100年経営対談
2018.05.31
人材の多様性が会社を強くする 首都大学東京 大学院 経営学研究科 教授 松田 千恵子氏
企業規模が拡大するにつれて進んでいく組織の官僚化。社内を活性化させて企業価値を向上させる組織デザインはどのようなものか?金融業界での実務経験をはじめ、アナリスト、外資コンサルティングファームのパートナー、社外取締役の経歴を持ち、企業戦略に精通する首都大学東京大学院の松田千恵子教授に、日本企業の課題と改革のポイントを伺った。
新しい価値観を模索するためにも、「違うことを考える頭」がたくさんあった方が有利です。
ダイバーシティーが競争優位性を生む
若松 若手社員だけでなく、女性や外国人、障がいを持つ方など、多様な人材の活用は企業にとって大きな課題です。ダイバーシティーに取り組む企業が増えていますが、先生は現状をどのように感じていらっしゃいますか?
松田 企業にとって多様性が大事なのは基本ですから、どんどん推進していただきたいと思います。ただ、今はダイバーシティー=女性活用になってしまっている点は残念ですね。ダイバーシティーは女性だけではなく会社全体の問題です。ダイバーシティーを推進する部署の責任者に象徴として女性を登用するよりも、むしろ会社にとって花形部署のエース人材を選んでほしいと思います。社内の注目度が高まりますし、会社の本気度が社員に伝わります。また、日本企業における一番のダイバーシティーは中途採用社員です。自前主義がまだまだ強いですが、第三者の目を持った人材が身内になって働いてくれるメリットは計り知れません。これも、ほんの数名入れる程度ではダメですが、一定割合を超えると会社が大きく変わっていきます。
若松 タナベ経営では新卒と中途の採用がほぼ半々ですが、中途採用社員は一人一人違った経歴や知見を持っていますから話していても発見が多くて飽きません。その中から新しいアイデアが生まれることも多々あります。中途採用社員が増えていくと、ダイバーシティーが進んでいくことは間違いありませんね。
松田 もう1つ。「出戻り社員」についても強くお勧めしたいですね。何か問題があって退社された方は別ですが、外で武者修行をしたり新たな知識やスキルを身に付けたりした人材は喜んで採用すべきだと思います。
若松 なるほど。自社のことをよく知る客観的な目を持った貴重な人材と言えます。現状は、働き方改革の一環としてダイバーシティーに仕方なく取り組んでいる企業もありますが、私は顧客の価値の変化に会社の構造を合わせていく意味でも、必要だと考えています。現在、あらゆるマーケットにおいて女性消費者の影響力が大きくなっていると感じています。消費マーケットの要請、顧客価値への対応の観点からも必要なのだと。残念ながら「男性限定マーケット」は縮小しています。クルマ、パチンコ、スナックなどですね(笑)。だからこそ、女性活躍が重要なのだと、私は提言しています。女性管理職を何人にするなどの目標数値も必要なのですが、それ以上に経営の現実が変化してきています。
松田 人類の歴史は「蒐集」の歴史であり、資本主義は蒐集するのに最も効率的なシステムであったといわれます。一般的な言葉で言えば「所有」に対する欲望ですね。女性に比べて男性は所有欲が強いともいわれますが、「マイ」ホームや「マイ」カーなどに象徴されるように、所有欲が経済を成長させる1つの原動力だったことは確かです。しかし、この流れがそろそろ終わりを告げていることは、シェアリングエコノミーが広がっていることからも明らかです。所有欲を前提として成り立っている産業はこれから大変でしょう。そうした前提から抜け出して新しい価値観を模索するためにも、「違うことを考える頭」がたくさんあった方が有利です。ダイバーシティーが競争優位性の一環というのは、おっしゃる通りです。
若松 シェアリングエコノミーなどの価値観の変化に気付く感覚は、企業のものづくりや意思決定の鍵になります。ですが、社内の人材が偏っていると感覚は鈍ってしまうもの。多様性が会社の強みとなって高度なサービスを提供できるように、私たちも本質を追求していきたいと思います。本日はありがとうございました。
首都大学東京 大学院 経営学研究科 教授 松田 千恵子(まつだ ちえこ)氏
東京外国語大学外国語学部卒業。仏国立ポンゼ・ショセ国際経営大学院経営学修士。筑波大学大学院企業科学専攻博士課程修了。博士(経営学)。日本長期信用銀行、ムーディーズジャパン格付けアナリストを経て、コーポレイトディレクションおよびブーズ・アンド・カンパニーでパートナーを務める。2006年にマトリックス株式会社設立。11年より現職。企業経営と資本市場に関わる豊富な経験を生かし、企業の経営戦略構築・中期計画立案支援、グループ経営、コーポレートガバナンス、情報開示、M&A支援などに関するアドバイザリー、研究および教育を行う。日本CFO協会主任研究委員。公的機関、上場企業の社外役員などを務める。主な著書に『格付けはなぜ下がるのか?大倒産時代の信用リスク入門』(日経BP社)、『戦略的コーポレートファイナンス』『成功するグローバルM&A』(以上、中央経済社)、『グループ経営入門』(税務経理協会)、『これならわかるコーポレートガバナンスの教科書』(日経BP社)、『コーポレートファイナンス実務の教科書』(日本実業出版社)など。
タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ・たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院 (経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。