わってきますが、全国展開においても社員の主体性を大事にされているそうですね。

 

榎戸 当初、全国展開は考えていませんでした。ですが、頑張ってくれていた社員が家庭の事情で地方に戻る際、「それならば事業所をつくろう」といった流れで設立したのが始まりです。戦略的ではありませんが、それが良かったように思います。「同じ釜の飯を食べた仲間が地方で頑張っている。それならば応援しよう」という雰囲気があり、問題が起こったときは社員が自発的に助けに向かってくれます。今も、まだ出店していない地域であれば、「やりたい」という社員に立ち上げ費用を全額支給する仕組みがあり、独立を支援しています。

 

若松 今で言うスタートアップ・スピリッツ(起業家精神)を高める面白い仕組みです。単純なフランチャイズモデルと違って、榎戸会長の思いや仕事ぶりを近くで見てきた社員が行くのですから、成功の確率も上がるはずです。能動的に動く社員が成長の原動力となっていますが、人材づくりの秘訣は何ですか。

 

榎戸 よく同業者から「ニッカホームさんには優秀な人材がたくさんいますね」と言っていただきます。大切なことは、成長する環境やチャンスを与えることです。置かれた環境で人は変わっていきます。

 

例えば、コロナ禍の影響で毎月200万円の赤字が出る事業があります。撤退しようかと思いましたが、事業責任者に「どうしてもやりたい」と直談判されて任せることにしました。厳しい状況ですが、事業に携わる人が協力し合えば状況は変わりますし、もし再建できなくても別の何かが生まれる予感がしています。年間2400万円の赤字は決して小さくありませんが、グループ全体を揺るがす数字ではない。机上の計算だけで判断しないのが、当社らしいやり方だと考えています。

 

若松 私もよく従業員エンゲージメント(会社への愛着心)の本質は、エンパワーメント(権限委譲)にあると言っています。任せてみて、失敗を経験しながら成功にたどり着くものです。

 

私は、ご縁があって30歳代のときにビジネスドクター(経営コンサルタント)として企業の生死を目の当たりにしてきました。その経験や環境があったからこそ今があります。事業を立て直すことや黒字化させる経営体験は、本人の財産になる可能性が高いですね。

 

 

新しい事業へ挑むための次代経営者育成プログラム

 

若松 経営を目先の損得だけで判断しない。その考えが人材の育成にも貫かれています。現在、タナベコンサルティングは社長育成プログラムの運営をご支援していますが、次代の経営者育成に取り組む中で、大事にされていることは何でしょうか。

 

榎戸 やはり、ものの考え方や見方を大事にしています。それが分かると全て自然に決まっていきます。例えば、先ほど取材中に私のコップの飲み物が空になったのを見て、若松社長の秘書の方がお茶を持ってきてくれました。素晴らしい気付きですね。相手のことを考えていれば必要なものが見えてきます。相手がどう思うかを感じると行動が変わりますから、経験を通してそこに気付いてもらいたい。逆にそこが分からないまま、「技術」だけ覚えてもうまくいかないものです。

 

若松 ありがとうございます。そう言っていただくと秘書も喜ぶと思います。「心」がないと、同じ技術を持っていても結果が違ってきますからね。

 

榎戸 建築現場では、棚なんかが傾いたまま設置されていたりする。水平器で測ると水平ですが、目で確認するとやはり傾いているというケースは少なくありません。相手のことを思って施工すれば気付くはずですが、技術だけに目が向いている人はなかなか気付けません。想像力やそれらのセンスは教えることが難しいです。

 

若松 経営者には、「事業センス」と「経営センス」の2つが必要です。経営センスは後天的に学べますが、残念ながら、「何をすればお客さまが喜ぶのか、収益が上がるのか」というような事業センスは学ぶことが難しく、遺伝もしません。事業センスは失敗しながら体験として身に付いていくものなのです。次代経営者育成で難しいのは、事業センスをどのように経営システムに取り入れていくか。会社存続の条件の1つであると言っても過言ではありません。

 

榎戸 なるほど。思い当たるところがありますね。近年、入社した社員は学歴もあり非常に優秀ですが、創業初期メンバーには他にはない強みがあります。やはり創業を経験することが必要だと思い、新規事業を立ち上げながら育成しているところです。

 

若松 事業センスに年齢・性別・学歴は関係ありません。会社を成長させるには、事業センスのある人材を見極める必要があります。ただし、組織が大きくなるほど階層で人を選びがちです。難しいのは、管理職として適任であることと、事業を創るセンスがイコールでないこと。加えて、事業センスがある人でないと、事業センスがあるかどうかを見極められないことです。だからこそ、経営者育成プログラムという学びと体験価値が融合したプログラムは価値があるのだと思います。