100年経営対談
2021.10.25
全員参加の経営で物流モデルを深化。新たな価値を創造し続ける3PLのパイオニア:ハマキョウレックス 大須賀 正孝氏× タナベコンサルティング 若松 孝彦
顧客の物流全般を包括的に担う3PLのパイオニアとして躍進を続けるハマキョウレックス。「日々収支」「全員参加」「コミュニケーション」の徹底で、売上高1100億円を超える東証1部上場企業である。2021年4月には新設した「DX推進部」を中心に、物流ロボット導入などによるセンターの省人化や効率化を進めている。大手物流グループへと成長を遂げる経営の神髄を、代表取締役会長CEOの大須賀正孝氏に伺った。
【図表1】物流センター事業の取扱品目別売上高
出所:ハマキョウレックス「2021年3月期決算補足資料」よりタナベ経営が作成
第1次オイルショックで倒産危機に直面
若松 ハマキョウレックスは2021年に設立50周年を迎えられました。おめでとうございます。今や3PL※のパイオニアとして、幅広い業種(【図表1】)に向けて付加価値の高いサービスを提供されていますが、創業時に物流業界を選んだ理由は何だったのでしょうか。
大須賀 私は11人兄弟の10番目に生まれました。家は貧しく、中学校を卒業してすぐに働き始めました。20歳で運送業を始めたのは、トラックさえあれば手っ取り早く始められる仕事だったからです。
とは言うものの、信用のない若造に仕事を任せるところはありません。ですが、誰もやりたがらない仕事を引き受けて真面目に続けるうちに、「これも運んでみるか?」と声を掛けていただけるようになり、仕事が増えていきました。その後、29歳で浜松協同運送(現ハマキョウレックス)を設立し、2021年にちょうど50周年を迎えました。
若松 仕事が増え始めてからは順調に成長されたのですか。
大須賀 いいえ、そこからが大変でした。1971年に法人化して間もなく、第1次オイルショックに見舞われて最大の取引先が倒産。手形取引だったため、膨大な借金を抱えてしまいました。何とか借金を返そうと必死に働きましたが、まったく手元にお金が残らない。どこに原因があるのか知りたくて、毎日の収支を手作業で計算して書き出しました。
若松 オイルショックの苦しい経験が、今も続けている「日々収支」(【図表2】)の原体験になったのですね。日々の管理であることが大切です。決算とは言っても、365日、1歩ずつの積み重ねです。数字は正直ですから、その日の結果から会社の現状と課題が見えてきます。私も300社以上の企業再建をコンサルティングしてきた中で、「社員は黒字で会社は赤字ではいけない。決算も家計簿も同じ」と、多くの企業で日々収支を導入しました。
大須賀 おっしゃる通りです。書き出してみると、儲かっていると思っていた仕事もほとんどが赤字でした。運送業は荷物を運ぶ前に運賃を決めますが、実際にどれだけコストが掛かるかは運んでみないと分かりません。ただ、日々収支を徹底することで、コストの内訳や赤字の原因が見えてきました。例えば、それまでも社員の給料やガソリン代などの経費は意識していましたが、トラックの減価償却費や保険料、税金、水道光熱費、家賃といった費用を運賃に入れていませんでした。
若松 日々収支によって配送に掛かる実際の総コストが明確になると、無駄なコストや適正な運賃が見えるようになります。家計簿と同じで、赤字を容認する人はいませんからね。すなわち、改善の方向が見えてきます。
大須賀 人間、納得すると知恵を絞るものです。日々収支を始めると、コストの内訳が見えてきて社員が無駄をなくそうと考え始めます。さらに、「利益を出すにはいくらで仕事を受けるべきか」が分かると、現場が自主的に赤字になりそうな仕事を断ったり、コストを提示しながら値段交渉するようになったりと変化してきました。その結果、少しずつ利益が出るようになり、約8年かけて借金を完済することができました。
※サードパーティー・ロジスティクスの略で、荷主の物流部門全体を物流業者に委託する業務形態。1PL(ファーストパーティー・ロジスティクス)は、物流業務を全て自社で行い、2PL(セカンドパーティー・ロジスティクス)は、自社の物流業務の一部を外部に委託する業務形態
【図表2】「日々収支」3つのルール
出所:ハマキョウレックス「2021年3月期決算補足資料」よりタナベ経営が作成
成長のキーワードは「日々収支」「全員参加」「コミュニケーション」
若松 8年間かけて借金を完済された経験が、今の強いハマキョウレックスをつくる原動力になっているように感じます。各現場が日々収支を徹底することで、収支の構造が分かる。さらに、数字を共有することでメンバーの意識が変わり、改善に向けた行動が生まれる。物流は人でできている仕事です。「全員参加」という言葉が、経営システムの1つとして醸成されたことも納得できます。
大須賀 年商以上の借金を抱えていたので、とにかく必死でした。実は社員の給料を減らすという考えも頭をよぎりましたが、そんなことをすると社員がやる気をなくしてしまう。そこで、代わりに私の給料を45万円から社員より少ない15万円に減額しました。
個人的な話ですが、15万円の給料から家賃や水道光熱費、生活必需品を買うと、残りは3万円。それが1カ月の生活費です。銀行で全て千円札に替えてもらい、1日1000円だけ財布に入れるようにしました。子どもの学費で2000円必要なときは、その前日と当日は買い物をせず、家にある食材だけで過ごすように工夫する。そうしてやりくりする姿を社員も見ていたので、全員が会社に利益が残るように頑張ってくれたとも思います。半年後には事業の収支が合うようになったので、私の給料を20万円にしてもらいました(笑)。
若松 借金は会社が成長するための投資にもなるし、会社を潰す原因にもなるので、新しいビジネスモデルを創るための投資決断は社長の仕事です。全てオープンにすることで、トップの覚悟が社員に伝わったのでしょうね。社員を守るだけでなく、活躍する場や環境を新たにつくっています。本当の意味で「社員を大事にする」経営行動です。
大須賀 情報をオープンにしてみんなで話し合うことが重要です。私は「社員の面倒は見ていない」のです。逆に、社員に面倒を見てもらっています。当社の社員は給料以上の仕事をしてくれていますから。そうした活躍できる仕組みをつくり、環境を整えるのが経営者の仕事です。
私1人の力などたかが知れていますが、みんなの力を合わせることで大きな仕事に挑戦できる。そうやって会社は成長するのだと思います。
階段は1段ずつ上り、上ったら基礎をつくる
若松 大須賀会長の顧客・社員・生産性・組織に対する考え方に、私も企業トップとして共感します。会社を成長させるのは社員。まさに経営の本質です。
創業時の倒産危機、そこからの成長、東証1部上場とさまざまな経験をされていますが、経営において大事にしている価値観をお聞かせください。
大須賀 会社は、倒産するのが普通。だからこそ、さまざまな手を打って絶対に継続させなければいけません。私が大事にしていることは、「階段は1段ずつ上がる」ということ。そして、1段上ったら必ず基礎をつくること。基礎ができたら、さらに1段上っていく。この繰り返しが会社の持続的な成長につながります。1段ずつなら、全員で一生懸命、仕事をすれば上れます。3段、5段となると、無理をしないと上れませんし、目指すところが高すぎると知恵も湧いてきません。
若松 調子が良いと、どうしても3段、5段と駆け上がりたくなるものです。私は経営コンサルタントという仕事柄、規模だけ大きくなって中身が伴わなかったり、1人のリーダーへの依存を原因に失速していく会社を多く見てきました。
私たちタナベコンサルティンググループのコンサルティングメソッドに「1・3・5の壁」という経営理論があります。「会社は100億円、300億円、500億円、1000億円…と、1・3・5が頭につく年商規模で成長の節目を迎え、成長のたびに条件整備をしなければ会社は持続的に成長しない」というチームコンサルティング理論です。大須賀会長のご経験は、私たちの理論とも合致しています。
大須賀 子どもの成長と同じように、体が大きくなれば高い階段も上れるようになる。ステージによって1段の高さが違うだけです。目の前の1段なら、今の仕事を工夫したり、みんなで知恵を出し合ったりすることによって上れるはずです。
ただし、上り続けるには基礎が重要です。物流事業は、商品・製品を持つビジネスモデルではないため、どんなに大変な環境下でも、1年間は社員の給与が払えるだけの現金、つまり基礎をつくると決めています。
社員それぞれの一番良い状態を引き出す
若松 ハマキョウレックスは、2003年に東証1部に株式上場を果たされました。JASDAQ(ジャスダック)の店頭公開から約5年後の上場であり、この決断と実行にも正しい成長の節目を感じます。
大須賀 株式上場では忘れられない思い出があります。JASDAQに店頭公開した際、記者会見である記者から、「店頭公開した以上、これからは株主が一番大事になる。株主にどう還元していくのか?」と聞かれたので、私は「最も大事なのは社員。社員が頑張っているから会社が儲かって株主に還元できる」と答えました。記者は目を丸くしていましたが、本心でした。
若松 大須賀会長はどのような場面でも、経営観が一貫していらっしゃいますね。私も東証1部上場企業のトップとして同意します。
大須賀 続けてこんな話をしました。「中学校は誰でも入れますが、高校は試験を受けないと入れません。その意味に合わせて、会社にとって店頭公開を高校入学、さらに難しい大学入学を東証2部上場。東証1部は大学卒業と位置付けています。
私は中学校卒で学歴はありませんが、会社は東証1部に上場したい」と言いました。すると、会場から「ぜひ頑張ってください」と拍手が起こりました。その後、東証1部上場を果たしますが、なんと質問をした記者が花束を持って駆け付けてくれました。覚えていてくれてうれしかったですね。
若松 記者も組織の1人。うれしかったのでしょうね。社員を大事にする会社こそが、持続的な成長を遂げると証明されました。物流企業は人の成長と会社の成長が比例すると言っても過言ではありません。ただ、昨今は優秀な人材を採用するのは簡単ではありません。人材をどのように採用、育成されているのでしょうか。
大須賀 物流業界はとにかく人が集まりません。ですから、パート社員も含めて入社してくれた社員に活躍してもらうことが重要。まず大事なのは、社員に自信を持たせることです。自信がないと知恵も出てきません。
社員の能力は千差万別です。例えば、3人のチームの中に100点満点中、80点の仕事ができる人、50点の仕事ができる人、20点の仕事をする人がいるとします。チームとしては150点になる。この場合、普通は80点の仕事ができる人を大事にしますね。もちろん私も大事にしますが、最も伸び代を持っているのは20点の仕事をする人です。
ですから、私は「今は20点だけども、工夫すれば30点になる」と方法を教えます。そして、実際に30点になったら「すごい!」と認める。すると、自信が付いて「もっと頑張ろう!」と思い、何をすれば40点になれるかを考えるようになる。そこまで来ると、50点の仕事ができる人は、「自分は負けてしまうのでは…」と努力し始めて、60点が採れるようになる。80点、60点、40点。人は同じなのに、180点のチームに成長します。
若松 個人としての成長以上に、チームとしてのパワーを最大化させる「チームマネジメント」という教育観です。先ほども話されていましたが、物流はサプライチェーンの究極モデルです。そもそもチームワークなしにビジネスモデルは成り立ちませんし、チェーンのどこかが断たれると役割や価値を発揮できません。「全員参加」「日々収支」「コミュニケーション」などもそうですが、チームとしての経営を考えている大須賀会長の価値観に共感します。
大須賀 一方的に上司が部下に命令するのはコミュニケーションではありません。本人が分かる言葉で説いて教える「説教」が大事。また、全員を同じレベルにしようと取り組むと、みんな潰れてしまいます。そうではなく、それぞれの一番良い状態を引き出せればよいというのが私の考え方です。
現場改善能力を磨き持続的成長を目指す
若松 「荷物を運ぶ」から、「DXも含めて高付加価値なサービス」へと物流業界に対するニーズが高まっています。今後の展望についてお聞かせください。
大須賀 物流業界は今後、元請けと下請けに明確に二分化していくと思います。零細企業と大企業に分かれていく。そのような中で、当社は自前のサービスにこだわっていこうと考えています。
大手の物流企業の中には、コンペティションで3PLを受注しても外部業者に丸投げするところがありますが、当社は自力での運営が基本姿勢。最後の配送に関してはアウトソーシングする部分もありますが、お客さまの大事な商品を預かっている以上、社内できちんと管理する責任があります。それが当社の強みである「現場改善能力」の源泉でもあります。
また、コロナ禍が終われば、物流業界は深刻な人手不足になると予想しています。国内の人口減少に加えて、外国人技能実習生も減っている。経験したことのないレベルの人材不足を懸念しており、今からさまざまな手を打っています。
その1つの解決策が、ロボットやITを活用するDX戦略です。2020年12月には関東の物流センターでAGV(無人搬送車)を用いたGTP(歩行レスピッキング)を導入し、作業の省人化を実現するなどさまざまな取り組みを進めています。また、人手不足でも成長できる仕組みと環境をつくっておくことが肝要でしょう。仕組みや文化ができていれば、人が変わっても会社は続いていくと考えています。
若松 高度な仕組み化と企業文化によって、これからも物流業界のパイオニアとして新たな世界を切り開いていかれることを祈念しております。本日はありがとうございました。
ハマキョウレックス 代表取締役会長CEO 大須賀 正孝(おおすか まさたか)氏
1941年生まれ。中学校卒業後に働き始め、職を転々とした後、1971年に浜松協同運送(現ハマキョウレックス)を設立。トラック1台から業務を始め、1973年にはトラック台数20の運送会社に成長したが、第1次オイルショックで最大の取引先が倒産、経営危機に陥る。これを機に、毎日収支を把握する「日々収支」を開始しコスト管理を徹底。1993年には大手スーパーの物流センター業務を受注し、3PL事業に乗り出す。物流現場のパート社員が交代で班長を務める「日替わり班長制度」などの施策で収益力を強化。2001年に東証2部、2003年に東証1部に上場。2007年より現職。
タナベコンサルティンググループ タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず、大企業から中堅・中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。
PROFILE
- (株)ハマキョウレックス
- 所在地:静岡県浜松市南区寺脇町1701-1
- 設立:1971年
- 代表者:代表取締役会長CEO 大須賀 正孝
- 売上高:1188億7600万円(連結、2021年3月期)
- 従業員数:社員5080名、臨時雇用者8958名(連結、2021年3月現在)