未来に貢献する「ア・ス・フ・カ・ケ・ツ・ノ」事業
若松 大和ハウス工業の新規事業コンセプト「ア・ス・フ・カ・ケ・ツ・ノ」も、先見性の高い戦略キーワードです(【図表】参照)。「明日、不可欠の事業」。樋口会長は、こうした言葉選びがうまいですね(笑)。
樋口 アは安全・安心、スはスピード・ストック、フは福祉、カは環境、ケは健康、ツは通信、ノは農業を指します。この「ア・ス・フ・カ・ケ・ツ・ノ」が、21 世紀の社会に役立つ新規事業のキーワードです。
若松 全くの新規事業については、ベンチャー企業への出資も行っていらっしゃいます。
樋口 高齢化が深刻な問題になっており、その打開策の一つとしてロボットスーツが注目されています。当社は10 年ほど前から筑波大学発のベンチャー、サイバーダインに出資。総販売代理店として『ロボットスーツHAL® 福祉用』をリース販売しています。
また、大型リチウムイオン蓄電池の開発を行うエリーパワーにも出資。太陽光や水力、風力といった自然エネルギーで発電した電気をためて使うシステムを導入すれば、環境面で社会に大きく貢献することができます。
若松 事業や会社への出資を見極めるポイント、着眼点は何ですか。
樋口 経営者の人となりと技術の革新性です。そして、世の中の役に立ち、喜んでもらいたいという理念を共有できるかどうかも重要なポイントになります。
若松 大和ハウス工業は2010 年に新しいセグメンテーションへ移行されました。その資料を拝見すると、全く別の会社に生まれ変わり、脱皮したかのように感じます。
樋口 最近は業界という区分もだいぶ不明瞭になっていますね。大和ハウス工業は住宅業界に属していますが、戸建住宅事業の売上高比率は13.2%しかありません。(【図表2】参照)
若松 「祖業に固執せず、柔軟に事業を革新していく、変化の名人だな」と感心いたしました。
樋口 世の中が変化しているのだから、企業も考え方ややることを変えるべき。ヒントは人口動態をよく調べることです。日本の人口は約1 億2800万人※1で、安倍首相は『出生率を1.8 にアップして1 億人を下回らないようにする』とおっしゃっていますが、それを実現する体制はこれからです。
日本の人口は統計上、2100 年に約5000 万人※2を割り、江戸時代と同じレベルになるといわれています。結婚しない人が増え、仲間同士で近隣のマンションに住んで、盆や正月は一緒に海外旅行を楽しむようになる。そのように時代は刻々と変わっていくのです。
若松 すると、樋口会長は住宅業界の未来をどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。
樋口 現在は住宅の余剰ストックがあふれ、業界の状況はかなり厳しい。ただし、高齢者は増加し、一人暮らしも増えています。そこにチャンスを見いだせます。「世の中の多くの人の役に立ち、喜んでもらう」というキーワードのもと、そのような環境に対応する商品の開発に尽力し、海外市場の開拓も進めたいと考えます。
大和ハウス工業の戸建住宅事業の売上高比率は13.2%しかないと聞き、「変化の名人だな」と感心しました。若松 孝彦
リーダーに必要な「公平公正、無私、ロマン、使命感」
若松 最後に、全国の社長、リーダーに向けたメッセージをいただければと思います。社長業とはどのような仕事でしょうか。
樋口 私が自分に言い聞かせているのは、「上に立つ人間が持つべきは、公平公正、無私、ロマン、使命感」。それを企業のトップが持たないと、社員のモチベーションが上がらないからです。会社には営業担当者もいますし、技術担当者も、生産担当者もいます。そのような人たち一人ひとりが頑張りがいのある職場環境をつくるためには、トップの公平公正、無私な姿勢が不可欠。学歴や肩書で社員を評価するような管理職や役員が存在してはいけません。派閥がなく、実績に応じて地位も給料も上がる風土を築けば、上にごまをすることなく、部下とお客さまを見るようになるものです。加えて必要なのが、「世の中の役に立ち、多くの人に喜んでもらいたい」というロマン、使命感を抱き続けることですね。
グローバルな視点で捉えれば、売上高10 兆円以上の企業は約50 ~ 60 社です。約3 兆円規模の大和ハウスグループは、世界から見ればまだまだ“ 中小企業” です。3 兆円の売上高を達成できれば素直に喜んでもいいが、10 兆円という踏破すべき頂を見据えて「何が世の中の役に立ち、多くの人に喜んでもらえるのか」をこれからも追い求めていきます。それが、当社で永久欠番の肩書である「相談役」、石橋信夫の夢でもありますから。
若松 社長業としての原点を確認することができました。本日は誠にありがとうございました。