ビジネスモデルイノベーション研究会では、「イノベーションと成長に向けた戦略的融合」をテーマに、さまざまな分野における秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問する。そのビジネスモデルを構築している経営者・経営幹部の方から直接講義いただくとともに、現地視察を通してビジネスの現場に、経営転換を「体感」する機会を提供している。
第3回は大阪で開催し、ポンプ技術を核に、脱炭素、水害対策、水不足、予兆保全といった社会課題を事業機会へ転換する酉島製作所の取り組みを学んだ。製品販売にとどまらず、省エネ提案やデータ活用型サービスへ事業領域を広げる同社の実践は、製造業の成長モデルを考える上で示唆に富む内容であった。
開催日時:2026年6月17日(大阪開催)
はじめに
酉島製作所は、1919年創業のポンプメーカーであり、発電、海水淡水化、上下水道、排水、防災、灌漑など、水と電気に関わる社会インフラを支えてきた企業である。国内外に生産・販売・サービス網を展開し、グローバル市場でも高い技術力を発揮している。
講演では、同社が長年培ってきたポンプ技術を基盤に、脱炭素、水害対策、水不足・食料不足、設備保全の高度化といった社会課題にどのように向き合ってきたかが共有された。特に、スーパーエコポンプによる省エネ提案、耐水モーター一体型ポンプによる減災対応、回転機械モニタリングシステム「TR-COM」による予兆保全は、製品単体で競争するのではなく、顧客の経営課題や社会課題の解決へと価値を広げる実践例である。単なる技術開発や製品改良にとどまらず、自社固有の技術を社会課題に接続し、新たな成長市場を切り開いている点に、酉島製作所のビジネスモデルイノベーションの本質がある。

本社工場ビル。部門の壁を取り払った「ボーダレス・プレイス」として2021年に竣工した
(出所:酉島製作所コーポレートサイトより)
社会課題を起点に勝てる市場を発見し、事業領域を拡大する
酉島製作所の強みは、ポンプというコア技術を磨き続けながら、その技術を起点に、脱炭素、水不足、防災、食料問題といった社会課題へ事業領域を広げている点にある。海水淡水化プラント向けの高効率ポンプでは中東市場で高いシェアを獲得しており、地理的なハンディキャップがある中でも、同社は価格ではなく「性能」で勝負してきた。また、エジプトの大規模灌漑プロジェクトや液化水素ポンプの開発にも取り組み、将来市場へと技術の応用範囲を広げている。単にポンプを売るのではなく、社会インフラを支える価値の中に自社技術を位置づけている点が同社の成長ポイントだ。

酉島製作所のポンプが支える社会インフラ
(出所:酉島製作所コーポレートサイトより)
製品販売から「成果」提案へ、顧客価値を見える化する
新たな価値創造を実現するためには、優れた製品を開発するだけでは不十分であり、その価値を顧客が理解し、投資判断できる形に翻訳することが必要である。
同社は、ポンプのライフサイクルコストの約90%が電力費であることに着目し、2009年から「ポンプ de エコ」を展開してきた。既設ポンプと提案ポンプを比較し、年間消費電力量、電力料金、CO2削減量を具体的に示すことで、顧客の投資判断を後押ししている。
さらに、省エネの専門家である「エコアドバイザー」が、講習会、現地調査、測定、提案書作成、導入後の効果検証までを支援する。優れた製品を開発するだけでなく、その価値を顧客成果として伝える仕組みを持っていることが、同社のビジネスモデルを進化させた要点である。

(学びのポイント2関連画像)
「省エネ大賞」の最高位「経済産業大臣賞」を受賞した「スーパーエコポンプ」
(出所:酉島製作所 コーポレートサイトより)
売り切り型からライフサイクル型へサービスモデルを転換する
回転機械モニタリングシステム「TR-COM」は、同社のサービスモデルを象徴する取り組みである。従来、ポンプや回転機械の異常検知は、熟練保全員の経験に頼る面が大きかった。しかし、人材不足や技術伝承の難しさが深刻化する中、属人的な保全体制には限界がある。同社は、振動センサー、データ取得アプリ、クラウドを組み合わせ、設備状態をデータで把握する仕組みを構築した。異常検知にとどまらず、メンテナンス時期や部品交換のタイミングを予測し、顧客の計画保全を支援している。
単に「ポンプを売る」のではなく、納入後のメンテナンスに新たな価値を加えることで、持続的な送水や水害防止、食料生産、次世代エネルギーの活用といった付加価値の創出にも寄与している。製品を納めて終わるのではなく、設備の安定稼働を支える価値まで提供していることが、新たな競争優位となっている。同社の取り組みは、ハード中心のビジネスを顧客価値起点のサービスモデルへ進化させた好事例である。

酉島製作所 取締役 専務執行役員 産業本部長 兼 サポート本部長 及び 社会システム本部管掌