ジャクエツ 代表取締役社長 徳本 達郎氏(左)、タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(右)
創業から100年、保育用品の製造から園舎の設計まで「幼児教育」に特化して事業を日本一に育てたジャクエツ。ダイレクトマーケティングとオリジナル商品を核に、最良な「こども環境」を創造し続けるミッション経営の神髄を、代表取締役社長の徳本達郎氏に伺った。
福井で2番目の幼稚園を開園 教材事業で全国区へ
若松 ジャクエツは、幼稚園の運営から教材や遊具、園舎の設計まで、幅広く事業を展開されています。2015年に創業100周年を迎えられましたが、創業の経緯からお聞かせいただけますか。
徳本 私の祖父である徳本達雄は大学卒業後に敦賀に戻り、幼稚園の開設を目指しました。まだ福井県に最初の幼稚園ができたばかりの創革期。地元の有識者や資産家を訪ね、幼児教育の必要性を訴えて回るうちに、旧大和田銀行(現三菱東京UFJ銀行)頭取で商工会議所会頭だった大和田荘七(しょうしち)氏をはじめ、地元の有力者にご協力いただき、1916年に「早翠(さみどり)幼稚園」の開園にこぎ着けました。
若松 地域における幼児教育のパイオニアですね。社会課題を解決する形で事業を始められたところに社徳を感じます。教材事業へ参入されたきっかけを教えてください。
徳本 幼稚園を開いた当時は教材を扱う会社がなく、地元の名産である越前和紙を染めた色紙などの教材を自給自足のような形でつくっていました。次第に近隣の園からの依頼に応える形で提供するようになり、創業から10年足らずで各地に評判が広がったため、会員制販売に加えて通信販売のような形で事業をスタートさせました。
若松 幼児教育の普及振興というミッションのもと、事業を拡大されたのですね。
徳本 1933年には工場を新設して量産体制を整えました。しかし、太平洋戦争が勃発し、終戦間際の1945年7月に米国機の来襲で幼稚園も工場も全て焼失してしまいました。
若松 そのような状況の中、どのように事業を再開されたのですか。
徳本 終戦を迎えると、仮の工場を建てて事業を再開しました。戦争で夫を亡くした婦人の働く場として教材づくりを始めたのです。その後、敦賀市が住民救済事業の一環として設置した授産場の経営を委託され、そこで教材を製造。1949年には「株式会社若越」を設立し、教材事業は拡大していきました。
ダイレクトマーケティングとオリジナル開発商品でブランド化
若松 教材事業は会社の柱事業となりましたね。
徳本 第二次ベビーブームもあり、毎年20%ほど売り上げが増加していました。しかし、出生数は1973年の約209万人から減少に転じます。教材事業の成長が鈍化する中、やり方を変えなければならないと考え、消耗品ではなく心に残る教材の開発に注力。高付加価値のオリジナル商品にこだわり始めたのです。
若松 マーケットが横ばいになる中、原点である幼児教育の専門性を深掘りされた。深化させる方向に進んでいったのですね。
徳本 直販でお客さまとダイレクトにつながっていたことが、こうした方向に進めた最大のポイントだったと思います。
若松 脱下請け経営の原理原則は、オリジナル商品開発とダイレクトマーケティングへの取り組みにあります。自立した会社経営を目指す意志が当初から強かったのでしょうね。
徳本 当社グループ代表である父・徳本道輝の思い入れが特に強かったですね。中小企業は大手企業の下に入ることが一般的です。しかし、それでは良いものをつくっても、お客さまにどのように届いているのか確認できません。価格決定権がなくなるなどのデメリットもありますが、何よりお客さまとの間に他社が入ってしまうことが問題です。現在も、独立した組織への思いは強いですね。
若松 大手企業と契約すれば一時的な売り上げ増加なども期待できますが、それを捨てる勇気を持たれた。決断をされたわけです。ご苦労はあったと思いますが、経営者の強い意志が感じられます。独立した組織を貫くジャクエツのコア・コンピタンスは何でしょうか。
徳本 顧客を「就学前の子どもたち」に絞ったことですね。その上で、直販でお客さまとダイレクトにつながること、生産設備を持ち開発を行うモノづくり企業であること、高付加価値のオリジナル商品を提供することにこだわってきました。さらに現在は、園舎などの設計に加え、アフターメンテナンスまでワンストップで対応しています。また、次のテーマになりますが、施設だけでなく、人(運営ノウハウ)や教育を合わせてご提案する。そんな仕事に変わってきています。
若松 就学前の子ども、すなわち「おさな子」のためにという理念に沿った、幼稚園の設立に通じる事業ですね。幼稚園に始まり、施設やその中で必要となるものをつくって100年を迎えられている。独自性の高いビジネスモデルであり、使命(ミッション)の裏付けがないと生まれない発想です。現在の事業の構成比はどのようになっていますか。
徳本 グループ全体で見ると、約半分を旧来の教材や制服などが占めています。残り半分は、カスタマイズしたロッカーや園舎などの建築・設計や改修、遊具などですね。既製品は半分を切っている状況で、オリジナル商品の割合が増えてきています。(【図表】)