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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2021.09.01

世界標準の経営理論。今こそ、夢や理想の未来を描く経営が会社を成長させる:早稲田大学 大学院 経営管理研究科 教授 入山 章栄氏× タナベコンサルティング 若松 孝彦

一時的な競争優位を連鎖して獲得する

 

若松 一般的に製品やサービスから未来を描きがちですが、目指すビジョンや実現したい世界、消費者の幸せから製品やサービスを導き出していくのが理想です。特に変化の激しい時代は、遠い未来から逆算して考えるバックキャスティング思考が欠かせません。

 

入山 私は「戦略は死んだ」と、過激な言葉を使ったりしますが、戦略論が全盛だった時代から環境は変化しています。

 

例えば、米・経営学者のマイケル・E・ポーター氏や米・経営学教授のジェイ・B・バーニー氏が提唱する「競争戦略論」では、会社が競争優位の波に乗って約10年間成長を続けることを目標に置きましたが、今はそうした勝ち筋はほぼありません。経営者の皆さんは感覚的に分かっているはずです。米国で2000年代前半に実施された統計分析によると、そうしたケースは全体の2.3%にとどまります。

 

若松 今の時代、競争優位を獲得してもすぐにライバルが出現して優位性は失われてしまいます。年々そのサイクルは短くなっていますし、業界もボーダーレスになっています。成長を続けるにはどうあるべきでしょうか。

 

入山 この統計分析では、“勝ったように見える会社”がたくさんあることも分かりました。競争優位を獲得した後、ライバルの出現などで下降傾向に陥るものの、踏ん張って新しい何かを手に入れて持ち堪える会社です。そのような会社は、落ちそうになるたびに新たな何かを生み出すといったように、小さな波を繰り返しながら成長を続けています。

 

すでに日本の企業も、「一時的な競争優位」を鎖のようにつなげていかないと生き残れない段階に入っています(【図表】)。時間をかけて立派な戦略をつくるよりも、どんどんチャレンジしていく時代に入ったと思います。

 

【図表】従来の競争優位と、今後必要とされる競争優位の違い

出所:入山章栄著『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)よりタナベ経営が作成

 

 

若松 そうした環境下では、能動的な「挑戦」を後押しするケーパビリティー(組織的能力)、チームアップやチームビルディングのスキルが重要になります。強いから勝つのではなく、勝つから強くなる。弱いから負けるのではなく、負けるから弱くなる。強い組織は、小さな成功体験を積み上げることで勝ちパターンをつくっていきます。

 

入山 その通りです。戦略以上に組織や人材がより大事になっていきます。あくまでも参考ですが、米国の著名な経営学者であるアルバート・カネラ氏の統計分析(2002年)によると、次の世代において利益率を上げられる経営者の最適な任期は14年でした。一方、国内を見渡すと、2年2期や3年2期など、トップの任期が10年に満たない大企業は少なくありません。

 

目立って実績を上げている企業は、結果を出していればトップの任期は長くても良いと私は考えています。その方が遠い未来を見通せますし、経営者自身がビジョンを腹落ちでき、社内にも腹落ちが広がる。そうなると、未来に向けてどんどんチャレンジできるようになると思います。

 

若松 私はよく、「『決定』と『決断』は違う」と言います。「決定」は情報がそろった状態で決める行為。一方、「決断」は情報不足の中で決める行為です。トップの仕事は、「過去やしがらみを断ち、決断すること」に集約されます。その際に必要な思考が、入山先生の指摘された「短期」と「長期」のバランスであり、冒頭にあった「腹落ち」なのです。

 

コロナショック後の大転換時代は、これまでの常識やルールが通用しません。そうした中、世界標準の経営理論は1つの指針となり、意思決定の助けになります。今回の対談は、経営者としても、コンサルタントとしても大変勉強になりました。本日はありがとうございました。

 

 

 

早稲田大学 大学院 経営管理研究科 教授 入山 章栄(いりやま あきえ)氏

1998年慶応義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て2008年に米・ピッツバーグ大学経営大学院で博士号(Ph.D.)を取得。同年から米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサー(助教授)。2013年に早稲田大学ビジネススクール准教授、2019年4月から現職。専門は経営戦略論および国際経営論。「Strategic Management Journal」「Journal of International Business Studies」など国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。主な著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか知られざるビジネスの知のフロンティア』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)。

 

 

タナベコンサルティンググループ タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)

タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず、大企業から中堅・中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。