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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2021.10.25

全員参加の経営で物流モデルを深化。新たな価値を創造し続ける3PLのパイオニア:ハマキョウレックス 大須賀 正孝氏× タナベコンサルティング 若松 孝彦

階段は1段ずつ上り、上ったら基礎をつくる

 

若松 大須賀会長の顧客・社員・生産性・組織に対する考え方に、私も企業トップとして共感します。会社を成長させるのは社員。まさに経営の本質です。

 

創業時の倒産危機、そこからの成長、東証1部上場とさまざまな経験をされていますが、経営において大事にしている価値観をお聞かせください。

 

大須賀 会社は、倒産するのが普通。だからこそ、さまざまな手を打って絶対に継続させなければいけません。私が大事にしていることは、「階段は1段ずつ上がる」ということ。そして、1段上ったら必ず基礎をつくること。基礎ができたら、さらに1段上っていく。この繰り返しが会社の持続的な成長につながります。1段ずつなら、全員で一生懸命、仕事をすれば上れます。3段、5段となると、無理をしないと上れませんし、目指すところが高すぎると知恵も湧いてきません。

 

若松 調子が良いと、どうしても3段、5段と駆け上がりたくなるものです。私は経営コンサルタントという仕事柄、規模だけ大きくなって中身が伴わなかったり、1人のリーダーへの依存を原因に失速していく会社を多く見てきました。

 

私たちタナベコンサルティンググループのコンサルティングメソッドに「1・3・5の壁」という経営理論があります。「会社は100億円、300億円、500億円、1000億円…と、1・3・5が頭につく年商規模で成長の節目を迎え、成長のたびに条件整備をしなければ会社は持続的に成長しない」というチームコンサルティング理論です。大須賀会長のご経験は、私たちの理論とも合致しています。

 

大須賀 子どもの成長と同じように、体が大きくなれば高い階段も上れるようになる。ステージによって1段の高さが違うだけです。目の前の1段なら、今の仕事を工夫したり、みんなで知恵を出し合ったりすることによって上れるはずです。

 

ただし、上り続けるには基礎が重要です。物流事業は、商品・製品を持つビジネスモデルではないため、どんなに大変な環境下でも、1年間は社員の給与が払えるだけの現金、つまり基礎をつくると決めています。

 

 

社員それぞれの一番良い状態を引き出す

 

若松 ハマキョウレックスは、2003年に東証1部に株式上場を果たされました。JASDAQ(ジャスダック)の店頭公開から約5年後の上場であり、この決断と実行にも正しい成長の節目を感じます。

 

大須賀 株式上場では忘れられない思い出があります。JASDAQに店頭公開した際、記者会見である記者から、「店頭公開した以上、これからは株主が一番大事になる。株主にどう還元していくのか?」と聞かれたので、私は「最も大事なのは社員。社員が頑張っているから会社が儲かって株主に還元できる」と答えました。記者は目を丸くしていましたが、本心でした。

 

若松 大須賀会長はどのような場面でも、経営観が一貫していらっしゃいますね。私も東証1部上場企業のトップとして同意します。

 

大須賀 続けてこんな話をしました。「中学校は誰でも入れますが、高校は試験を受けないと入れません。その意味に合わせて、会社にとって店頭公開を高校入学、さらに難しい大学入学を東証2部上場。東証1部は大学卒業と位置付けています。

 

私は中学校卒で学歴はありませんが、会社は東証1部に上場したい」と言いました。すると、会場から「ぜひ頑張ってください」と拍手が起こりました。その後、東証1部上場を果たしますが、なんと質問をした記者が花束を持って駆け付けてくれました。覚えていてくれてうれしかったですね。

 

若松 記者も組織の1人。うれしかったのでしょうね。社員を大事にする会社こそが、持続的な成長を遂げると証明されました。物流企業は人の成長と会社の成長が比例すると言っても過言ではありません。ただ、昨今は優秀な人材を採用するのは簡単ではありません。人材をどのように採用、育成されているのでしょうか。

 

大須賀 物流業界はとにかく人が集まりません。ですから、パート社員も含めて入社してくれた社員に活躍してもらうことが重要。まず大事なのは、社員に自信を持たせることです。自信がないと知恵も出てきません。

 

社員の能力は千差万別です。例えば、3人のチームの中に100点満点中、80点の仕事ができる人、50点の仕事ができる人、20点の仕事をする人がいるとします。チームとしては150点になる。この場合、普通は80点の仕事ができる人を大事にしますね。もちろん私も大事にしますが、最も伸び代を持っているのは20点の仕事をする人です。

 

ですから、私は「今は20点だけども、工夫すれば30点になる」と方法を教えます。そして、実際に30点になったら「すごい!」と認める。すると、自信が付いて「もっと頑張ろう!」と思い、何をすれば40点になれるかを考えるようになる。そこまで来ると、50点の仕事ができる人は、「自分は負けてしまうのでは…」と努力し始めて、60点が採れるようになる。80点、60点、40点。人は同じなのに、180点のチームに成長します。

 

若松 個人としての成長以上に、チームとしてのパワーを最大化させる「チームマネジメント」という教育観です。先ほども話されていましたが、物流はサプライチェーンの究極モデルです。そもそもチームワークなしにビジネスモデルは成り立ちませんし、チェーンのどこかが断たれると役割や価値を発揮できません。「全員参加」「日々収支」「コミュニケーション」などもそうですが、チームとしての経営を考えている大須賀会長の価値観に共感します。

 

大須賀 一方的に上司が部下に命令するのはコミュニケーションではありません。本人が分かる言葉で説いて教える「説教」が大事。また、全員を同じレベルにしようと取り組むと、みんな潰れてしまいます。そうではなく、それぞれの一番良い状態を引き出せればよいというのが私の考え方です。

 

 

 

 

現場改善能力を磨き持続的成長を目指す

 

若松 「荷物を運ぶ」から、「DXも含めて高付加価値なサービス」へと物流業界に対するニーズが高まっています。今後の展望についてお聞かせください。

 

大須賀 物流業界は今後、元請けと下請けに明確に二分化していくと思います。零細企業と大企業に分かれていく。そのような中で、当社は自前のサービスにこだわっていこうと考えています。

 

大手の物流企業の中には、コンペティションで3PLを受注しても外部業者に丸投げするところがありますが、当社は自力での運営が基本姿勢。最後の配送に関してはアウトソーシングする部分もありますが、お客さまの大事な商品を預かっている以上、社内できちんと管理する責任があります。それが当社の強みである「現場改善能力」の源泉でもあります。

 

また、コロナ禍が終われば、物流業界は深刻な人手不足になると予想しています。国内の人口減少に加えて、外国人技能実習生も減っている。経験したことのないレベルの人材不足を懸念しており、今からさまざまな手を打っています。

 

その1つの解決策が、ロボットやITを活用するDX戦略です。2020年12月には関東の物流センターでAGV(無人搬送車)を用いたGTP(歩行レスピッキング)を導入し、作業の省人化を実現するなどさまざまな取り組みを進めています。また、人手不足でも成長できる仕組みと環境をつくっておくことが肝要でしょう。仕組みや文化ができていれば、人が変わっても会社は続いていくと考えています。

 

若松 高度な仕組み化と企業文化によって、これからも物流業界のパイオニアとして新たな世界を切り開いていかれることを祈念しております。本日はありがとうございました。

 

 

ハマキョウレックス 代表取締役会長CEO 大須賀 正孝(おおすか まさたか)氏

1941年生まれ。中学校卒業後に働き始め、職を転々とした後、1971年に浜松協同運送(現ハマキョウレックス)を設立。トラック1台から業務を始め、1973年にはトラック台数20の運送会社に成長したが、第1次オイルショックで最大の取引先が倒産、経営危機に陥る。これを機に、毎日収支を把握する「日々収支」を開始しコスト管理を徹底。1993年には大手スーパーの物流センター業務を受注し、3PL事業に乗り出す。物流現場のパート社員が交代で班長を務める「日替わり班長制度」などの施策で収益力を強化。2001年に東証2部、2003年に東証1部に上場。2007年より現職。

 

 

タナベコンサルティンググループ タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)

タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず、大企業から中堅・中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

 

PROFILE

  • (株)ハマキョウレックス
  • 所在地:静岡県浜松市南区寺脇町1701-1
  • 設立:1971年
  • 代表者:代表取締役会長CEO 大須賀 正孝
  • 売上高:1188億7600万円(連結、2021年3月期)
  • 従業員数:社員5080名、臨時雇用者8958名(連結、2021年3月現在)