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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2018.09.19

時代を感じ、現場を見つめ、商機に変える経営哲学 ハイデイ日高 代表取締役会長 神田 正氏

 

消費者の心をつかむ「ちょい飲み」

 

若松 それにしても、会長は世の中を非常によく見ていらっしゃいます。ここ数年、日高屋が提唱する「ちょい飲み」というキャッチフレーズも、時代の変化を鋭く射抜いています。

 

神田 「ちょい飲み」も、発想は同じです。昔は、給料日になると終電時間まで目いっぱい飲む人が大勢いました。給料日の翌日は駅周辺を掃除しなければならないほどでしたが、今では掃除することがぐっと減りました。給料日に目いっぱい飲むというより、毎日軽く飲んで家に帰る人が増えていますから、「ちょい飲み」がちょうどよい。大宮は単身赴任で来ている証券会社の社員や銀行員が特に多い地域ですが、そういう方々に「日高屋は転勤族に絶対必要な店」と言っていただいています。家に帰って1人で飲むのは味気ないですからね。

 

若松 つまみになるメニューも充実していますし、1000円程度でビールとつまみが頼める価格設定も単身赴任者のニーズに合っています。

 

神田 お客さまから飽きられないように、社長(高橋氏)がさまざまなメニューを開発してくれて、とても助かっています。企業は、1人では大きくできません。

 

若松 チームの力ですね。それぞれの強みが集まることで、より大きく成長していく好例です。新業態の「焼鳥日高」はすでに24店舗に広がっています。今後は上場も視野に入れて拡大されていくのでしょうか?

 

神田 焼き鳥店を始めたきっかけは社員の福利厚生です。主力のラーメン店は重労働ですから、働き盛りを超えた社員のために、比較的に軽作業で運営できる新業態を始めました。実際にやってみると、立ち飲みスタイルは立地によっては大きなニーズを秘めており、上場も夢ではないと考えています。

 

若松 軽く飲みたい時など、立ち飲みは私も好きなスタイルです。消費者の立場から見ても、立ち飲みのニーズに応える業態として焼き鳥はとてもマッチしています。

 

神田 同様の店には儲けのためにビールの値段を上げる店が多いですが、このビジネスで大事なことは安くすること。ビールはどこの店で飲んでも同じ味ですからぐっと値段を下げて、その分、おいしいつまみを開発して付加価値を付けていくのが良い戦略だと私は思います。

 

若松 味が同じビールは価格で差別化を図る一方、つまみは味で差別化して付加価値を高めていく。払う金額が同じくらいなら料理がおいしい方を消費者は選びますから、今後も広がっていくでしょう。

 

神田 「大衆酒場HIDAKA」を今年(2018年)7月に開店しました。昭和初期の感じをイメージして、ちょうちんには「めしと酒」。600店舗規模になると店舗がバッティングしてきますが、業態を変えれば既存店の近隣へ出店が可能になります。競合の出店から防衛する意味でも、店舗数を増やしていこうと考えています。

 

若松 大衆酒場なのに、あえて「HIDAKA」というローマ字表記をするところなど、遊び心が詰まっていて魅力を感じます。ミスマッチにすることで、世代によっては懐かしく感じたり、新しさを感じたりできるところが面白い。「ちょい飲み」もしかり、会長のネーミングにはブランド化できる力があります。

 

 

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日高屋を大きくしてくれた社員にまず恩を返したい。

 

社員を大事にする当たり前の経営に徹する

 

若松 既存店に加えて新業態の成長も大いに期待されますから、目標に掲げる600 店舗の達成も遠くないでしょう。会長は一代で国内屈指の外食チェーンを築かれましたが、経営者として大事にすることは何でしょうか?

 

神田 時代は回っていますから長く続くかは分かりません。ただ、能力のない私がここまでこられたのは社員のおかげです。ですから近々、頑張ってくれた社員に私の株を進呈したいと思っています。例えば、10億円であれば100万円ずつを1000人に渡すことができます。社会貢献として学校や病院を建てる経営者を立派だと思いますが、私は日高屋を大きくしてくれた社員にまず恩を返したい。それが順序だと考えています。

 

若松 会長の気持ちが行動からも伝われば、社員はうれしいでしょうね。「人を大切にする」と言う経営者は多いものの、行動となるとなかなか難しいものです。

 

神田 当社の勤務時間が朝9時から夕方5時までという、一般的な企業の形だったらこのようなことは考えなかったかもしれません。ただ、実際に社員が朝まで店舗を営業して、大変な思いをしながらここまで会社を大きくしてくれました。だから、返すのは当たり前です。自然なことだからちっとも良いことをしている感覚はありません。

 

若松 直接の目的ではありませんが、社員のモチベーションが上がれば顧客にも喜ばれ、業績はさらに上がります。上場企業として株価が上がれば、社員が豊かになって幸せになる好循環につながっていきます。

 

神田 「お金を儲けよう」ではなく、「一緒に働いている人を幸せにしよう」と思って働くと、会社は大きくなって儲かっていくもの。今の業績は当たり前のことを続けた結果です。当たり前のこととは、社員を大事にすること。もちろんパート社員も大事にする。当社は、パート社員にも賞与がありますし、年に1度は感謝祭としておいしいものを食べてもらいます。そして、お客さまに感謝すること。私は、田舎から出てきてラーメン店を始めたこともあって、お客さまに来ていただけることが本当にありがたい。この思いは社員にも共有されていますし、顧客を大事にする姿勢が企業文化として根付いています。今は組織の規模が広がる中、この当たり前の経営をきちんと残していくことが課題だと感じています。

 

若松 タナベ経営の創業者・田辺昇一は生前、「儲かるは道、儲けるは欲」とよく言っていました。会長のお話を聞いていると、その言葉がよみがえってきました。変わらない当たり前の経営と、時代の流れを読む新しい挑戦で、ますますのご活躍を祈念しております。本日はありがとうございました。

 

 

㈱ハイデイ日高 代表取締役会長 神田 正(かんだ ただし)氏
1941年、埼玉県生まれ。中学卒業後、本田技研工業などに勤めた後、ラーメン店で働く。1973年に大宮市(現・さいたま市)内にたった1人でラーメン店「来来軒」(当時の名前は「来々」)を開店。1978年に日高商事( 現・ハイデイ日高)を設立、代表取締役社長に就任。1984年に大宮市にセントラルキッチンを開設、業界の常識を覆す「職人不要のラーメン店」づくりに着手。1993年に都内1号店を出店。1999年、ジャスダック(現・東証JASDAQ)に上場。2005年に東証2部、2006年に東証1部に上場。2009年代表取締役会長に就任。

 

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ・たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

 

PROFILE

  • ㈱ハイデイ日高
  • 所在地:〒330-0846 埼玉県さいたま市大宮区大門町 3-105 やすなビル6F
  • TEL:048-644-8030
  • 設立:1978年
  • 資本金:16億2536万円
  • 売上高:406億4300万円(2018年2月期)
  • 従業員数:872名、パート・アルバイト社員約8600名(2018年5月現在)
  • 事業内容:飲食業
    「日高屋」「焼鳥日高」「来来軒」
    http://hidakaya.hiday.co.jp/