ビジネスモデル イノベーション研究会では、「イノベーションと成長に向けた戦略的融合」をテーマに、さまざまな分野における秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問する。そのビジネスモデルを構築している経営者・経営幹部の方から直接講義いただくとともに、現地視察を通してビジネスの現場に、経営転換を「体感」する機会を提供している。
第2回では、新潟開催の視察・講義を通じて、グローバルニッチトップ戦略、両利きの経営、そして技術を核とした有機的な事業連携の在り方を学んだ。とりわけ有沢製作所の実践は、既存事業の深化と新領域の探索を両立させながら、自社固有の強みを磨き続けることの重要性を示しており、中堅・中小企業にとっても経営転換の示唆に富む内容であった。
開催日時:2026年4月22日(新潟開催)
はじめに
有沢製作所は、1909年創業、東証プライム上場の素材メーカーであり、電子材料、産業用構造材料・電気絶縁材料、ディスプレイ材料を事業分野として展開している。同社は長い歴史の中で、「織る」「塗る」「形づくる」という要素技術を磨き上げ、それらを組み合わせることで多様な製品・市場へと事業を拡大させてきた。
講義では、技術基盤の上に、リブランディング、小型塗工機「ai-coater」の活用、「ARISAWA Innovation Center」の整備、カーボンニュートラル推進、社内情報インフラの高度化といった取り組みを重ね、次なる成長に向けた経営基盤を再構築している姿が共有された。単なる設備更新や制度導入ではなく、企業価値そのものを再編集しようとする一連の実践にこそ、有沢製作所の経営転換の本質がある。

有沢製作所のコーポレートロゴ「ARISAWA TRIANGLE」のコンセプト
3つの独自技術「織る」「塗る」「形づくる」をピンク・グリーン・ブルーで表現し、企業理念にまつわる上越の自然や情熱・調和・先進性になぞらえて作成された
(出所:有沢製作所提供)
コア技術を再定義し、勝てる市場へ展開することで成長の起点をつくる
有沢製作所の特徴は、事業を製品群の集合としてではなく、「織る」「塗る」「形づくる」という要素技術の集合として捉えている点にある。技術をこのように捉え直すことで、既存分野の中で強みを深めるだけでなく、異なる用途や市場への展開可能性が生まれる。
実際に同社は、長年蓄積してきた素材・加工の知見を土台にしながら、多様な分野へと事業を広げてきた。その動きは、単なる多角化ではなく、自社が本質的にどんな価値を提供できる企業なのかを見極めた上で、勝てる市場を定義し直していく営みと言える。
市場環境が大きく変化する時代においては、今ある製品の延長だけで将来を描くことは難しい。一方で、自社技術の本質を理解し、それを新たな顧客課題に結び付けることができれば、既存事業の深化と新市場の探索は対立せず、むしろ相乗効果を生み出す。成長とは新しいものをゼロから足すことではなく、自社が持つ強みの意味を更新し続けることによって実現されるのである。

有沢製作所のテクノロジーの進化(出所:講演資料より)
オープンイノベーションは、「場」と「仕組み」の設計によって加速する
新たな価値創造を継続的に生み出すためには、挑戦を奨励するだけでは足りず、挑戦が起こる環境そのものを企業の中に組み込むことが必要である。
有沢製作所では、リブランディングによって自社の方向性や存在意義を社内外に示すとともに、小型塗工機「ai-coater」によって開発初期の試作スピードと顧客との共同検証の質を高めている。さらに「ARISAWA Innovation Center」の整備は、単なる新施設建設ではなく、異なる知見や発想が交わり、新しいテーマが立ち上がる接点を増やすための基盤づくりとして位置付けられる。
イノベーションは個人の発想力だけで生まれるものではなく、部門、顧客、外部機関など、これまで分断されがちであった主体同士が出会い、試し、対話し、修正できる状態があって初めて具体化する。言い換えれば、共創を実現する企業とは、偶然のひらめきを待つ企業ではなく、知と技術が交差する構造を意図的に設計している企業である。今回の内容は、オープンイノベーションを理念で終わらせず、実際の行動と成果へ変えるには何が必要かを明確に示していた。

実験用小型塗工機「ai-coater」
(出所:有沢製作所提供)
持続的な競争優位は、環境対応と現場基盤の磨き込みによって支えられる
企業の成長を語る際には、新製品や新市場への展開が注目されやすい。しかし実際には、そうした攻めの取り組みを支えているのは、環境対応、品質意識、現場運営力といった、目立ちにくい基盤の強さである。
有沢製作所は2030年までのカーボンニュートラル達成に向けて、「エネルギー利用効率の改善」「低炭素製品の開発」「再生可能エネルギーの利用」という三本の矢を掲げ、事業活動そのものの持続可能性を高めようとしている。ここで重要なのは、環境対応を社会的要請への対応として受動的に捉えるのではなく、将来の顧客価値や事業競争力に関わる経営課題として正面から位置付けている点である。
さらに、日々の業務運営においても、情報共有の迅速化、判断プロセスの可視化、現場データの活用を進めることで、変化に対応しやすい組織体質の構築を図っている。すなわち、競争優位とは画期的なテーマを掲げることだけで成立するものではなく、それを着実に遂行できる現場の精度と継続力があって初めて現実の成果へつながる。未来志向の戦略と足元の運営基盤を同時に鍛え続けることが、持続的成長の条件であることを改めて認識させられる内容であった。

2025年9月に完成した「ARISAWA Innovation Center」(出所:有沢製作所提供)
株式会社有沢製作所 常務執行役員