『パイプハウス』やプレハブ住宅の原点となった『ミゼットハウス』を開発し、「建築の工業化」の先駆者となった大和ハウス工業は2015年、創業60周年を迎えた。代表取締役会長・CEOの樋口武男氏は、創業100周年に売上高10兆円を達成すべく、新たな事業価値の創出に余念がない。未来へ向けた会社の在り方とリーダーの心構えを聞いた。
大和ハウス工業株式会社 代表取締役会長・CEO 樋口 武男(ひぐち たけお)氏1938年兵庫県出身。関西学院大学法学部卒業後、鉄鋼商社に入社するも事業家を目指し、厳しい修業を求めて63年大和ハウス工業に転職。常務、専務などを経て、93年多額の有利子負債に苦しむ関連会社の大和団地社長に就任。マンツーマンの対話から現場に「やる気」をみなぎらせ、2年目で黒字化、7年後には復配へと再建させる。2001年4月大和ハウス工業と大和団地の合併を機に社長就任。就任後は、大企業病の克服に注力し、バブル時代の負の遺産をすべて処理するために一時的に赤字へ転落するも、その後V字回復を果たし、同社を業界トップメーカーの地位に導く。04年4月代表取締役会長兼CEOに就任。著書に、人生の師と仰いできた創業者石橋氏への感謝の気持ちと二人で歩んだ日々が綴られている『熱湯経営「大組織病」に勝つ』や、『先の先を読め 複眼経営者「石橋信夫」という生き方』、『私の履歴書「凡事を極める」』など。
どんな事業が、どんな商品が、世の中の多くの人の役に立ち、喜んでいただけるかをベースに考えるべき。私はそれを忠実に行っているだけです。樋口 武男氏
理念に合った変化を促し基軸となる人財を育てる
若松 石橋氏は「世の中に必要とされるものを事業にする」と宣言されました。大和ハウス工業の事業の原点は、そこにあると感じます。 樋口 「何をしたら儲かるか」という発想では駄目です。どんな事業が、どんな商品が、世の中の多くの人の役に立ち、喜んでいただけるかをベースに考えて事を興すべき。私はそれを忠実に行っているだけです。 若松 事業の原点は「世の中のためになる」ということですが、これだけ大きな規模の企業グループですから、事業構造も成長に伴って変革されてきたわけですね。 樋口 世の中は変わる。人の生活も変わる。だったら、一歩先の変化を先取りするような経営をしていくべきです。当社の場合、変化の方向性が「世の中の人の役に立ち、喜んでもらえる」というキーワードに適合しているかどうかを吟味することが私の使命です。 若松 事業の軸足となる「本業」と、変化としての「多角化」を、どのように関連付けてこられたのですか。 樋口 どんなに会社が大きくなろうとも、事業が変わっていこうとも、基軸になるのは人。人を育てないと、会社に未来はありません。サステナブルな成長を目指し、幹部となる人財を育成しようと努めています。 若松 それが「大和ハウス塾」ですね。 樋口 そうです。講師は外部から起用し、私は中間発表と最終発表を聞いて講評します。最終発表の前に参加者全員と面談し、「この人財は」と思った人物にはポジションとチャンスを与えています。私も石橋オーナーからのテストを何度も受けました。大和団地の再建は最終テストだったと思っています。1993 年、大和ハウス工業の専務を務めていたときに石橋オーナーに呼ばれ、「大和団地がこんな状態やねん」と打ち明けられました。そして「この会社は私がつくり、一部上場にまでさせた。つぶすわけにはいかん。再建に当たってくれ」と頼まれましたが、新聞でも“ 泥舟” と書かれた会社。「そんな力はありません」とお断りしたら、ものすごい剣幕で怒られました。石橋オーナーに本気で怒られたのはそれ1 回きりです。 若松 大和団地の社長に就任し、現場に「やる気」をみなぎらせて、2 年目で黒字化、7 年後には復配を達成し、見事に再建されました。 樋口 石橋オーナーの言葉に「勘は先で、理論は後」があります。現場を踏んできた人間の勘を重視するという、現場主義者の石橋オーナーらしい考えです。私もそれに忠実に従いました。当時のスローガンは「サナギからスタート」。SANAGIのS(スピーディに)、A(明るく)、N(逃げず)、A(あきらめず)、G(ごまかさず)、I(言い訳せず)をキーワードに、徹底した現場主義を貫くことで、なんとか最終テストに合格することができました(笑)。 未来に貢献する「ア・ス・フ・カ・ケ・ツ・ノ」事業
【図表】21 世紀の世の中の役に立つ新規事業のキーワード
若松 大和ハウス工業の新規事業コンセプト「ア・ス・フ・カ・ケ・ツ・ノ」も、先見性の高い戦略キーワードです(【図表】参照)。「明日、不可欠の事業」。樋口会長は、こうした言葉選びがうまいですね(笑)。
樋口 アは安全・安心、スはスピード・ストック、フは福祉、カは環境、ケは健康、ツは通信、ノは農業を指します。この「ア・ス・フ・カ・ケ・ツ・ノ」が、21 世紀の社会に役立つ新規事業のキーワードです。
若松 全くの新規事業については、ベンチャー企業への出資も行っていらっしゃいます。
樋口 高齢化が深刻な問題になっており、その打開策の一つとしてロボットスーツが注目されています。当社は10 年ほど前から筑波大学発のベンチャー、サイバーダインに出資。総販売代理店として『ロボットスーツHAL® 福祉用』をリース販売しています。
また、大型リチウムイオン蓄電池の開発を行うエリーパワーにも出資。太陽光や水力、風力といった自然エネルギーで発電した電気をためて使うシステムを導入すれば、環境面で社会に大きく貢献することができます。
若松 事業や会社への出資を見極めるポイント、着眼点は何ですか。
樋口 経営者の人となりと技術の革新性です。そして、世の中の役に立ち、喜んでもらいたいという理念を共有できるかどうかも重要なポイントになります。
若松 大和ハウス工業は2010 年に新しいセグメンテーションへ移行されました。その資料を拝見すると、全く別の会社に生まれ変わり、脱皮したかのように感じます。
【図表2】大和ハウス工業の2014 年度事業別売上高構成比(%)
樋口 最近は業界という区分もだいぶ不明瞭になっていますね。大和ハウス工業は住宅業界に属していますが、戸建住宅事業の売上高比率は13.2%しかありません。(【図表2】参照)
若松 「祖業に固執せず、柔軟に事業を革新していく、変化の名人だな」と感心いたしました。
樋口 世の中が変化しているのだから、企業も考え方ややることを変えるべき。ヒントは人口動態をよく調べることです。日本の人口は約1 億2800万人※1で、安倍首相は『出生率を1.8 にアップして1 億人を下回らないようにする』とおっしゃっていますが、それを実現する体制はこれからです。
日本の人口は統計上、2100 年に約5000 万人※2を割り、江戸時代と同じレベルになるといわれています。結婚しない人が増え、仲間同士で近隣のマンションに住んで、盆や正月は一緒に海外旅行を楽しむようになる。そのように時代は刻々と変わっていくのです。
若松 すると、樋口会長は住宅業界の未来をどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。
樋口 現在は住宅の余剰ストックがあふれ、業界の状況はかなり厳しい。ただし、高齢者は増加し、一人暮らしも増えています。そこにチャンスを見いだせます。「世の中の多くの人の役に立ち、喜んでもらう」というキーワードのもと、そのような環境に対応する商品の開発に尽力し、海外市場の開拓も進めたいと考えます。
大和ハウス工業の戸建住宅事業の売上高比率は13.2%しかないと聞き、「変化の名人だな」と感心しました。若松 孝彦