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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2018.07.31

社員が持つポテンシャルの最大化は会社の責任 ジョンソン・エンド・ジョンソン 代表取締役社長 日色 保氏

ボトムアップでダイバーシティーを推進

 

若松 イノベーションを起こす観点からも、ダイバーシティーの推進は日本企業の喫緊の課題です。J&Jは、日本経済新聞と日経ウーマンがまとめた2018年版「女性が活躍する会社BEST100」の第1位に選ばれたほか、ダイバーシティー関連の賞を数多く受賞されています。クレドーの第二に社員への責任が明記されていますが、ダイバーシティーにはどのような価値観と方針で取り組まれているのでしょうか。

 

日色 J&Jに“ダイバーシティー推進部”はありません。そもそも創業時にいた社員14名のうち8名が女性だったこともあって、女性活躍の歴史は長いですよ。ダイバーシティーを推進してきたのは、ERG(エンプロイー・リソース・グループ)という社員による自発的なボランティア活動であり、1907年に最初にできたグループが女性の会でした。日本でも15年以上前にWLI(ウィメンズ・リーダーシップ・アンド・インクルージョン)が誕生。WLIは経営陣に活動内容を報告し、われわれは予算を出しますが「KPIはどうなっているの?」などと活動に口出しをしてはいけません(笑)。こうした社員の草の根活動によって、ほとんどの制度がつくられています。

 

若松 上からの押し付けでなく、ボトムアップでダイバーシティーが推進されてきたことが、大きな成果につながった背景と言えそうです。

 

日色 これもクレドーに基づいています。クレドーに掲げられている社員への責任を一言で言うなら、「持っているポテンシャルを最大限発揮してもらう」こと。われわれはそのための環境づくりやトレーニングなどについて常に考えています。社員と会社との間での確固たる信頼関係を「エンゲージメント」(深い結び付き)と呼んでいますが、エンゲージメントレベルが高い人材が集まると会社は成長します。また、イノベーションを生むのは新しいアイデアですから、一人一人が自由な発想で挑戦できる環境でないとイノベーションは起こりません。女性が活躍できる環境づくりは、一人一人のポテンシャルを最大限引き出す意味においても大事なことです。

 

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J&J東京本社のエントランスに掲げられた「我が信条(Our Credo)」の全文。企業理念・倫理規定として、世界各国の企業における事業運営の中核となっている

 

 

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一人一人が自由な発想で挑戦できる環境でないとイノベーションは起こりません。

 

 

 

経験が人を伸ばしリーダーシップを育む

 

若松 社員のエンゲージメントのレベルを高めるために、日色社長が心掛けていることは何ですか。

 

日色 私の仕事は部門長やリーダーにエンパワーする(権限を与える)ことで、指示・指導することではありません。すでにリーダーはいますから、彼ら・彼女らが仕事をしやすいように環境を整えたり、アドバイスしたりするのが私の仕事。また、クレドーに意識付けをし続けることも経営者の重要な仕事だと考えています。

 

若松 J&Jがリーダーに求める資質とはどのようなものなのでしょうか。

 

日色 そもそも、マネジャーとリーダーは似て非なるもの。成り立ちからしても、マネジメントが「管理」なのに対して、リーダーシップは「責任」です。つまり、マネジャーは管理が仕事ですが、リーダーに求められるのは変化をドライブすること。特に、前提条件さえ変わる今の時代は、過去の経験に捉われずにドライブできるリーダーが必要です。人を育てる観点で言えば、従来の「What(何を)」「How(どのように)」だけでなく、「Why(なぜ)」がリーダーには必要です。部下のエンゲージメントを高めるには、目標や手段だけでなく「なぜ、この仕事に取り組むのか」という理由を伝えることが必要です。また、リーダーは部下を個人として気に掛けて感謝し、認めることが大事。インスピレーション(気づき)を与えて部下の成長を促すインスピレーショナル・リーダーシップによって、個人のモチベーションが上がればチームとしても成果が上がっていきます。

 

若松 人材を育てる上で日色社長が導入した仕組みはありますか?

 

日色 J&Jの経営は分権型です。特に、クレドーにおいて優先順位の高い部分、つまり現場に近いところはリーダーが判断すべきだと私は考えています。ただ、かつては完全な分権組織のために部門間の交流が少なかった点は変えました。私自身、さまざまな経験をしたおかげで力が付いたと考えていますから、同じように社員にも経験してもらいたい。特に、女性には結婚や出産などのライフイベントを迎える前に2つ、3つの仕事を経験してもらい、仕事の面白さを実感してほしいと思います。その経験があると、また仕事に戻ってきてくれますから。本社、人事、マーケティングなど、グループ会社を含めた複数領域で経験を積むことでキャリアを構築する「キャリア・ラティス」のコンセプトは、そのような思いから作りました。

 

若松 日本では会社の規模が大きくなるにつれて、下積みのような仕事をする期間が長くなりがちです。社員の力を最大化するための仕組みづくりは、人材不足の中で特に経営者が意識すべき部分です。最後に日色社長が目指す会社とはどのようなものか、お聞かせください。

 

日色 私はいつも「ファースト・チョイス」(一番に選ばれる)の会社でありたいと言っています。お客さまからもファースト・チョイス、社員からもファースト・チョイス、仕事を探している人や地域社会、投資家からも、一番に選んでいただける会社であり続けたいと考えています。

 

若松 最初に声を掛けられる企業でなければ、生き残ることはできません。共感します。ボトムアップで進化を遂げるJ&Jの経営は、多くの企業のモデルであり続けますね。本日はありがとうございました。

 

ジョンソン・エンド・ジョンソン㈱ 代表取締役社長 日色 保(ひいろ たもつ)氏
1988年静岡大学卒業後、ジョンソン・エンド・ジョンソンに入社。医療機器の営業、米国での勤務を経験し、マーケティング、トレーニングを担当。その後、外科用器材部門と糖尿病関連事業部門の事業部長を経て、2005年にグループ会社であるオーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス社長に就任し、08年にはアジアパシフィックの事業も統括。10年にジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニー成長戦略担当副社長を経て12年1月より現職。

 

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ・たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院 (経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

PROFILE

  • ジョンソン・エンド・ジョンソン㈱
  • 所在地 :〒101-0065 東京都千代田区西神田3-5-2
  • TEL:
    コンシューマー カンパニー:03-4411-7100
    メディカル カンパニー:03-4411-7200
    ビジョンケア カンパニー:03-4411-7500
  • 創業:1961年
  • 資本金:80億円
  • 売上高:743億3100万ドル(2016年、米国本社)
  • 従業員数:2394名(2017年12月31日現在)
  • 事業内容:総合医療・健康関連用品の輸入・製造販売
    https://www.jnj.co.jp/